49 永遠の海
探索を終え、藤原の指示を待っていると、先程まで八坂が隠れていた戦車の中で、なにやら神谷がごそごそとしているのに気づいた。
何かいらぬことをしているのではなかろうかと心配になった杉野が戦車によじ登って中を覗いてみると、神谷が自分の鞄に戦車の砲弾を詰め込もうとしている現場を目撃してしまった。
「ちょっ――何やってんの!? 持ち主いなくても、勝手に持っていったら泥棒になっちゃうよ!」
「大丈夫でありますよ。こんな、人里離れた無人島でバレるわけないですし」
神谷はそう言って、砲弾を詰め込む作業を再開する。
「まったく、坂田さんもなんとか言ってやってくださいよ!」
「あぁ、なんだぁ? なんか、あったのか?」
杉野に呼ばれた坂田が戦車によじ登ってきた。
砲弾を拝借しようとしている神谷を一目見て、呆れた様子で近づく。
「あーあー、何やってんだ。そんなんじゃ、入らないっつーの。もっと、鞄の中にスペースを作ってだなぁ」
自分の代わりに叱ってくれると思いきや、逆に砲弾を詰め込む手伝いを始める坂田に呆れ、杉野はそれ以上関わるのをやめた。
それからしばらくすると、藤原から指示があった。
少し前に、坂田が飛び込んだ池に案内してほしいと言うのだ。
あのサソリがまだいそうであまり気が進まなかったが、今回の仕事はうちの会社の罪滅ぼしとしてやっているのだから、下手に断ると後で何を言われるか分からない。
しょうがないので、杉野達はゆっくりとした足取りで池に戻ることにした。
あまり早く戻ると、まだあのサソリがいるかもしれないからだ。
しかし、その試みは神谷の一言によって台無しになった。
「早く行かないと例のサソリが逃げちゃいますよ! ほら、急いで!」
そういえば、藤原に報告したサソリの話を聞いて、神谷は目を輝かせていた。
こうなった神谷は止まらない。
杉野達は諦めて、先に走っていった神谷の後を追いかけることにした。
幸い、池に着く頃にはサソリどころか、魚すらいなかった。
澄んだ水底には、大きな巻貝の貝殻くらいしか見えない。
「あれー、なーんもいないぜぇ」
坂田がわざとらしく言うので、杉野もそれに合わせる。
「ほんとですねぇ、逃げちゃったのかな?」
「逃げたもんはしょうがない。早う、他の場所を探索しましょうや」
しかし、通称空気の読めない眼鏡、またの名を神谷が水底から這い出てきた何かを指差して叫んだので、またもや杉野達の試みは失敗に終わった。
「藤原隊長! あれは、なんでありますか?」
「おぉ! あれは、かの有名な三葉虫ではないか! よく見つけたな、神谷一等兵!」
「それほどでもありますかなぁ、えへへへへぇ」
藤原に褒められた神谷はうざいほどにテンションが上がり、そんな神谷につられたのか、藤原の方も妙に興奮している。
「それにしても、古代の地球で生きていた虫だけでなく、水棲生物までいるとはねぇ」
そこまで言って、感極まったのか目頭を押さえ、涙声になりながら続きを喋る。
「ここは、僕みたいな生物学者にとって、天国と言っても過言ではないね」
神谷と一緒に興奮しまくっている藤原とは違い、杉野達は冷めていた。
杉野達は早く終わらせて帰りたいのに、どんどん藤原を興奮させるようなものが出てきてしまうので、さすがにうんざりしてきたのだ。
こうなったら、神谷と藤原の二人を置いて、勝手に帰ってしまおうかとも思ったほどだ。
ただ、ほぼ初対面の藤原はともかく、同じ会社の仲間である神谷を置いていくのは寝覚めが悪い。
いくらうざいといっても、大切な仲間なのだ。
となると、ここで藤原を池に突き落とし、そのどさくさに紛れて神谷を気絶させて島から脱出するのが最適解だろうか。
そんな馬鹿げた計画を杉野達が本気で実行しようと相談していると、藤原から今日の作業の終了を言い渡された。
「えっ、なんでですか!? まだ、昼の一時ですよ!」
もしかして、計画を聞かれていたのかもと焦った杉野が、慌てて聞いてみる。
「あぁ、分かっているよ。君らの今日の作業はここで終わり! ここからは僕だけでできるから、君らは拠点に戻って休むなり、そこらへんを探索するなり、自由にしてくれ。君達はここまでよく頑張ってくれたからね。僕なりの労いだよ」
そこまで言われてしまっては、気持ちよく逃げられない。
仕方がないので、杉野達は逃げるのをやめて、適当に休むことにした。
人というのは急に暇になると、どうやって暇を潰せばいいか分からなくなるものだ。
特に、この洞窟の中はスマホの電波が届かないし、遊べるようなボードゲームも持ってきていない。
こんなことなら、トランプの一つでも持ってくるべきだった。
杉野が軽く後悔していると、藤原が小さなロボットをいじくりながら、あーでもないこーでもないとぶつぶつ呟いているのに気づく。
どうせ暇だし、藤原の手伝いでもしようと近づくと、他の三人も同じ考えなようで、杉野達四人は再び藤原の下へと集まった。
中には、一旦拠点に戻ってちょっとした軽食を作ってきた者もいるようで、昼に食べた虫達の良い匂いがした。
「あのー、藤原さん、ちょっといいですか?」
「ん? なんだい? もしかして、手伝ってくれるのかい?」
「んまぁ~、なんというか、その、他にやることがないので、暇つぶし的な」
杉野が包み隠さずに理由を話すと、さっきまで不愛想な顔をしていた藤原が途端に笑顔になった。
「いやぁ~、助かるよ! それじゃあ、坂田君はこの竿を使って釣りをしてくれ。何か釣れたらすぐに知らせてくれよ」
言いながら、自分の鞄から折り畳み式の釣り竿を出して、坂田に渡した。
「任せてくださいよ! なんたって、地元の方じゃ『玉籠の釣りバカ』ってあだ名が付いてるくらい釣り好きだったんで!」
坂田が釣り竿を受け取ると、早速そこらへんにいた巨大ゴキブリの子供――といっても現代のゴキブリの成体と同じくらいのサイズだが――を捕まえて、釣り針に刺していく。
「八坂君には記録係を頼みたい。なに、そう難しく構えなくても大丈夫だよ。このノートに僕が言った事を書き記していくだけだから」
そう言って、八坂にコーヒーらしき茶色い染みが付いた大学ノートを渡す。
「頑張ります」
「最後に、神谷君と杉野君にはとっておきの仕事を与えよう。僕の助手だ」
「助手、でありますか?」
「そうだ。君らにはロボットの操作や送られてくるデータの読み上げなどの技術的な仕事をやってもらうよ。できるね?」
藤原に聞かれて、神谷は心底嬉しそうな表情で答えた。
「了解であります!」
杉野はもう少し簡単な作業を任せられると思っていたので、少しだけ反応が遅れた。
「あーはい、了解しました」
これにより、藤原に恩を売りながら、暇を潰せて、さらにちょっとした勉強もできる機会を得られたのであった。
ロボットの操作などやったことがなかった杉野だったが、藤原が懇切丁寧に教えてくれたおかげで、ある程度は動かせるようなった。
さすがに、いきなり池の中に入れてうまく操作できるかは不安だったので、そこらへんの水たまりで練習することにした。
水たまりとはいってもそこそこの深さがあり、全高20cmほどのアシカ型ロボットが頭まで全て浸かってしまうほどの深さだ。
早速、水たまりに入れたいところだが、一旦、相方である神谷と確認作業に入った。
今回、ロボットの操作は杉野の担当だが、ロボットに付いているカメラの操作及び送られてくるデータの読み上げは神谷が担当している。
なので、練習とはいえ水の中に入れるなら、相方と連携して確認作業をしなければならないのだ。
「えー、右鰭は問題なく動きます。左鰭は……少しばかし反応が遅いですが、許容範囲です。そちらでは、どう映ってますか? どうぞ」
「動作データには異常ありません。少し電波が弱いようなので、こちらで調整します。どうぞ」
杉野がロボットの動作を目視で確認し、神谷がロボットから送られてくるデータをモニタリングしながら、少しずつ調整していく。
話し終わった後に「どうぞ」と付け加えたり、敬語だったりするのは、ちょっとした雰囲気づくりだ。
「了解です。もう一回動かしてみます。……左鰭、問題なく動きました。どうぞ」
「では、引き続き各部の確認をお願いします。どうぞ」
それから、スクリューの回転具合や内蔵カメラの映像チェックなどをして、ようやく水たまりへ入れる準備が整った。
まず、ロボットを水たまりまで自走させなければならない。
幸い、このロボットにはゴム製の鰭が二本付いており、水中を泳ぐことはもちろん、陸上を這って移動することも可能だ。
ただ、ロボットの形が非常に丸っこい為、油断するとコロコロと転がってしまうので注意が必要だ。
杉野がラジコン並にシンプルなコントローラーでロボットの左右の鰭を交互に動かすと、ペタペタと地面を歩いて水たまりへと向かう。
その場にいた一同が固唾を飲んで見守る中、ロボットはなんとか水たまりに辿り着き、泳ぎの練習をすることに成功した。
練習が済んだら、いよいよ本番だ。
時間がもったいないので、本番では池に直接ロボットを入れることになった。
この時、あまり勢いよく入れると水の上でクルクルと回ってしまって制御不能状態に陥るので、慎重に入れないといけないらしい。
杉野は、今迄にないほどの集中力でゆっくりとロボットを池に放った。
そして、ロボットが勝手に動いてしまわないうちにコントローラーを持って操作を始め、池へ潜らせようとした。
しかし、それを止めて、藤原が指示を出した。
「よし、まずは水質の検査だ」
「わざわざロボットにやらせなくても、その腰に着けてる機械でやればいいんじゃないですか?」
「あぁ、それがね、バッテリーが切れてしまったんだよ。あいにく、ここらへんには充電スポットみたいな気の利いたものはないからね」
「なるほど。それで、水質検査ってどうやればいいんですか?」
杉野はロボットの動かし方は習ったが、検査などの専門的な操作方法は教えてもらってなかった。
「簡単だよ。左のレバーに潜航って書いてあるだろう? その字の方向にレバーを倒せば、ロボットが池の水を吸い込んで、その重みで沈んでいくんだ。あとは、吸い込んだ水の水質を調べればいい、というわけだ」
確かに、コントローラーの左側に付いているレバーには、下に潜航、上には浮上と書かれたシールが貼ってあった。
レバーを下に倒してみると、ロボットからずぞぞーっと水を吸い込む音が聞こえ、少しずつ水中へ沈んでいった。
「では、あとは神谷君にデータを読み上げてもらえばいいだけだ。神谷君、この池はどういった水質なのかね」
「はい、藤原隊長! この池の水は淡水でとても奇麗なようです。その証拠に、送られてきたデータには有害な細菌も汚染物質もきわめて少ないと出ていますよ」
「なるほど、それは良かった。これでしばらくは飲み水に困らなそうだね」
これでまた、帰る理由が一つ減ってしまったなと、少しだけ落ち込んでしまう杉野だった。
池の中は確かに奇麗に澄んでいたのだが、思っていたよりも奥行きがあり、奥の方は暗くてよく見えない。
幸い、水深はそこまで深くなかったため、底の方にいた生物などはよく観察できた。
まず最初に目に入ったのは、花のようなサンゴだった。
ロボットを近づかせてよく見てみると、サンゴの割にはスポンジのように柔らかい見た目をしているのに気づく。
「藤原隊長! これはサンゴなんですかね?」
「ん~どれどれ、あぁこれは海綿だね。こいつはおそらく、『ディノミスクス』だな。こいつは口と肛門がすぐ隣に並んでいるんだよ、なかなかに興味深いだろう?」
「へぇ~」「面白い生物でありますなぁ」
藤原の解説を交えながら、池の中を探索していくと、また奇妙な生物を発見した。
「杉野隊員、これはなんでありましょうか?」
「ん? どれ?」
「これです、この白いトゲトゲした奴」
神谷がカメラ越しの映像に映るその生物を指差す。
それは、背中に何本もの棘を持ち、腹側に生えている十数本もの小さな足を必死に動かして、ロボットから逃げる一匹の虫であった。
「こんな水中にも虫がいるのか」
杉野が呟いていると、横から映像を覗き込んだ藤原が解説し始めた。
「これは『ハルキゲニア』だね。この子に関しては、学会で色々あってね。上下や左右が仮説ごとに変わったり、頭だと思っていたものが糞だったりと、姿形がよく分からなかったんだよ。いやはや、まさか生で見られるとはねぇ」
言いながら、鞄からスケッチブックを取り出して、ハルキゲニアのスケッチを描きだした。
しばらく待っても、藤原からの指示がなかったので、杉野は思い切って指示を仰ぐことにした。
「あのー、もう動いてもいいですか?」
「あー! もうちょっと待っていてくれ。もう少しで……よし、描き終わった! いいよ、動かしてくれ」
「へぇい、了解しましたぁ」
杉野が少々呆れ気味に答えると、ロボットを池の奥へ動かしていく。
池の奥へ進んで行くと、見覚えのある魚が現れた。
先程、坂田が手掴みで取ったあの魚だ。
実をいうと、あのあとサソリに追いかけられた拍子に池へ落としてしまったので、もしかしたらあの時の個体と同じかも知れない。
「これですよ、これ! さっき、坂田さんが捕まえた魚!」
「なんだ? 呼んだか?」
自分の名前が聞こえてきたので、呼ばれたと勘違いした坂田が釣り竿を放り投げて、こちらへ近づいてきた。
「あぁ、えーっと、呼んでないですけど、ちょうどいいんでそのまま来て下さい」
お呼ばれした坂田に映像の中の魚を見せると、びっくり仰天といった感じの顔をする。
リアクションが分かりやすくて、なかなか面白い。
「こ、こいつは! 間違いねぇ、俺が捕まえた奴じゃねぇか!」
確証があるのかは知らないが、本人が言うならそうなのだろう。
「あぁ、そういえば、坂田君は魚を捕まえたと言っていたねぇ。この魚は『ミクロンミンギア』といって、最古の魚類と云われているんだよ。そんな魚を手掴みで捕まえるなんて、さすがは『玉籠の釣りバカ』だね」
「いやぁ、それほどでも」
坂田が照れていると、映像に大きな変化があった。
池の奥の方から、何か巨大な生物が迫ってきているのだ。
その巨大な生物がロボットの前まで泳いでくると、ふよふよとロボットの前で漂っているミクロンミンギアを二本の触手を器用に使って捕らえ、何本もの細かい牙が並ぶ口へ放り込んでしまった。
「あぁぁぁぁ!! 俺の魚がぁぁ!」
坂田が勝手に所有権を主張した魚は、謎の怪物によってグチャグチャに嚙み砕かれ、そのまま怪物の腹の中に収まってしまった。
残ったのは、怪物が食い散らかしたミクロンミンギアの骨や鰭だけだ。
「うんうん、これも弱肉強食だね。ちなみにあれはアノマロカリスといって、カンブリア紀最強の捕食動物なんだ。あの大きな触手のような部位は、人間でいう腕にあたる部分で……」
藤原が恍惚とした表情を浮かべ、怪物の解説を始める。
しかし、事態は刻一刻と変化していく。
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃなさそうですよ」
その怪物の次なるターゲットは杉野が操るロボットだった。
ロボットの丸っこいボディにアノマロカリスが抱きつき、丸い口に生えたブラシのような細かい牙で噛み砕こうとしてくる。
しかし、大きいといっても節足動物だからか、そう大した力はないようだ。
いくら牙を突き立てても、小さなキズが付くくらいで破壊までには至らない。
「うーん、放っておいても害はないけど、これでは前が見えないねぇ」
藤原の言う通り、ロボットの前面に抱きついたアノマロカリスのおかげで、カメラから送られてくる映像にはアノマロカリスの口しか映っていない。
「どうします? 振り落しますか?」
杉野が聞いてみると、藤原が首を振る。
「いや、それよりも楽な方法がある。コントローラーに付いてる黄色いボタンを押してごらん」
「はぁ、分かりました」
藤原に言われて手元のコントローラーを見てみると、確かに「振」という字が刻印された黄色いボタンがコントローラーの隅の方に配置されていた。
早速、押してみると、カメラから送られてくる映像が突然ブレだした。
おそらく、ロボットが振動しているのだろう。
映像の中のアノマロカリスは振動にびっくりしたのか触手を後ろに反らせながら、身体の左右に付いている無数の鰭をバタバタと動かして逃げ出した。
「この機能はね、こういうふうに張り付いてきた生き物をロボット全体を振動させることによって引き剝がす為にあるんだ。これなら、生き物に危害を加えずに済むからね」
うちの博士とは違って、優しい研究者なのだなと杉野が感心していると、ロボットが何かにぶつかった音がした。
慌てて映像を見てみると、灰色の岩壁が画面いっぱいに映っていた。
どうやら、衝突してしまったようだ。
さっきまで、アノマロカリスに邪魔されてまともに前が見えていなかったので、壁が迫っていたことに気づかなかったのだ。
「すいません、壁にぶつかっちゃったみたいです」
「あぁ、それくらいなら大丈夫だよ。このロボットの外殻は特製の強化ガラスで出来ているから、そうそう壊れることはないんだ」
「それならいいんですけど……」
「それよりも、壁に当たったってことは突き当りに辿り着いたわけだ。一度、浮上してみてくれ」
「了解」
杉野の操作で、ロボットがバラストタンクに貯めていた水を少しずつ排出していくと、コントローラーに付いている深度計の針がだんだんとゼロへ戻っていく。
そして、針がゼロを指したのとほぼ同時にロボットが水面へ浮上したのが送られてくる映像で分かった。
映像には、今迄の暗い水中とは違って、とても明るい空間が映し出されていた。
「あれ~? おかしいですね。ここからだと、池の奥の方なんて、暗闇しかみえませんけど」
「もしかしたら、池の途中で壁があったのかも知れないね。知らないうちに、その壁の下を通って僕らからは見えない空間に入り込んだのだろう」
なるほど、それなら杉野達のいるところから明かりが見えないのも納得できる。
だがしかし、まだ疑問が残る。
なぜ、その空間はこんなにも明るいのだろうか。
気になった杉野が聞く前に、藤原の指示が飛んだ。
「杉野君、ロボットを右へ180度回頭してくれ。ゆっくりでいいからね」
「? りょ、了解」
何故かは分からなかったが、とりあえず言われた通りに、コントローラーの右側に付いているレバーを右へ倒した。
すると、ロボットの左鰭がぴちゃぴちゃと水面を叩く音が聞こえ、カメラの映像が右へ右へと動いているのが分かる。
ロボットが完全に後ろを向くと、そこには天井から吊り下げられたライトがあった。
しかも、最初にこのジャングルへ入った時に見つけたライトと同じ形だったのだ。
それを見た藤原はというと、予想通りといった表情で映像に映るそのライトを見つめていた。
「やはり、か」
「ど、どういういことなのでありますか!? 何故、池の奥にあった空間にこのジャングルと同じライトがあるのですか!?」
神谷が狼狽えながら聞くと、藤原は至って冷静に答えた。
「簡単な話だ、同じ者が設置したのだろう。もしかしたら、この池は古代の水棲生物を飼育しておく為の生け簀なのかもしれないね」
「生け簀、ですか?」
「そう、生け簀だ。その者の目的は分からないが、できることなら一度会って話してみたいものだ」
そう語った藤原の目には、研究者としての興味とUMAハンターとしてのプライドが揺れているように見えた。




