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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第四章 UMA ATTACKS
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48 刺激的な昼食

「おーい、お二人さん! 仲良く寝てるとこわりぃんだけど、昼飯できたからはよ起きてくれー」


 坂田の声で目を覚ますと、香ばしい香りが鼻をくすぐった。

 腕時計を確認すると、ちょうど昼飯時である午後十二時を指していた。

 あれから、一時間ほど眠っていたらしい。

 まだ眠い目を擦って起き上がると、目の前に衝撃的な光景が広がっていた。

 あの、杉野達が運んできたムカデが、ほかほかと湯気の立つ丸焼きへと変貌して、草で出来た即席の大皿に乗っかっていたのだ。

 その他にも、中型犬サイズのゴキブリの塩釜焼や少し前に双眼鏡で見たカゲロウのご先祖が入ったスープなど、なかなかにクレイジーな献立となっていた。


「こ、これは……」


 杉野が言葉を失っていると、坂田がゴキブリの足を咥えながら言った。


「いやー、見た目はこんなんだけどよぉ、食ってみりゃ案外いけるぜ」


「ほ、ほんとですか?」


 杉野が聞くと、坂田は力強く頷き、ムカデの腹の肉を葉っぱのお皿に取り分けて、杉野に渡した。

 見た目は白身魚っぽいが、果たして美味いのだろうか?

 まだ不安な杉野が坂田の方を見ると、満面の笑みでサムズアップしてくる。

 これはもう食うしかなさそうだと、杉野が覚悟を決めて、その肉を口に運んだ。

 噛む度に口の中に広がるのはガッツリとした胡椒の辛みとほのかな苦味。

 美味いかと言われると微妙だが、食えなくはない感じだ。

 後で聞いた話では、こいつはムカデではなく「アースロプレウラ」というヤスデのご先祖らしい。

 どうりで、微妙な味なわけだ。

 ムカデなら食用にされたりもするが、ヤスデを食う者など見たことも聞いたこともない。

 まぁ、初めての昆虫食――正確には、昆虫ではないが――なので、辛口な評価になっているからかもしれないが、それを鑑みてもこれを美味いとは言いたくない。



 口の中が微妙な味で占拠されたので、口直しに白い塩釜から顔を出す巨大ゴキブリを食べてみる。

 すでに、他の面々によって所々食いちぎられていることから察するに、相当美味いと思われる。

 早速、そこら辺にあった枝を使った即席の箸で突っついて塩釜を削り、中の肉を取り出して、躊躇いなく肉を食ってみると、今度はエビの味がした。

 車海老を塩焼きにした感じだろうか。

 坂田がオススメしてくるのも納得な美味さだ。



 最後に、パレオなんたらとかいうカゲロウのご先祖のスープだ。

 緑色の体色が食欲をそそる。

 さすがに、スープを葉っぱに注ぐわけにはいかないので、持っていた水筒のコップに注ぐ。

 コップから虫の頭や触覚が飛び出している光景は、とてもセンシティブだ。

 まずはスープから頂く。

 コンソメベースのスープに、虫の出汁が効いていてかなり美味い。

 スープに続いて、具である虫の頭にかぶりつく。

 出汁が出てしまったため、味は薄いが高タンパクな肉の味がする。

 スープに入れてなかったら、どんな味がするのだろうと考えていると、藤原が串焼きをくれた。

 我慢できずにがぶりつくと、蟹のような味がした。

 これは、今迄で一番美味いかもしれない。



「そういえば、八坂さんは?」


「あぁ、八坂ちゃんなら『こんなの食べたくない!』って言って、あっちで棒メシ食ってる」


 さすがに、虫嫌いの八坂には無理だったようだ。



 昼飯が終わり、軽くこのジャングルを探索することになった。

 今回は、全員一緒ではなく何人かに別れ、別々の方角を探していく。

 チームメンバーは適当に決められ、神谷と藤原の眼鏡チームと坂田と杉野、そして八坂の三人が揃った仲良し?チームという具合で別れた。

 探索の方法は、杉野達のチームは岩壁を伝って時計回りに、藤原達のチームは逆の反時計回りに回っていくというシンプルなものだ。


「では、検討を祈る」


 藤原の激励で、二つのチームは逆の方向へ歩き始めた。



 実戦経験の少ない八坂をカバーするように、杉野と坂田の男性陣が警戒しながらジャングルを進んで行く。

 壁を伝っていけばいいので、迷う心配はないが、どんな怪物が何処から飛び出してくるか分からないのだから、気を引き締めなくてはならない。

 杉野が残り少ない弾薬の残量を確認していると、いきなり坂田が声を上げた。


「おい! あれ、見てみろよ!」


 坂田が慌てた様子で言うので、何事かと急いで見てみると、そこにはそこそこの大きさの池があった。

 よく見ると、ジャングルの奥へと流れている小川もある。


「池ですか、またなんか変なのいないですかね?」


「どうだろうな、まあ虫とかはいなさそうだが……」


 三人で物陰に隠れて、池を観察してみるが、特に何かが上がってきたりはしない。

 ホッと安心して、池の近くまで行ってみると、水中に魚が泳いでいるのに気づいた。


「おっ! 魚がいるぜ! こんなことなら、釣り竿持ってくれば良かったなぁ」


 坂田が軽く後悔していると、池で泳いでいた魚が跳ねた。

 その魚は、ヌメっとした胴体に背鰭と腹鰭しかなく、胸鰭が付いていなかった。

 なんとなく、アロワナに似ているような気もする。

 あれが古生代の魚なのか。

 どうにかして捕まえて食べてみたいものだと思うほどに、杉野は古生物の味の虜になっていた。

 だが残念なことに、釣り竿を持ってきていないので、今回はお預けだろう。


「なぁ、あれって手掴みでも取れるんかな?」


「どうですかね……人慣れしてないから意外といけるかも知れませんよ」


 そう言われて、坂田の理性は何処かに吹き飛んだ。

 着の身着のままで池に飛び込み、魚を捕まえようとどんどん深みへ潜っていく。

 杉野はさっき自分が言った事を今更ながらに後悔した。



 しばらく待っていても上がってこないので、心配になった杉野達が池へ近づいてみると、池の中からさっきの魚を手に掴んだ坂田が飛び出してきた。


「取ったどぉぉぉ!!」


 坂田が雄叫びを上げながら、腕を突き上げる。

 その雄叫びに気を取られたせいで、杉野は坂田の後ろに迫っていた怪物に気づくのが遅れてしまった。


「坂田さん! 後ろ!」


「あぁ? なんだって?」


「だから、後ろ見てください! ヤバいのが来てますって!」


「後ろ?」


 坂田がようやっと後ろを振り向くと、池の底を這って近づいてくるデッカいサソリが見えた。


「うおぉぉぉぉ!!! やべぇってこれは、マジで!」


 あまりの恐怖に語彙が貧弱になった坂田が岸に上がってきた。

 陸に上がって安心していたのも束の間、あのサソリも一緒に上がってきて、こちらへその鋭利な爪を向けてくるではないか。


「まずいっすよ! 早く逃げないと!」


「いや、待て。俺らには銃が――ありゃ?」


 今になって、銃を拠点に忘れてしまったことに気づいた。


「こら、あかん。逃げるぞ!」


「壁伝いに逃げましょう! そうすれば、はぐれることはないはずです」


「おぉ、頭いいなぁ、お前」


「いやぁ、それほどでも。そういう事なんで、八坂さんも逃げましょ――あれ?」


 杉野が八坂にも指示を出すために振り向くと、そこには誰もいなかった。


「あっ! あいつ、先に逃げてやがる」


 そう言われて、坂田の指差す方を見ると、遠くの方で必死に走る八坂の姿があった。

 この短時間で、杉野達から相当離れているのをみるに、サソリが見えた時点ですでに逃げ始めていたのだろう。

 なんとも、薄情なものだ。

 しかし、文句を言っても仕方がないので、杉野達も八坂の後を全力で追いかける。

 幸い、サソリの方はそんなに足が速くなかったので、振り切るのは簡単だった。

 だがしかし、チラチラ後ろを見ながら走っていたせいで、八坂の姿を見失ってしまったのはいただけない。

 このジャングルの中を、二人だけで武器も持たずに探しに行くのは無謀といえる。

 なので、杉野達はまず藤原達との合流を優先することにした。



 しばらく壁伝いに歩くと、古代のジャングルに似つかわしくない錆びついた戦車が現れた。


「また戦車か……あれ? よく見るとこれ、外の広場にあったやつと似てねぇか?」


 坂田に言われて、戦車をよく観察すると、確かにあの広場にあった特二式内火艇に似ている。

 デカい高角砲が付いているのもそっくりだ。

 しかし、広場のよりも一回り大きいような気もする。

 そう思って反対側に周ってみると、大好きな戦車に目を輝かせた神谷に出くわした。


「おや、杉野隊員、一時間ぶりですな。こっちは特に何事もなく平和な旅路でしたが、そちらは?」


「こっちは大変だったよ! デッカいサソリに追いかけられたり、先に逃げた八坂さんとはぐれたり、ほんとにハプニングばっかで疲れちゃうよ」


「それはそれは、おもしろ――大変でございましたなぁ。どうせなら、八坂隊員の代わりに、自分が付いて行きたかったでありますよ」


「ほんとに、そうして欲しかったよ。あっ、ところでさぁ」


「なんでありますか?」


 神谷は道中の話をもっと聞きたかったようだが、杉野は先に本題を切り出した。


「この戦車って、広場にあった戦車と微妙に違くない? ちょっとデカいような」


「ほう、よく気づきましたな。これは、『特三式内火艇』といって、広場にあった特二式の後継にあたる戦車であります。特二式が九五式軽戦車をベースにしているのに対し、この特三式は九五式よりも大柄な一式中戦車を使っているのでありますからして、デカいのは当たり前なのであります。ただ、これも広場にあったのと同じみたいでありますね」


 この戦車もやはりオープントップになっていて、無理やり高角砲が積まれていた。


「ってことは、これも試作戦車なのか」


「そうでありますな。『キングカーチー』とでも呼びましょうか」


 神谷が冗談交じりにそう言うと、戦車に積んである高角砲がギギャァと嫌な音を立てて折れ、こちらへ落ちてきた。


「危ない!」


 咄嗟に杉野が神谷を突き飛ばし、自分も横へ飛んだ。

 間一髪のところで、かわすことに成功した二人だったが、何故か神谷は落ちてきた砲身にすがりついて泣きだしてしまった。


「うわぁぁぁぁぁん!!! 貴重なキングカーチーがあぁぁぁ!!」


 どうにも、好きな戦車が壊れたことがよっぽどショックだったようだ。

 やれやれと杉野が呆れていると、さっき倒れた砲身の根元に誰かがいるのに気づいた。


「八坂さん?」


 確かめるために、杉野が戦車によじ登ってみると、そこには神谷に負けない勢いで泣きじゃくる八坂の姿があった。


「降りられなく……なっちゃって……」


「あぁ、そういうこと。坂田さん! ちょっと手伝ってもらえますか?」


「おう、任せろ!」


 杉野と坂田の二人で、八坂を戦車から降ろしていると、ようやく神谷に追いついた藤原が呆れた顔で言った。


「君達は、ほんとに感情豊かだね」



 ハプニングは多かったが、無事誰も死ぬことなく、一回目のジャングル探索は成功に終わったのだった。

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