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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第四章 UMA ATTACKS
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40 琵琶湖へGO!

 名古屋駅までは、渋滞に引っかかることもなく、すんなりと行けた。

 現在の時刻が午前八時ちょうどであることから、非常に運の良いスタートが切れたといえるだろう。

 ただ、早く着きすぎてしまい、少々時間を持て余してしまったのは誤算だった。

 名古屋駅の前にある、「飛翔」というオブジェの前でスマホをいじって暇を潰していたのだが、さすがに新幹線の発着時刻である午前九時十九分までそんなことをやっていたらスマホの充電が切れてしまう。

 八坂も同じように、杉野の近くでスマホをいじっているのを発見できたのは、何かの偶然か、はたまた日頃の行いのおかげなのか。

 どちらかは分からないが、とりあえずはお喋りにでも誘ってみることにした。


「今日はいい天気だね」


「そうね……」


 天気の話というのは、話題がない時の常套手段といえる。

 しかし、その先を考えていないとそれだけで終わってしまうものだ。

 これではいけないと焦った杉野はスマホを使って話題を探した。

 あちこちのまとめサイトやSNSを回り、何か良い話題がないかと探していくと、あるオカルト系のまとめサイトに辿り着いた。

 なんでも、滋賀県の琵琶湖にある無人島にUFOが出没するらしいのだ。

 これから滋賀県に行くのだし、ちょうどいい話題だと判断した杉野は、早速八坂へ話題を振ってみた。


「ちょっと、いい? 今、見つけたんだけどさぁ、琵琶湖の方でUFOが出るらしいよ! もしかしたら、今回の仕事は宇宙人探しだったりして」


 杉野が良かれと思って出した話題は、八坂には不評だったようで、呆れた表情でこちらを見てきた。


「そんなのいるわけないわよ。第一、今日お世話になる藤原さんってUMAの研究をしてる人なんでしょ。宇宙人は管轄違いなんじゃないの?」


「それは、確かに……」


 杉野はこれ以上話す気力が尽きてしまった。

 元々、コミュ障気味の杉野にとって、気になっている女性と話すというのはかなりの苦行なのだ。



 八坂と楽しくお喋りすることを早々に諦めた杉野が、再びスマホをいじろうと八坂から視線を離すと、遠くの方に見慣れた顔が見えた。

 あれは紛れもなく、坂田の顔だ。

 なにやら、ビルの陰から顔を出して、こっちを観察している。

 どうせならこっちに来て、話し相手になって欲しいのにと考えていた杉野へ向けて、坂田がハンドサインを送ってきた。

 アタックチャンスってな感じのジェスチャーをしたり、八坂の方を指差したりしている。

 その意味に気づいた杉野は、勇気を出して八坂の方を向いた。


「えっと、違ったらごめんね。もしかして、まだ緊張してる?」


 杉野が恐る恐る聞いてみると、ゆっくりとスマホから顔を上げた八坂が答える。


「当たり前でしょ、久しぶりの現場なんだから。でも、足を引っ張ったりはしないから、安心してよね」


 そう言った八坂の声は震えていた。

 強がってはいるが、本当は不安でしょうがないのだろう。

 そんな八坂に、杉野は何か気の利いた事を言ってやろうと必死に考えた。

 考えた結果、あまり良さげな言葉は思い浮かばなかった。

 しかし、一つだけ言いたいことは見つかった。


「足引っ張るとか、そんなん気にしないよ。それに、いつもと違う仕事なんだから僕らも同じようなもんだし、無理しない程度に頑張ればいいんだよ!」


「……そうだね、ちょっと心が軽くなってきた。ありがと」


「えへへへ、どういたしまして」


「でも、ちょっとうざい」


「そんなぁ!」


 空気が和やかになったところで、ようやく坂田が合流してきた。



 少し遅れて、神谷が到着した。

 これで、ようやっと四人揃ったはいいが、杉野達は少々腹が減っていた。

 そこで、四人で駅の中にあるコメダに入り、まだ食べてなかったモーニングでも食べて、腹を満たすことにした。

 八坂はこれが初コメダだったらしく、ミニじゃない方のシロノワールを頼み、案の定、一人では食いきれずに、杉野の助けを借りる羽目になった。

 やはり、東京から来た人にはキツイのだろう。

 まぁ、生粋の愛知県民である杉野でも、一人で食うには多すぎるが……。



 午前八時半を回った頃、全員が朝飯を平らげたところで、新幹線の乗り場へ向かう。

 しかし、思ったよりも駅の構造が複雑でなかなか目的地に辿り着かない。

 そういえば、名古屋駅はあの梅田駅よりも迷う駅だと聞いたことがある。

 なんでも、色んな路線が密集しすぎているからだとか。

 あまりにも迷うので、「名駅」ではなく「迷駅」という不名誉な通り名で呼ばれたりもするらしい。

 そんなダンジョンのような名古屋駅で、若者四人は互いに知恵を出し合い、時には駅員さんに道を訪ねたりしながら、約四十分ほど掛けてどうにか目的の乗り場に辿り着いたのであった。



 ギリギリ新幹線に乗り込み、自由席から適当な席を探す。

 平日ということもあって、ほとんど貸し切り状態といっていいほど空いていたのは幸運だった。

 もし、ぎちぎちに詰まっていて座る席が空いていなかったら、現場に着く前に疲れ切ってしまっただろう。

 ちなみに、この時の杉野達は危険をすぐに察知する為に、出入口に近い一番前の席を選んでいた。



 無事、席を確保して、新幹線が発車するのを待っていると、後ろの方の出入り口から二人の男女の話し声が聞こえてきた。

 杉野達は相手に悟られぬよう、前を向いたまま聞き耳を立てた。


「そんなこと言われても困るわぁ~。うちとあんたはただの幼馴染やさかい、許嫁とか言われてもなあ」


 女の方は、京都弁らしき方言ではんなりした感じの人というイメージだ。


「そんなん言うてもしゃーないやろう、親が決めたことなんやから。ワイら子供が文句言ったところで、なーんも変わらんわ」


 男の方は、如何にもな関西弁でハキハキと喋る好青年といったところだろうか。

 まあ、ただの痴話げんかをしているだけなら、特に警戒しなくとも問題はなさそうである。

 そう思った杉野一行は、後ろの二人の会話を聞くのを止めて、適当にリラックスし始めた。



 新幹線が発車すると、後ろの男女の話し声がだんだん大きくなってきた。

 どうにも、本格的な喧嘩に発展したらしく、頬を思いっきり叩く音や怒声が聞こえてくる。

 あの会話でここまで酷い喧嘩に発展するとは考えにくいが、本人達にしか分かりえぬ要因が確かにあったのだろう。

 人の喧嘩に首を突っ込めるほど人間が出来ていない杉野は、スルーを決め込むことにした。

 それは、八坂と神谷も同じなようで、スマホで音楽を聞いたりしてなるべく男女の声を聞かないようにしている。

 しかし、この四人の中で一番空気を読まないことに定評がある男の坂田がおもむろに立ち上がり、後ろの席へ行ってしまった。

 杉野はなるべくなら無用のトラブルを避けたかったのだが、兄貴分がやるというならばそれに続くほかない。

 そうしないと、現場に辿り着くのも困難になるほどのトラブルに発展しかねないのだ。

 できるだけ、流血沙汰にならないように努力しようと心に決めてから、杉野は後ろの席へ向かった。



「おいおい、どうしたよ? もしよけりゃ、俺が話を聞いてやるよ」


「関係ないもんは引っ込んどれ!」「うちとこいつの問題やさかい、ほっといてくれますか?」


 坂田が、取っ組み合いの喧嘩をしている二人の間に入って仲裁しようとするが、相手はかなり頭にきているようでまったく応じる気配がない。

 それどころか、さっきよりも激しく殴りあっているようにも見える。

 これでは、埒が明かないと判断した坂田は作戦を変更することにした。

 後から来た杉野に「女の方を頼む」と指示すると、自分は男の方へ突っ込んでいき、そのままの勢いでドロップキックを食らわせた。

 坂田の意図に気づいた杉野が女の方へ突進しようとすると、男の方から坂田がぶっ飛んできた。

 おそらく、投げ飛ばされたのだろう。

 間一髪のところで直撃を避け、近くの座席の陰に隠れる。

 さっき飛んでいった坂田の方を見てみると、出入口の扉にぶつかって痛そうに頭を抱えているが、とりあえず目立った怪我はしていないようだ。

 坂田の無事を確認し、安心しきっていると、今度は女の方からこちらに向かってきた。

 目にも止まらぬ速さで杉野の首根っこを掴み、とんでもない馬鹿力で坂田がいる方へ放り投げられた。

 投げられた杉野が座席の上をふっ飛んでいき、ようやっと痛みが引いてきた坂田に激突する。


「なんやねん、お前ら! 刺客かなんかか?」


 男がこちらへ近づき、凄みを利かせる。

 これ以上はまずいと判断した杉野が、これこれこういうものですと、自分達の素性を説明する。

 もちろん、日頃から博士に言われている通りに、偽の会社名を名乗り、相手にこちらの正体を暴かれないよう、つじつまが合うような目的も付け加える。

 偽りの自己紹介のおかげか、それとも杉野が必死に説明している姿を気の毒に思ったのかは分からないが、男の表情から怒気が消えた。


「いやはや、すんませんねぇ。急に来たもんやから、吹っ飛ばしちゃって。怪我とかしとらんか?」


 そう言いながら、男が杉野の手を取って、立ち上がらせる。


「いえ、こちらが強硬策に出てしまったのが悪いので……坂田さんも謝ってください! ほら、早く立って!」


 杉野が坂田の手を取って無理やり立たせると、むすっとした顔をしたまま、男の方を睨みつけた。

 このままでは埒が明かないので、坂田の頭を鷲掴みにして、無理やり頭を下げさせる。

 坂田と一緒に頭を下げた杉野が謝罪の言葉を口にすると、さっきとは打って変わって男の優しそうな声が返ってきた。


「そんな、頭下げんでくださいよ! こっちが悪者みたいやないですか。もう全然気にしてないんで、頭を上げてくださいな」


 杉野達が頭を上げると、男の隣に、さっき杉野を投げ飛ばした女が申し訳なさそうな顔をして立っていた。


「うちもやりすぎてしもうたわ~、堪忍なぁ」


 そう言って、ゆっくりとした動作で深々と頭を下げた。



 それからは、それぞれの会社の愚痴を言い合ったりして、目的地までの旅路を楽しんだ。



 杉野と坂田がさっき車内販売で買ったアイスの硬さに苦戦していると、窓の外に大きな湖が見えた。

 湖が見えるのとほぼ同時に、もうすぐ米原駅に到着する事を伝えるアナウンスが流れる。


「ほいじゃ、俺らはここで降りるけど、二人きりになっても喧嘩すんなよ!」


「分かってるわい」「喧嘩なんて野蛮なこと、うちがするわけないわ」


 少々、不安な返事ではあったが、さっきまで八坂とガールズトークで盛り上がっていたのを見るに、そう心配しなくても大丈夫そうだ。

 それに、彼らは京都駅で降りて、特急を使って奈良に行くようなので、乗り換えやらなんやらで喧嘩する暇もないだろう。



「じゃあな! また、どっかで会ったら飯でも食おうや」


 新幹線が駅に停まり、出入口へ急ぐついでに、坂田が残った二人へ別れの挨拶を済ませると、あちらも穏やかに微笑みながら手を振り返した。

 どうやら、杉野が知らない間にかなり仲良くなっていたらしい。

 少しばかり嫉妬してしまった杉野は、しばらく坂田の顔を見れなかった。



 駅を出ると、早速、藤原が出迎えた。


「やぁやぁ、久しぶりだねぇ。って言っても、直接会うのは初めてだけどね」


「えーっと、初めましてでいいんですかね?」


「まあ、そこらへんは適当でいいでしょう。おっと、そこのお嬢さんは初めて見る顔だね?」


 気の良さそうな声で藤原が尋ねると、八坂が恥ずかしそうに自己紹介をした。


「初めまして、幽体研究所玉籠支部の八坂です。えっと、よろしくお願いします」


「はい、よろしく。では、挨拶も済んだところで、早速行こうか。君達の貸出期間も限られているからね」


 そう言うと、杉野達へ後ろに停まっていた銀色のセダンに乗り込むよう促した。

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