4 もう逃げられない
休憩が終わるとエレベーターに乗せられて、地下六階に連れてかれた。
そのフロアには、ランニングマシンやベンチプレスなどのトレーニング器具が所せましと置かれていた。
「今からは、筋力とスタミナをつけるためにトレーニングを行ってもらう。安心しろ、ちゃんと着替えは用意してあるからな」
言いながら、杉野達を更衣室に案内した。
中には、体育の時間に着るような体操服が用意されていた。
「全員着替え終わったら出てこい。サボるんじゃねーぞ」
念押ししてから、エリックが部屋を出ていく。
杉野が着替えていると、坂田が話しかけてきた。
「なあなあなあ、杉野は彼女とかおるん?」
早速サボろうとする坂田。
「ダメですよ。早く着替えないと何言われるか」
見た目通りに真面目な神谷が嗜めた。
「いいじゃねぇか。そんな神谷は彼女おるんか?」
「いませんよ! 僕は二次元しか興味ないですから……」
神谷は即答した。
「へぇ~、神谷ってそっち系なんか……なんて娘が好きなん?」
「最推しはやっぱりラバ娘のヤキメシちゃんですね!あぁでも、ガラスワレターちゃんも捨てがたい……」
「へぇー、ラバ娘ってことはロバ娘もいるの?」
「いますよ!フユブルルって娘がいて――」
「喋ってないで早く着替えてくださいよ!」
ひと足早く着替え終わった杉野が、遅れている二人を注意した。
「へーい」「すいません」
二人は反省して、いそいそと着替え始めた。
全員着替え終わって部屋を出ると、エリックと八坂が待ちくたびれていた。
「遅いぞお前ら! ちゃっちゃっと準備するのも訓練の一部だ! 分かったら、早く八坂の隣に並べ!」
三人が萎縮しながら、八坂のところへ小走りで駆け寄る。
「とりあえず今日のところは腕立て百回十セット、腹筋五十回十セット、トラック三十週で勘弁してやる。感謝しろよ」
「トラックってどこにあるんですか?」
杉野が質問した。フロアにそんな広大なスペースは見当たらない。
「ああ、隣のフロアにある。そのまた隣にはプールもあるぞ」
案内されてついていくと、400mトラックが広がっていた。
隣のフロアには25mプールもある。
「よし! じゃあ、はじめ!」
エリックの号令を合図に、新人四人がトレーニングを始めた。
全てのメニューが終わる頃には全員へとへとになっていた。
特に八坂と神谷の疲労が激しい。
「まったく、これくらいで音を上げるとは……先が思いやられるぞ」
エリックが呆れ顔で新人たちを見下ろしていた。
実はエリックも一緒にやっていたのだが、息一つ乱れていない。
「俺らにアスリートでも目指せってんですか!」
息を切らしながら、坂田が吠える。
「何もプロになれって言ってんじゃない。せいぜいインターハイに出れるくらいは鍛えてもらわないとやってけねぇんだよ。この仕事は……」
言い終わると、両手を叩いた。
「今日の訓練はこれで終わりだ。もう帰っていいぞ」
それを聞いた4人に元気が戻ってくる。
「やったー!」
坂田が飛び上がって喜んだ。
「ただし! ……明日からはここの居住区で生活してもらう!」
さっきまで狂喜乱舞していた新人4人が静まり返る。
「えっ……住み込みなんですか?」
八坂が確認する。
「ああ、そうだ。明日の朝八時までに荷物を一階の玄関前に運び込んでおけ。お前らが座学を受けてる間に俺が部屋に運んでおくからな。あと、時間までに来なかったら、こちらから迎えに行く。……逃げられると思うなよ」
この時になって新人4人組はもう後戻りできないのだと気づいた。
ちなみにそのあとは、簡単な身体検査をしてから帰らされた。