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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第四章 UMA ATTACKS
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39 初めての派遣任務

「これが、エリア51で撮影された宇宙人の尋問映像です」


「おぉー!」「すげー!」


 神谷が持ち込んだテレビの画面に、毛が一本も生えてない灰色の猿のような生物が映し出される。

 その生物が、歯が一本も生えてない口をパクパクと動かすと、よく分からない声が聞こえてくる。

 何故、こんな奇抜な映像が地上波に流れているかというと、「TVチャージ」とかいうオカルト系番組の再放送がやっているのだ。

 案の定、オカルト大好きな神谷は、さっきからテレビに釘付けだ。

 杉野と坂田の二人は特にオカルトに興味があるわけではないが、暇なので一緒に見ている。

 夜の十時からやっているので、寝る前に見るのにちょうど良かったのだ。


「はえ~、よく出来てんなぁ~」


 杉野の場合、どうにもこういう番組は胡散臭くて、いままで見ていなかったのだが、実際に見てみるとなかなか面白い。

 やらせっぽい演技の心霊動画やCG丸出しのUMA系の動画など、少々子供騙し感があるが、それも一種の映像作品として考えれば悪くはない。

 こんなことなら、子供の頃にもっと見ておけば良かったと、杉野は今更になって後悔してきた。


「こんなん、偽物だろ? どうせ、ロボットとかだって」


 しかし、坂田の方はこういうのにツッコまずにいられない性格のようで、さっきから現実的な指摘ばかりしている。

 こっちが真剣に楽しんでいる時くらい、黙っていて欲しいのだが。


「絶対に本物の宇宙人です! きっと、今もエリア51に監禁されているのでありますよ」


 根っからのオカルトマニアとして神谷が反論する。

 前から思っていたが、神谷のオカルト好きにはつくづく感心してしまう。

 心霊だけでなく、宇宙人やUMAにも詳しいのだから、この業界に来て正解だったのだろう。

 本人も、大好きな幽霊や都市伝説に出てくるような呪いの道具などを扱えるのが楽しくてしょうがないらしい。

 悩みがなさそうで、羨ましい限りだ。



 番組では、宇宙人の他にもビッグフットやネッシーなどのUMA特集もやっていて、何らかのUMAが出てくるたびに、神谷の解説が始まる。

 未だかつて、これほどまでに生き生きとした神谷を見たことがあっただろうか。

 割とあったかもしれない。

 そんな神谷の様子を暖かい目で見ていた坂田が、思い出したように言った。


「そういやさぁ、前の作戦で講義してくれた藤原さんだっけ? あの人って、確かUMAの研究してなかった?」


 神谷がようやっとテレビから目を離して、こちらに振り向く。


「あー、そんな人いましたねぇ。また、講義してほしいですな~」


 杉野も、前回の仕事が終わった数日後に死んでしまった八尺様を引き取りに来たくらいで、ほとんど交流がなくなっていた藤原のことを思い出す。

 ピクリとも動かなくなった八尺様を見て、かなりショックを受けていたから、もう関わることはないだろう。

 そんなことを考えていると、杉野達がくつろいでいる共用寝室のドアを何者かが叩いた。


「もう夜の十一時だぜ。こんな遅くになんの用だよ?」


 坂田が扉を開くと、ニヤついた顔をしたエリックが廊下に立っていた。

 何か重要な話なのかも知れないと思った神谷が、テレビの音量を下げる。


「よう、夜分遅くにすまねぇなぁ。明日からの訓練なんだが、急遽やってもらいたい仕事が入ったから、しばらくはなしになった」


「はぁ、そっすか。んで、そのやってもらいたい仕事ってなんすか? 俺らの貴重な自由時間を潰してでも伝えないといけないような仕事なんですよね?」


 坂田の声が少しイラついているような気がする。

 それを気にせずに、エリックが続ける。


「あぁ、そうだ。ただ、今回はちょっと特殊な仕事だから、詳しくは明日以降だ」


 それだけ言うと、自分の部屋に戻っていった。


「なんだよ、あいつ! それなら、明日言えばいいのによぉ……ってか、面白そうなとこ見逃しちまったじゃねぇか!」


 坂田が応対している間にUMA特集が終わり、政治がどうの世界情勢がどうのといった話題に変わってしまっていた

 案外、坂田も楽しんでいたのだなと、杉野は安心した。

 無理して付き合ってくれているとかだったら、後味が悪いし。


「んじゃ、もう今日は寝るか」


「そうっすね」「そうしましょう」


 とはいえ、政治などには興味がない若者達はこれ以上見る気がなくなっていた。

 もう時間も遅いので、これからゲームをするのはお隣の女子達の迷惑になってしまう。

 前に食らったバットの味をまだ覚えている杉野達には、リスクが大きすぎるのだ。

 そうして、いつもよりも早めに床についたのであった。



 翌朝、地下八階のミーティングルームに呼び出された杉野達四人は、どういうわけか新幹線のチケットを手渡されていた。

 行先は滋賀県米原駅、名古屋からひかり号に乗って行くようだ。


「車で行くんじゃないんすか?」


 不思議に思った坂田が博士に聞いてみる。


「それがな、相手さんの要望なんじゃよ。なんでも、車を止める場所がないとか」


 まっとうな理由ではあるし、毎度毎度車で行くのも疲れるので、こちらとしてはありがたいことなのだが、杉野には少し引っかかることがあった。


「でも、全員が一緒に会社を出たら、怪しまれるんじゃ? 今迄、色々と気を使ってきたのに、急にどうしたんですか?」


 杉野が聞いてみると、博士の表情に焦りの色が見えた。


「いやはや、やはりそこをツッコまれてしまうかのう。実はな、今回の仕事に関してはワシの管轄ではないのじゃよ。前の作戦で世話になった藤原という男を覚えておるか?」


 杉野を始めとした男性陣は首を縦に振り、神谷なんかはあの人の下で働けることに歓喜したりしていたが、前回の作戦で一人だけハブられていた八坂にはなんのことだか、まったく見当も付いていなさそうな顔をしている。


「あのー、私、その人知らないんですけど……」


「おお、そうじゃったな。八坂君には紹介してなかったのだが、藤原という男はワシの従弟じゃ。滋賀の方でUMAの研究をしておるのじゃよ」


 博士が簡単に藤原の人柄を説明していく。

 その中には、博士の個人的見解なども入っていたりする。


「まあ、そんなところじゃな。では、そろそろ出発してもらおうかのぅ」


 博士が説明を終えると、話を締めにかかったので、慌てて杉野が止める。


「まだ、どういう仕事をやるのかを説明してもらってないっすよ」


「すまんが、ワシも詳しい事は聞いてないんじゃ。そこらへんの事は藤原に直接聞いておくれ。では、解散!」


「ちょ、ちょっと!」


 話を無理やり切り上げると、足早にエレベーターに乗り込んで、何処かへ行ってしまった。



 博士がいなくなってしまい、四人の間に沈黙が流れる。

 皆、得体の知れない仕事をするのは不安なのだ。

 しかも、今回はよく知らない人の下でやれというのだから、猶更だろう。

 こういう時に沈黙を破ってくれるのは、決まって坂田だった。

 しかし、いつも坂田に頼ってばかりでは駄目な気がする。

 そう思った杉野は、今回こそは自分が沈黙を破るのだと決心した。


「えーっと、ここで悩んでてもしょうがないですし、新幹線の時間に間に合わなくなる前に早く行きましょうよ」


「よし、行くか!」「行きましょう!」


 杉野が勇気を出した結果、坂田と神谷の二人はすぐに快諾してくれた。

 三人は意気揚々とエレベーターに乗り込む。

 しかし、八坂だけはまだ行くのを渋っているようで、さっきからエレベーターの前でもじもじしている。

 やはり、男性陣とは違って、藤原という男をよく知らないから心配なのだろう。

 杉野も本当は行きたくない。

 いくら優しそうなおじさんというイメージの藤原でも、博士の親戚という時点で怪しさMAXなのだ。

 さらに言うならば、県外への遠征に関しては苦い思いでしかないので、下手したら杉野の方が抵抗感が強いくらいだ。

 だが、杉野も一人の男として、そんな弱音を吐くわけにはいかないのだ。


「八坂さんも行けるよね? っていうか、ここで行かないと後で何言われるか分かったもんじゃないし、僕としても一緒に来てほしいなぁー、なーんて」


「……そこまで言うなら、行ってもいいけど」


「けど?」


「ちゃんとフォローしてよね。私、最近訓練しかしてないから、実戦続きのあんたらとは違うのよ」


 八坂以外のメンバーはコトリバコの件以降、あちこちの現場に引っ張りだこだったのだが、八坂はその間、ずーっと訓練ばかりしていたらしい。

 ちなみに、少し前に入ってきた清水はというと、射撃センスが壊滅的なことと運動音痴なことが判明してしまい、オペレーターとして起用することとなった。

 そのため、普段の訓練は八坂一人でやることになり、とても寂しい思いをしていたのだろう。

 訓練も実戦とは違って、基礎的なことばかりなので、自分だけ置いていかれているのではないかという不安もあるのかもしれない。

 ここは自分が勇気づけるべきだと、杉野は判断した。


「大丈夫だよ、僕らが付いてるし。なんなら、八坂さんにもどっかで助けてもらうことになるかも知れないし」


「そうだぞ、俺らも八坂ちゃんのこと、頼ってるんだからな」


 坂田からの援護もあり、八坂の不安そうな表情がだんだんと和らいでいく。


「……それじゃあ、よろしく」


 八坂が恥ずかしそうにそう言うと、意を決してエレベーターに乗り込んだ。

 少しだけ足踏みしていた四人だったが、杉野の尽力により、どうにか出発することができたのだった。



 出発する前に武器庫に寄ると、エリックが出迎えた。

 なんでも、銃の整備をしていたらしく、自分の分をやるついでに杉野達の分もやっといたと言うのだ。

 とはいえ、今回は会社の銃や端末などの機材を持っていけないので、あまり意味はない。

 まあ、ありがたいことではあるので、杉野達が感謝の言葉を述べると、エリックから激励される。


「頑張ってこいよ! 特に、八坂は久しぶりの実戦だから緊張してるかも知れんが、肩の力を抜いて挑め! なーに、失敗したとしてもそこの男共がカバーしてくれるだろうよ」


「が、頑張ります!」


 さっきまで、ちょっと緊張気味な八坂だったが、エリックに励まされたことで、少しはリラックスできたようだ。


「お前らにとっては、これが初めての派遣案件なわけだが、自分達が会社の顔だと思って、真面目にやるんだぞ。それと、先方の言う事をちゃんと聞けよ。あとでクレームがきたら……」


 また、エリックのめんどくさい話が始まりそうだとうんざりしていると、エレベーターが開き、中から清水の声がした。


「すいませーん! そろそろ出発してもらわないと、新幹線の時間に間に合いませんよ」


 思わぬ助け舟が来たことにより、杉野達はエリックの長話から解放された。

 あのまま聞いていたら、始まる前から疲れてしまっていたことだろう。


「んじゃ、そういう事なんで、いってきまーす」


 坂田が憎たらしい口調で言うと、清水の待つエレベーターへ飛び込んだ。

 残った三人も、エリックに呼び止められる前にエレベーターへ急いで乗り込んだ。



 どうにか、無駄な気力の消費もなく、早めに出発することができそうだったのだが、最近できたばかりのバカップルをエレベーターのような狭い空間に入れたのは失敗だったかもしれない。


「ダーリン! お土産、楽しみにしてるね」


「もちろんさ、ハニー! ってか、何がいいよ」


 エレベーター内では、坂田と清水によるバカップルな会話が繰り広げられているが、杉野にとってはそこまで問題にならなかった。

 しかし、神谷には少しばかし刺激が強いのか、坂田達のやり取りが始まる前にイヤホンで耳を塞いで、聞かないようにしていた。

 神谷曰く、バカップルのラブい会話を聞いてると耳が腐るらしい。

 八坂はというと、そういう会話に慣れていないのか、ほのかに顔を赤らめてもじもじしている。

 やはり、清水だけでも武器庫に置いていくべきだっただろう。

 まあ、今更後悔しても遅いのだが……。



 若干二名の気力を削り取る時間がようやく終わりを告げ、エレベーターの鉄扉が開いた。


「じゃあね、ダーリン!」


「またな、ハニー!」


 お熱いお二人の別れが済んだところで、さっさと出発してしまおう。

 これ以上、このバカップルに付き合っていたら、さすがの杉野も苛立ってきてしまいそうなのだ。


 

 駅までは自分達の愛車を使っても良いとのことだったので、杉野はカブに跨ると、適当な地下通路を選んで走り出した。

 果たして、今回の仕事では何が待っているのか。

 杉野は始まる前から期待に胸を膨らませていた。

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