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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第三章 Kids in the box
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37 逃げた死体は何処へ行く

 坂田が真っ先に呼び出しボタンを押し、かなりの間が開いてから降りてきたエレベーターに急いで乗り込むと、もっとも地上に近い地下一階のボタンを押した。

 しばらくは特にやることもないので、杉野達は今のうちに作戦を立てることにした。


「とりあえず、殴ったり蹴ったりするのは禁止な。レディに暴力を振るうなんて男としてありえねぇからな」


「了解。それじゃあ、三人で覆い被さって取り押さえるということで」


「絵面がヤベェが、それしかないな」


「そういえば、今の清水さんの身体には何が入っているのですかね? 普通、魂が抜けた死体が勝手に動くなんてありえないと思うのですが」


 神谷の言う通り、死体が動くことなど現実であってはならないことだ。

 そんなことが許されるのは、ゾンビ映画くらいだろう。


「俺に聞かないでくれ。そういうのは、あの糞博士の専門じゃねぇのか?」


「どっちにしろ、早く捕まえて博士の下に連れて帰ればいいだけの話なんですから。頑張りましょう」


「そうだな」「そうでありますな」


 簡単な作戦会議を終え、三人は軽く体操したりしながら、目的の階に着くのを待った。



 地下三階を越えたところで、急にエレベーターの動きが止まった。

 現在の位置を知らせる液晶画面には、「B2」と表示されている。


「なんだ? 故障か?」


 坂田が色々とボタンを押してみたりするが、まったく反応がない。


「どうなってんだよ! この急いでるときによぉ!」


「そういえば、教官がエレベーターの調子が悪いとかで修理したって言ってましたけど」


「直ってねぇじゃねぇか!」


 坂田が憤慨するも、エレベーターの階数表示が変わることはない。


「こうなったら、上に登るか。杉野、ちょっと肩車してくれ」


「なんでですか? っていうか、やるなら坂田さんが下になった方がいいんじゃないですかね? 身長的にも」


 坂田の身長は175cmと、170しかない杉野よりもいくらか高い。

 それに、坂田の方が全体的にガッシリしているので、下になってくれた方が安全だろう。


「分かった。じゃ、天井に付いてるハッチを開けてくれ。頼んだぞ」


 肩車してもらった杉野が天井のハッチを押してみると、意外と軽い力で開けることができた。

 あとは、少し前に廃墟でやった時と同じ要領で、下の二人を上げていく。

 神谷は身長が低いせいか軽かったのだが、坂田の方は筋肉量が違うからか、とても重かった。

 神谷を先に上げてなかったら、無理だっただろう。


 全員がエレベーターの天板へ登り終わると、坂田が次の指示を出した。


「よし、このワイヤーを登っていけば行けるはずだ」


「んな、無茶な」


「無茶でもなんでもやるしかねぇんだよ。それに、まだ告白も済んでねぇのに死なれてたまるか」


 カッコいいセリフを吐いて、坂田が登り始めたのは金属製のロープで出来たワイヤーだった。

 おそらく、エレベーターを巻き上げるのに使う物なのだろう。

 杉野もワイヤーを掴んで登ろうとするも、滑ってしまってなかなかうまくいかない。

 どうやら、坂田がかいた汗で滑りやすくなってしまったようだ。

 そうこうしているうちに、上の方から坂田の声が聞こえてきた。


「おーい! 一個だけ入り口が開いてるフロアがあったぞ! 早く来ーい!」


「先に行っててくださーい!」


「分かった! 気をつけてなー!」


 かなり上の方まで登っていった坂田が、光が漏れている入り口らしき穴に飛び移った。

 無事に飛び移れたようで、入り口から手を振っているのが見えた。

 どうしたものかと、杉野達が考えていると、下の方から何かの音が聞こえてきた。


「な、何でありますか!?」


 神谷の狼狽える声が聞こえたと思うと、頭上に見える、さっき坂田が入っていった入り口が近づいてきた。

 正確には、エレベーターが再び動き出したせいで、自分達が近づいているのだ。


「こ、これは!? どうしましょう、杉野隊員!」


「どうしましょうって、あの入り口に飛び移るしかないよ!」


「了解であります!」


 幸い、エレベータの動きはかなり遅かったので、難なく飛び移ることができた。



 フロアの入り口には、誰も見当たらなかった。

 先に入っていった坂田は、もう奥の方へ行ってしまったのだろう。

 杉野が周りをあちこち見回して、現在地の情報を探してみると、近くの壁に地下二階と書かれたプレートががあった。

 地下二階には、食料や事務用品などが備蓄されており、入り口からは各部屋の扉が並んでいるのが見える。

 とりあえず、無数にある部屋のどれかにいるであろう坂田を呼んでみることにした。


「坂田さーん! 聞こえますかー!」


 すると、扉の一つが静かに開き、そこから坂田が顔を出した。


「しーっ! 静かに! 清水さん見つけたから、なるべく音を立てないように来い」


「「了解」」


 坂田の様子が気になったが、言われた通りに静かに早足で坂田の下へ向かった。



 部屋の中へ入ると、部屋全体が冷蔵庫になっているようで少し肌寒い。

 一応、人が入ってくると勝手につくライトが部屋のあちこちにあるため、視界は良好だ。

 食料が置かれている棚が無数に並んでいる中に、ターゲットはいた。

 どうやら、何か飲んでいるようで、液体が勢いよく喉を通るゴクゴクという音がかすかに聞こえる。


「なんか、飲んでますよ」


「ありゃ、牛乳だな。喉乾いてたんかな?」


「しかも、高いやつでありますよ、あれ」


 ノンホモ牛乳と書かれたパッケージがへこむほどの力で握りしめて、必死の形相で飲んでいるのを見るに、まともな状態ではなさそうだ。


「これは、確保のチャンスなのでは」


 杉野の一言で、誰よりも早く動いたのは坂田だった。

 清水に気づかれないように近づき、後ろから羽交い絞めにする。

 心なしか、胸を鷲掴みにしているように見えるのは、気のせいだろうか。


「オンギャァァァァァ!!!」


 拘束された清水が赤ん坊のような叫び声を上げながら、暴れ出す。

 やはり、胸を揉まれたのが嫌だったのだろうか。

 坂田がセクハラ紛いの拘束術を披露している間に、残りの二人が清水の足を持ってきていたロープで縛ろうと近づく。

 しかし、その試みは急に暴れた清水が坂田の拘束を解いてしまったことにより、失敗してしまった。

 拘束を解かれた拍子に、後ろの棚に叩きつけられた坂田が叫んだ。


「逃がすな! 捕まえろ!」


 言われた杉野達は、咄嗟に腕を広げて障壁を作るが、逃げる清水の渾身のタックルにより、その防御網はあっけなく崩壊してしまった。

 それでも、諦めなかった二人は清水の足首を掴んでなんとか転ばせることに成功した。


「坂田さん! ドア閉めて!」


「了解!」


 清水が倒れている間に、坂田が唯一の出入口であるドアを閉め、退路を塞ぐ。

 しかし、清水も負けずに謎の馬鹿力で足首に取り付いた杉野達を引きづりながら、出口を目指す。

 途中で、重そうな生ハムの原木を棚から拝借した清水が、それを振り回しながら坂田に襲いかかった。


「いってぇ! やめろ! 俺はそんな生肉の塊なんざいらねぇんだよ!」


 清水から生ハムを奪い取った坂田が、そのまま清水を抱きしめた。

 すると、急に抵抗をやめた清水の身体から力が抜けた。


「ようやっと、大人しくなったか」


 そう言うと、ベアハッグの態勢からお姫様抱っこに切り替えて、出口へ歩いていった。

 その姿は、まるで大きな赤ん坊を抱っこしているようにも見えた。



 どうにか、清水の身体を確保し、エレベーターに戻ると、杉野達は大事なことを思い出した。


「そういや、エレベーター壊れてたんだっけ」


 坂田が青い顔をしながら言うので、杉野も不安になってきた。

 下手したら、このまま帰れなくなるかも知れない。

 まあ、もしそうなっても食料は潤沢だから問題はないのだが、肝心の清水の身体がどんどん腐っていってしまうのはいただけない。

 もう駄目なのかと、杉野達が打ちひしがれていると、ポーンという電子音が鳴り、目の前にあるエレベーターの鉄扉が開いた。


「なに、やってんだお前らは! あんまりにも遅いから、迎えに来てやったぞ」


 中から顔を出したエリックを見て、杉野達は救われたような気持ちになった。


「きょうかーん! 会いたかったすわー」


「教官が来てくれなかったら、終わりでしたよー」


「自分は、教官が助けに来てくれることを信じていたでありますよ!」


 急に、杉野達が泣きそうな顔で喜びの声を上げたので、エリックは困惑した。


「なんだぁ、てめぇら? そんなに、俺に会えて嬉しかったのか? 変な奴らだな」


 後で聞いた話によると、杉野達が地下二階に入った時点でエレベーターは直っていたらしい。



「おぉ! ようやく戻ってきたか! さぁ、早く清水君の身体をこの椅子に座らせなさい」


 博士の指示通りに清水を座らせると、すぐに機械が動き出した。


「ちなみに、これって成功率どれくらいなんですかね?」


「そうさな、大体10~15%ってところかのう」


 博士の答えを聞いた坂田が、案の定、博士に殴りかかったので杉野と神谷が慌てて抑えた。


「そう心配せんでも、きっと大丈夫じゃよ」


 なんの根拠のない言葉に、杉野も呆れて何も言えない。

 しかし、もうこれ以上やってやれることもないので、あとは博士の技術力を信じるしかないのだ。



 しばらく待つと、機械の動きが止まり、チーンという音が聞こえてきた。

 すると、清水の瞼がゆっくりと開き、キョロキョロと周りを見回してから、坂田を見つけ、心底安心した表情を浮かべた。


「さ、坂田さん……」


「えーっと、その、俺で良かったら付き合ってくれねぇか? なーんて」


 坂田の告白を聞いた清水が涙と鼻水を流しながら、坂田に抱きついた。


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 告白の成功を見届けた一同が拍手を送る。

 清水にとって、今まで生きてきた中で一番幸せな瞬間であった。

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