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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第三章 Kids in the box
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36 人体実験

 博士が何者かとの通話を終えてから、しばらく待っていると、エレベーターからエリックが顔を出した。


「すまんな、ちょいとエレベーターの調子がわりぃみてぇでな、修理してたら遅れちまった」


 遅れた言い訳を言いながらエリックが出てくると、その後ろに見覚えのある顔が見えた。

 エリックの後ろに付いて出てきたのは、さっきまで八坂と射撃訓練をやっていたはずの清水だった。


「な、なんで、清水さんも連れて来てんだよ! 今日一日、このフロアは女人禁制なんじゃねぇのかよ!」


「それはじゃな、最後の『コトリバコ』を使った実験に、清水君が必要だからじゃよ」


 何処かで見たことがある機械をいじっていた博士がとんでもないことを口走るので、ブチ切れた坂田が博士に食ってかかった。


「そいつはどういうことだ! もしかして、清水さんもさっきの八尺様みたいに殺そうってのか?」


「何を勘違いしとるのだ。ワシがそんな非人道的な実験をするはずがないじゃろう?」


 まったく信用できない言葉を吐いた博士に、坂田が頭突きを食らわせた。


「ちょ、何やってんすか!? 一応、お年寄りなんですから、暴力はまずいですって!」


 さすがにまずいと感じた杉野が坂田を羽交い絞めにして、落ち着かせようとする。


「放せ! 杉野! 俺はまだこの糞ジジイに言いたいことが山ほどあんだよ!」


「まったく、荒っぽい奴じゃのう。心配せんでも、コトリバコで死なせたりせんわ」


「で、ですよね~。ほら、博士もそう言ってますし、少しは落ち着いてくださいよ」


 ようやく観念した坂田から力が抜けたのを確認して、杉野が拘束を解いた。


「ま、死ぬには死ぬがな」


 博士の狂言を聞いた坂田を止めるには、杉野の反射神経が足りなかった。

 大人しくなったと思っていた坂田は、狂った博士へ目にも止まらぬ速さで鉄拳を食らわせ、エリックによって取り押さえられた。


「落ち着け、坂田! 俺と博士を信じろ!」


「んなもん、信じられるわけねぇだろ! 放しやがれ、このハゲ坊主!」


 坂田の両腕を押さえつけていたエリックの手に更に力が入る。


「いい加減にしねぇと、てめぇの腕を折ってやるぞ」


 エリックの脅しを聞いても抵抗を止めなかったので、実験中はエリックが坂田を拘束しておくことになった。

 あまりにもワーワー騒ぐので、口をダクトテープで塞がれた坂田の姿は、傍から見たら誘拐されてきたようにも見えた。



 実験自体は、さっきとそう変わらない。

 違うのは、人間のような化け物ではなく本物の人間を使う点だ。

 実験の概要を聞いた清水は、二つ返事で承諾した。

 しかし、杉野はどうにもさっき博士が呟いていた言葉が気になってしょうがない。

 「呪いに逆らう」とはどういうことなのだろう。

 杉野は嫌な予感を感じながら、実験の準備を進めていった。



 実験の準備が完了し、後は電極を付けた清水にコトリバコを開けてもらうだけになった。

 ちなみに、今回は暴れる心配がないので、さっき使った携帯型ではなくちゃんとした脳波計に繋がっている。

 早速、清水が最後のコトリバコを開けようとすると、博士からストップがかかった。


「ちょっと、いいかね? 少しばかり内容を変更したいのだが、構わないか?」


「全然いいですよ。それが、坂田さんの為になるなら」


 突然の博士の無茶ぶりを、未だにもがくのを止めようとしない坂田を見つめている清水が快諾した。


「そいつはありがたい! なーに、そう大した変更点じゃない。ただ、この椅子に座ってから、箱を開けてほしいというだけだ」


「それくらい、お安い御用です」


 そう言って、清水が座ったのはいつかの作戦で使った「幽体切り離し機」だった。

 杉野は薄々、博士のしたいことが分かったような気がした。



 それからしばらく経ち、清水が箱をいじる音だけがフロアの中に響いていた。

 さっきまで、元気に暴れていた坂田は疲れてしまったのか、微動だにしない。

 カタカタと清水がコトリバコの仕掛けを解いていき、ついには上の蓋を開けるだけとなった。

 ちなみに、この最後のコトリバコは杉野達が廃墟で探し当てたあの箱だ。

 他の箱よりも年季が入っているせいか、清水がいじるたびに砂や埃が出てきて、清水の着ていた作業服を汚していた。

 清水が蓋を開ける瞬間、いきなり博士が幽体切り離し機を操作し始め、機械に付いたあちこちのランプが点滅する。

 すると、清水の目から生気が消え、脳波計の波がなくなってしまった。


「ちょ、これ死んじゃったんじゃないっすか?」


 杉野が聞いてみるも、博士はニタニタ笑っているだけで何も言わない。

 さっきまで大人しくエリックに拘束されていた坂田もそれを見て、再び暴れ出した。


「フフフ……ハーハッハッハッ!! 人外すら葬り去るほどの呪物を騙してやったぞ!」


 何を言っているのか、見当もつかない神谷が質問をする。


「あのー、何のことだか、さっぱりなんですけど。どういうことか説明してもらえませんかね?」


「ふむ、そうじゃな。素直に協力してくれた君らには特別に説明してやろう」


 そう言うとこちらに向き直り、説明を始めた。


「今、清水君は死んでいると云える。これは、紛れもない事実だ。しかし、決してコトリバコの呪いで死んだわけではない! 清水君がコトリバコを開ける瞬間に、この『幽体切り離し機改』で清水君の幽体を切り離したのじゃよ」


「へっ? でも、前に使った時は生きてる人の幽体までは切り離せなかったような?」 


「前のはパワーが低かったから生きた人間に憑りついた幽体しか切り離せなかったが、今回使った改良型はパワーを従来の三倍まで上げることができ、その莫大なパワーを使って本来切り離せない生体が元々持っている幽体も切り離せるのじゃ」


 確かに、よく見ると博士のハイエースに載せられていた切り離し機とは違って、かなりゴツく見える。

 椅子は金属製になっているし、頭に被せるボウルの部分には電極やランプなど付いており、煌びやかになっている。

 椅子にチューブやコードで繋がっている機械も、なんとなく大きくなっているような気もする。

 確かに、これならそれくらいの芸当ができてもおかしくないだろう。

 しかし、杉野にはある疑問が残っていた。


「ところで、これって蘇生もできるんですか?」


「もちろんじゃとも! まあ、機械の出力を逆にすればいいだけなのだが、ちょいと成功率が低いのが玉にきずじゃな」


 また、博士がろくでもないことを口走るので、坂田の暴れる力がさらに強くなる。


「つまりは、本来コトリバコを開けるのには清水さんの命が必要なんだけども、箱が開く瞬間に機械で清水さんの幽体を切り離すことによって、疑似的に死亡している状態にし、後で蘇生できるようにしたということですか」


 杉野がなんとなく理解できたことを確認してみる。


「ま、簡単に言えばそうじゃな。どうじゃ、完璧な作戦だったじゃろう?」


「……申し上げにくいんですが、その清水さん、というか幽体が抜けた後の身体がどっか行っちゃったみたいなんですけど」


 椅子にはもはや誰も座っていない。

 博士は説明に忙しくて気づいていなかったようだが、あの後すぐに清水の身体がすくっと立ち上がり、エレベーターに乗って何処かに行ってしまったのだ。


「なんじゃと!? 何故、それをすぐに言わなかった!?」


「いや、生き返ったのかなぁって思ってたんで」


「馬鹿者!! 早く探してこい! このまま、外に逃げられたら蘇生できんかも知れんぞ! エリック、そやつを放してやれ。捜索隊は多い方がいいじゃろう」


 エリックが坂田の拘束を解き、口に貼ってあったテープをベリリと剥がした。


「いってぇなぁ! もっと優しく剥がしてくれよ! んで、清水さんを探せばいいのか?」


「そうじゃ」


「一つ確認しておきたいんだがよぉ、外に逃げられたら蘇生できないってのはどういうことだ?」


 坂田の問いに、博士の表情が険しくなる。


「それはじゃな、人間の肉体というものはかなりいい加減な作りをしておってのう。長いこと幽体を切り離しているとだんだんと肉体が腐っていってしまうのじゃ。もし、腐ってから幽体を戻したとしても、元の奇麗な肉体には戻れんじゃろうな」


「そんな……」


 坂田が絶望した表情でエレベーターを見つめるので、杉野が坂田の背中を叩いて気合を入れる。


「なに弱気になってんすか! 早く探しに行きますよ。好きなんでしょう? 清水さんのこと」


 杉野の励ましを聞いて、神谷も便乗して言った。


「そうですよ! 坂田さんならきっと彼女を救えます! 自分が補償します!」


「おめぇら……」


 涙目になった坂田が、自分の頬を叩いて気合を入れなおした。


「よっしゃ! やってやるか!」


「はい!」「了解であります!」


 坂田の男らしい号令を待ってましたと言わんばかりに、二人が大声で返事を返した。

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