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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第三章 Kids in the box
33/103

33 箱の中身はなんじゃろな?

 次の日、杉野達は朝早くから、地下七階にある研究フロアへ集められた。

 ただし、女性陣を抜いた男三人組だけである。

 研究フロアには、杉野達以外にも博士はもちろん、エリックもいる。

 なんとも暑苦しいメンバーの中、今日の仕事が始まった。


「諸君、おはよう! 今日は、一昨日君達に回収してきてもらったコトリバコを使った実験をやろうと思う」


 博士が言い終わるやいなや、杉野がそーっと手を挙げた。


「なんだね? 杉野君」


「あのー、なんも聞いてないんですけど、実験ってなんすか?」


「ふむ、言い忘れていたわけではないぞ。言ったら、君達が逃げ出してしまう可能性があるからな。あぁ、こらこら! 今になって、逃げ出そうとするんじゃない!」


 こっそり逃げようとした坂田を呼び止めた博士が、エリックに指示を出して、坂田を捕まえさせた。


「まったく、まだ実験内容も言ってないんじゃぞ」


「じゃあ、早くその内容とやらを言ってくれよ。逃げてやるから」


「どっちにしろ、逃げるんすね」


 少し呆れた杉野が軽くツッコミを入れる。


「まあ、やること自体はそう難しくはない。エリック! まずは『イッポウ』を持ってきてくれ」


「へいへい。まったく、人使いが荒いったらねぇぜ」


 文句を言いながらも、奥の保管庫から一昨日杉野達が命がけで持ち帰ってきたコトリバコの一つを持ってきた。


「まずは……坂田君! ちょっと、こっちに来なさい。ほら、恥ずかしがらないで、早く!」


 軽く怒鳴られた坂田が、渋々前へ出る。


「では、まず普通に開けてみてくれ。まぁ、開くことはないと思うが」


 煽られた坂田が箱を開けてみようとあちこちいじってみるが、本来ずれるはずの板が動かず、ビクともしない。


「よし、もうよい。次にこいつを使ってみてくれ」


 そう言って手渡したのは、いつも使ってるベレッタだった。


「これで、この箱を撃ちゃーいいのか?」


「あぁ、存分にやってくれ。もちろん、中の弾は対幽体弾じゃから跳弾を気にしなくともよいぞ」


 コトリバコを床に置き、狙いを定めると、引き金を引いた。


「痛ってぇぇぇぇ!!!!」


 放たれた弾丸は見事に外れ、あちこち跳弾してから、坂田の股間に直撃した。


「なるほど。では、今度は銃口を箱に当てて撃ってみてくれ」


「ちょっと、タンマ。今、ガチでキツイから」


「ならば、杉野君! 代わりに撃ってくれたまえ」


「はぁ、分かりました」


 やる気のない返事を返した杉野が、痛そうに股間を抑えている坂田から銃を受け取ると、言われた通りに銃口を箱に当てて、ぶっ放した。

 至近距離で撃ったので、今度は外すことなく箱の天板部分に穴を開けることができた。


「ちょいと、覗いてみなさい」


 指示された杉野が中を覗いてみると、中は真っ暗で何が入っているのか、まったく分からない。

 しかし、箱を持ち上げて軽く振ってみると、中からチャポチャポと液体が揺れる音がした。

 よく聞いてみると、液体の他にも何か固形物が入っているようで、中でぶつかるような音も聞こえる。

 試しに、箱を逆さまにしてみると、先程開けた穴から赤黒い液体がドバドバと流れてきた。


「な、なんすか!? これ!?」


「おそらく、血じゃろうな」


「血!? 血って、人間の血っすか!?」


「それは解析してみないと分からぬが、何者かの血液、しかも相当長いこと木製の箱の中に入っておったのに、乾いていない。これは、なかなかに面白い代物だのう」


 最終的に、研究フロアの白い床に小さな赤い湖が出来るほどの血が流れた。

 ようやく、血が止まったので箱を振ってみると、さっきよりも中で何かがぶつかる音がはっきりと聞こえる。


「これ、まだ中になんか入ってるみたいなんですけど……」


「開けてみなさい。銃で撃つか、そこらにある道具を使ってな」


 銃で撃って開けるのもいいが、少し勿体ないような気がしたので、そこらの机に置いてあった金槌を使うことにした。

 鏡開きの要領で箱を叩き割ると、破片と共に中に残っていた血が当たりに飛び散る。

 顔に飛んできた血を拭い、残った破片を取り除いてみると、中には勾玉のような肉塊が一つだけ入っていた。


「これって、もしかして……」


「うむ、胎児じゃな」


 博士の答えで疑惑が確信に変わった杉野が後ろへ飛び上がった。


「そんなにビビらんでもいいじゃろ。もっとエグイもんを扱ってるんじゃからな、我々は」


 確かに、死んでもなお動き回る幽体に比べれば、動かない胎児の死体など恐怖の対象にはならないだろう。

 それに、人の死体を見たのはこれが初めてというわけでもない。

 それでも、杉野にとってはショッキングな光景だったのだ。

 血が付いているからだろうか、それとも呪いの道具から出てきたからだろうか。

 おそらく、どちらも違うのだろう。

 何故、ショッキングだったのか、それは杉野にも分からなかった。

 人間の本能が杉野を恐怖させたと云うのが、一番しっくりくるかもしれない。


「この『コトリバコ』は呪いの道具として作られたのだが、その材料として、人間の胎児と雌の血を使うのじゃ。ちなみに、雌の血に関しては基本的に獣の血を使うのだが、人間の、特に一緒に入れる胎児の母親の生き血を入れると、より効果が高まるらしい」


 博士が説明する中、坂田は未だに股間を抑えてうずくまっており、杉野はさっき見たショッキングな光景を忘れようと明後日の方向を見ているので、真面目に聞いているのは神谷だけだった。


「それで、この箱には胎児が一つしか入ってないのじゃが、そのような箱を『イッポウ』と呼ぶ」


「あのー、質問なんですけど」


「君だけだよ、神谷君。真面目に聞いてくれるのは。それで、なんだね? 遠慮なく言ってくれたまえ」


「えっと、その胎児っていうのはどうやって調達するんですか? もしかして、母親を殺して……」


「まぁ、そんな例もあるようだが、基本的には流産したものを使うらしいぞ」


「へぇー、案外まともなんだな」


 ようやっと復活した坂田が反応する。


「普通なら火葬するなりして、供養するもんじゃがな。供養するどころか、呪いの道具に利用するなど酷い親もいたもんじゃわい」


 珍しくまともなことを言っている博士に感心した坂田がさらに聞く。


「ってか、これってどうするん? 終わったら燃やすのか?」


「いや、血はなるべく回収するし、胎児に関してはホルマリン漬けにして、保存しておくぞ。せっかくの研究材料だからな、燃やすなんて勿体ないことをするか」


 坂田は感心してしまったことを後悔した。

 やはり、どうあがいてもマッドサイエンティストなことは変わらないのだ。


「そういえば、最初に坂田君が撃った時に何か違和感を感じなかったかね?」


「んまぁ、そう言われてみると、なんか変だったような……ちゃんと狙ったのに、撃つ瞬間に照準がブレたような気がして」


 坂田はこの三人の中でも射撃がうまい方だ。

 それはエリックも認めるほどで、毎日の射撃訓練では的を外す方が少ないくらいなのだ。

 そんな坂田が、素人がやるようなミスをするのだろうか。

 いつもの射撃場ならともかく、ここは周りに衝立もない、ただの研究室だ。

 それならば、尚更外すはずがないだろう。


「何故外したのか、それはおそらく、この呪物の習性が関わっているのではないかと、ワシは考えておる」


「習性っすか?」


「ああ、そうだ。実は、君らがこれを取りに行ってる間にエリックに、あの廃墟で見つけたコトリバコを解体してもらうよう頼んだのだが、何度やっても失敗したのじゃよ」


あのエリックも失敗したという事実に坂田だけでなく、放心状態だった杉野も驚愕していた。


「マジっすか!? あの、銃撃つだけしか取り柄のない教官が!?」


「箱と一緒にお前も解体してやろうか」


「あーいえ、すんません」


 エリックに凄まれた坂田が素直に謝る。


「それでじゃ、詳しく調べてみると、あることが分かったんじゃ。坂田君、それが何か、当ててみなさい」


「なんか飛ばして、妨害してるとか?」


「まぁ、当たらずとも遠からずじゃな。正確には、箱から照射された電磁波によって、攻撃しようとする人間の脳を一時的に操っているのだ」


「んなこと、できんの!?」


「あくまで、仮説だがな。それを証明する為に、エリックの頭に電極を付けて、脳波を計りながらやってもらったのじゃが、なんと撃つ瞬間に異常な値を記録しているんじゃよ! やはり、あの箱の防衛機能の一つなのかも知れんな。まぁ、さっきのように外しようがないほど近くで撃てば大丈夫じゃろう、多分な」


 最後の方に、不穏な言葉が聞こえたような気がしたが、杉野達は敢えて聞き逃すことにした。

 そこらへんをつっこむと、まためんどくさい講義が始まりそうな気がするからだ。


「よっし! では、どんどんいってみようではないか!」



それからは、様々な手段でコトリバコを解体していった。

対戦車バズーカで撃ってみたり、地下駐車場に場所を移して、前にエリックがぶっ放していたナースホルンという自走砲で撃ってみたりと、めちゃくちゃな方法ではあるが確実に成果は出ていた。

 方法によっては、箱の中の胎児が影も形もなくなってしまったこともあったが、コラテラルダメージということで揉み消された。

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