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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第三章 Kids in the box
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30 怪物の正体

 翌朝、前日の疲れで泥のように眠っていた杉野が目を擦りながら起き上がった。

 時計を見てみると、すでに午前九時を回ったところだった。

 幸い、今日は休みを貰っていたので、特に焦る必要もない。

 そういえば、昨日はかなりショッキングなことがあったような気がしたが、どうにも思い出せない。

 思い出せないものを無理にどうにかしようとしてもしょうがないので、記憶の迷路を彷徨うのは一旦諦めて、杉野は歯を磨きに洗面所へ向かった。



 洗面所には、すでに先客がいた。

 その先客はこちらに気づくと、屈託のない笑顔で朝の挨拶をしてきた。


「おはよう! 昨日はよく眠れたか?」


 櫛で金色の髪をときながら、髭を剃っている坂田に若干呆れながら杉野が挨拶を返す。


「おはようございます。なんか、変な夢見ちゃって、あんまり眠れませんでしたよ」


 昨晩、杉野は謎の怪物に追いかけまわされる夢を見ていた。

 怪物がどんな姿だったとかははっきりと思い出せないが、とてもリアルな夢だったことだけは記憶している。

 まるで、現実に起こったことだったような幻覚さえ覚える。


「そうなんか~。ま、今日は休みだし、昼寝でもすりゃーいいんじゃね。にしても、昨日のあれ! やばかったよなぁ、頭が半分になってんだもん」


「あれ? あれって何でしたっけ?」


「ほら、島根から追いかけてきた八尺様とかいうバケモン! あんなヤベェ奴忘れるって、杉野も肝が座ってきたなぁ。俺なんて、未だに頭のどっかにあいつの怖えぇ顔がこびりついて離れねぇもん。こういうのって、ぴーてぃーえすでぃーって言うんだっけか? 労災とか降りねぇかなぁ」


 坂田が教えてくれたおかげで、杉野は全てを思い出してしまった。

 悪夢に出てきた怪物の姿も、今なら鮮明に思い出せてしまう。

 今度、博士に良い病院を紹介してもらおうと、杉野は心に決めた。



 洗面所でうるさくしすぎたせいか、さっきまでぐっすり眠っていた神谷がボサボサの髪を搔きながら、こちらにやってきた。


「お二人とも、お早いですね。自分はまだ寝足りないのでありますよ」


 今にも眠ってしまいそうな目は、杉野でも坂田でもない、何処か遠くを見ているようだ。


「まだ、寝ててもいいんだぜ。なんせ、俺ら三人は今日一日休みなんだからな」


「いや、なんかうるさくて目が覚めちゃいまして」


 神谷が伸びをしながら答えると、坂田が申しわけなさそうな顔で謝る。


「あぁ、すまん。うるさかったか。そうだ! 今日は三人で昼寝しようぜ! 俺も昨日の疲れが残ってっから、ちょびっと寝足りねぇんだよ」


「それは、良い提案でありますなぁ! ではでは、お昼を食べたら、またここに集合ということで」


「よーし! んじゃ、それまでどうすっかなぁ~」


 三人でこれからの予定などを話し合っていると、共同寝室に付いているスピーカー越しにエリックの声が聞こえてきた。


「……あーあー、聞こえてるかー? まぁ、聞こえてなかったら直接言いに行くだけだが。えっほん、今日は休みと言ったが、ちょいとお前らにやってほしいことがある。至急、地下七階に来るように」


 エリックの放送が終わると、洗面所に沈黙が流れた。

 しばらくして、坂田が口を開く。


「聞こえなかったふりしとくか」


「いや、直接言いに来るとか言ってましたから、意味ないっすよ」


「つっても、無理だぜ、俺。昨日に続いて、またなんかやれって言ってんだろ。次は、何処に行かされるか分かったもんじゃねぇ!」


 確かに、今日もまた何処かに遠征してくれと言われたら、杉野だって無理だと断るだろう。

 しかし、あの鬼教官のことだ。

 こちらの要求を無条件で飲んでくれるとはとても思えない。

 他の何かめんどくさい仕事を回される可能性だってゼロではないのだ。


「どっちにしろ。行ってみないとわかんないっすよ。案外、簡単な軽作業とかかも知れないし」


「んまぁ、杉野が言うなら、行ってみるけどよぉ」

 その後、地下七階に着くまでのエレベーター内では、坂田のやりたくないコールがヘビーローテーションしていたのであった。



 地下七階の研究フロアに着くと、黄色い防護服を着た博士が出迎えた。


「せっかく休んでおるのに、呼び出してしまってすまんのう。すぐに終わる用事じゃから、ちょいと辛抱しておくれ」


「へいへい。ってか、その服なんだよ? 事故でも起こしたのか?」


 研究フロアには、様々なよく分からない機械が所狭しと並んでいるのだが、中には放射線マークやドクロマークなどのおっかないステッカーが付いている機械もある。

 下手したら、今まさに自分達は被曝しているのではないかと不安になってくる。


「あぁ、これか? 心配せんでも、自然放射線以外には君らの端末から出ている電波くらいじゃよ。もっとも、それも人体に影響を及ぼすほど強くもないがな」


「じゃあ、なんで着てんだよ? それ、放射線だか放射能だかを防げる服なんだろう?」


「この服はな、お守りみたいなもんじゃ。仕事柄、そういう事故が起こりやすいからのう。研究フロアにいる間は、防護服を常に着るという癖を付けているのじゃよ。もちろん、もし事故が起こったとしても、各階の間には厚さ10cmの鉛版を入れてあるから、君らが被曝する可能性は著しく低いので、安心してくれ」


 長々と説明した博士が防護服越しに気味の悪い笑みを浮かべる。

 ぶっちゃけ、あまり安心できなかった杉野達が不安を表情で訴えると、博士がしょうがないなといった感じで防護服を脱ぎ始めた。


「こいつを着ていたら、君らの不安が解消されなさそうだから、特別に脱いでやるわい。まあ、今日はそういう実験をする予定はないから、特に支障はないが……」


 防護服を脱ぎ終わった博士が、脱いだ後のルーティンとしてさっきまで着ていた防護服を専用の洗濯機に放り込んだ。


「では、ちょいと付いてきたまえ」


 博士が杉野達を、自分の城である研究フロアの奥へ入れたのはこれが初めてであった。



 博士に付いて研究フロアの通路を進んで行くと、色々な怪しい機械や毒々しい色をした薬品など、如何にもマッドサイエンティストな感じのレイアウトになってきた。

 さらに驚いたことに、奥の方には怪しいロボットが佇んでいるではないか。

 そのロボットは、上下逆になった三角錐の胴体や三角形のキャタピラなど、なかなか先鋭的なデザインのパーツが使われていた。

 杉野達が近づくと、ロボットが起動したようで、ゆっくりとブラウン管で出来た顔をこちらに向ける。

 顔には何処かで見たような顔の中年男性が映っていた。

 杉野はその顔が誰に似ているのか、少しばかし考えてみたが、どうにも思い浮かばない。

 確かに、ごく最近見たような気がするのだが。


「紹介しよう。ワシの従弟の藤原(ふじわら)秀里(ひでさと)じゃ。君達の教師役として来てもらった。と言っても、ロボット型通話機越しじゃがな」


 杉野のさっきまでの疑問は、博士の紹介によって解決した。

 言われてみれば、顔のパーツや雰囲気が博士に激似である。


「初めまして。いつも兄さんの話に出てくる優秀な若者達というのは、あなたたちですね。私は滋賀の方でUMAの研究をしておりまして。この度、あなた方がUMAを捕まえたということで、兄さんに講義を頼まれたしだいでございます」


 顔は似ているが性格は真逆なようで、とても丁寧な口調で話す藤原に、さっきまで怪しんでいた杉野達も今となっては博士よりも信頼できそうに思えていた。


「これはどうもご丁寧に。っていうか、UMA? 俺らが捕まえたって……もしかして、あの八尺様とかいうバケモンのこと?」


「その通り! 正確にはヤマトウェンディゴという名前なのですが、君達にも分かりやすいように八尺様という通り名で説明しましょう。最初に謝っておきたいことが一つあるのですが、この八尺様は元々うちの施設で管理していたUMAなのです。少し前に逃げ出してしまって、そのまま行方不明になっていたところを、あなた方が命がけで捕獲してくれた。これに関して、私どもの不手際によりあなた方に怖い思いをさせてしまったことは誠に遺憾であります。今後はこのようなことがないように尽力いたしますので、どうか許していただけないでしょうか」


 藤原の弁明を聞いて、坂田が照れた顔をする。


「全然いいっすよ! 俺らもあいつと戦って一皮剥けましたから。ある意味、ちょっとした戦闘訓練ができたと思えば、こっちが感謝したいくらいですもん」


「そう言ってもらえると助かります。それでは、言うべきことを言ったところで、本題に入ります。まず、八尺様とは何者なのか。皆さんも気になっていることでしょう。ズバリ、我々と同じ人間なのです!」


「えぇー!! マジで! 聞いたか、杉野! あいつ、俺らと同じ人間なんだって!」


「ちゃんと聞こえてますよ。でも、僕らとは何もかも違うように見えるんですけど、ほんとに同じなんですか?」


「それがですね、生物学上は同じ祖先なんですよ! ここが、UMA研究の面白いところでして――おっと、脱線してしまうところでした。失敬、失敬」


 うちの博士とは違って、ちゃんと自制もできるようだ。

 杉野はあっちの組織に入ればよかったと、今更になって後悔してきた。


「話を戻しますと、我々と同じクロマニョン人を祖としているという点は共通しているのですが、実際にDNAを調べてみると、ある異常が見つかったのです。それが何なのか、分かりますか?」


「えーと、DNA自体が少ないとか?」


 神谷が答えると、藤原は残念そうに首を振る。


「まぁ、個体によってはそういう事象が起こることもありますが、全ての個体に共通するものではないので、この場合は不正解ですね。正解を発表しますと、DNAの数ではなくその構造が我々と違っているのです。これはまだ仮説なのですが、クロマニョン人の中に突然変異で体の一部が肥大化した個体が発生し、運の良いことに子を成して、世代を重ねてしまったことにより、あのようなUMAが出来上がってしまった可能性があるのですよ。ただ、この説を覆すようなトンデモ理論もあるのですが……」


 藤原がそこまで言うと、困った顔をして固まってしまった。


「トンデモ理論ってなんですか? もったいぶらないで、教えてくださいよ」


 こういう話には目がない神谷が、我慢できずに聞いてみる。


「えーと、これはかなり馬鹿馬鹿しい理論なので、あまり言いたくないのですが、そちらの方はそういうのが好きそうなので特別に教えます。えっほん、そのトンデモ理論とは、DNAの中にあるゲノムが何者かによって編集された痕跡があるというのです。しかも、それを行ったのは宇宙人だとか」


「それは、なかなか興味深いですな」


 オカルト関係ならなんでも大好物な神谷が、キラキラした目をして相槌を打つ。


「私としては、宇宙人よりも我々地球人が編集したということなら、まだ信じられますがね」


「なるほど、ミュータントでありますか。それはそれで、おもしろ――刺激的な考えでありますな」


「まぁ、そのような不道徳的研究に手を染めている輩や存在しているのかも分からない宇宙人が作った物を研究しているとなれば、国からの補助金が滞ってしまうので、このようなトンデモ理論を私達が認めるわけにはいかないのですが」


 それを聞いて、杉野達は自分達の上司の方の博士をじとーと見つめた。


「何じゃ、その目は! ワシがそんな研究に手を染めるはずがないじゃろう!」


 これまでの所業を考えると、何かよからぬ研究をしていても不思議ではない。

 現に、幽霊を撃って捕獲するなどという、バチが当たりそうなことを自分達にやらせているのに、国から補助金を貰っているどころか、軍との癒着もあるこの組織が何処かの団体に糾弾されないのが不思議でしょうがない。

 やはり、秘密結社らしく隠れてコソコソやっているからだろうか。

 暴露本でも出したら、一財産築けそうだと杉野は考えていると、藤原が優しい口調で言った。


「そういえば、君達は今日休みだったんだっけか。それじゃ、講義はここらへんで終わりにしとこうかね。また機会が会ったら、その時はじっくり講義させてもらうよ。ではでは、ご清聴ありがとうございました」


 ブラウン管に映っていた藤原の映像がプツンと切れて、ロボットが動かなくなった。


「では、これにて解散とする」


 博士の一言により、杉野達はようやく解放された。


「あーそうだ! この後、面接を行う予定だから、興味があったらミーティングルームに来たまえ」


 そう言い残すと、博士は足早にエレベーターへ向かって行った。

 杉野達は互いに顔を見合わせると、アイコンタクトだけでこの後の予定を打ち合わせた。

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