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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第三章 Kids in the box
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23 逆襲の人形軍団

 平静に戻った杉野が今迄の出来事を話すと、坂田が腕を組んで考え込んでしまった。

 しばらく、坂田の答えを待っていると、杉野のすぐ後ろから物音が聞こえた。

 どうにも、先程逃げてきた部屋からしたようだ。


「まだ、いるのか?」


 坂田が聞くと、杉野は無言で頷いた。


「ほいじゃー、三人で入って取り押さえちまおうぜ。さすがに、三人もいれば大丈夫だろうよ」


「僕も行くんですか?」


「あったりめぇよぉ! まぁ、どうしても無理だってんなら俺と神谷の二人で行くけど……」


 ここで逃げているようでは、この仕事は務まらないだろう。

 そう考えた杉野は、覚悟を決めて例の部屋へ足を踏み入れた。



 部屋の中は酷い有様で、あちこちにマネキンの頭や腕が転がっていた。

 杉野が足元に気を付けながら部屋の奥に入っていくと、あの木偶人形がなくなっていることに気づいた。


「あれ? いなくなってる?」


「んな、アホな」


 坂田がそこらじゅうのマネキンをひっくり返して探してみるも、やはりマネキン以外の人形はこの部屋にはないようだ。

 ひとりでに歩いて、何処かに逃げてしまったのだろうか。

 それとも、あれは杉野の恐怖心が生み出した幻だったのか。

 そんなことを考えていると、今度は上の階から何者かの足音が聞こえた。


「上におるんか!?」


 坂田が銃を抜くと、部屋の出口へ歩き始める。


「ターゲットの捜索はどうするのでありますか! 制限時間は残り一時間しかないのでありますよ!」


「んなこと言ったって、そんなやべー奴をほったらかしにしといたら何されるか分かんねぇだろ。もし、後ろから殴られでもしたら怪我どころじゃすまねぇよ」


「まあ、確かに……」


 神谷を納得させると、そのまま早足で部屋を出ていってしまう。

 坂田が出ていき、神谷と二人だけになってしまうと、急に気まずくなる。


「じゃあ、僕らも行きますか」


「そうでありますな」


 その空気に堪えられなくなった二人も銃を抜き、小走りで坂田の後を追った。



 五階へと登る階段の踊り場まで来ると、それまで先頭を歩いていた坂田がこちらに振り向いた。


「んで、どうするよ。木の人形に銃なんか効くのかね」


「なんの作戦も立ててなかったんですか!?」


「いや~、変にカッコつけちゃったから、後に引けなくなっちゃってね」


 坂田が恥ずかしそうに頭を掻く。


「まぁ、所詮は木ですし、効くとは思いますよ。ただ……」


「ただ?」


「僕はその銃撃戦には参加できません」


 杉野が言いきると、坂田が顔をしかめる。


「なんでだよ! 今更怖気づいたのか!?」


「そうでありますよ! こちらには飛び道具があるのでありますから、必ずや勝利できましょう。しかし、二人だけではどうあがいても火力不足。やはり、杉野隊員の援護が必要なのであります!」


 二人が必死に説得するが、杉野は首を縦に振らない。

 なぜなら、杉野にはどうしても銃撃戦に参加できない理由があるからだ。


「いや、援護したいのは山々なんですけど、さっき乱射した時に弾を撃ち尽くしちゃいまして……」


「予備のマガジン、持ってきてるんじゃねぇのか?」


「それが、急いで準備してきたんで、持ってくるのを忘れちゃって」


 そこまで話すと、坂田がやれやれといった表情で腰に差したマガジンを杉野に渡した。


「しょうがねぇ奴だなぁ。これ使え。足りなかったら、神谷に貰っとけよ」


「……これ、空マガジンですよ」


「え!? マジで!?」


「マジです」


 驚いた坂田が、さっき渡したばっかりのマガジンをひったくって、中身を確認する。

 中には、一つの弾薬も入っていなかった。


「ほんとだわ。神谷、マガジン持ってねぇか?」


「申し上げにくいのでありますが、自分も予備のマガジンを忘れてしまいまして。今、装填している十五発を除けば、これくらいしか……」


 神谷が申し訳なさそうに、胸ポケットから一発の銃弾を取り出して、杉野に渡した。


「……これは?」


「お守り代わりに胸のポッケに入れといたのでありますよ。よく考えたら銃で撃たれることなんてあるはずないのにおかしいですよな」


「そんなことないよ! っていうか、そんな大事なもん受け取れないって」


 杉野が受け取ったばかりの銃弾を神谷に返す。


「それに、銃が使えなくてもそこら辺の鉄パイプかなんかで戦うから、ノープロブレム!」


「そうでありますか。では、援護射撃は任せてください! なるべく当てないように努力しますので」


 神谷の冗談で場が和んだところで、三人は重い腰を上げて五階へ突入した。



 ついに五階へ辿り着いた一行は、早速クリアリングを始めた。

 安全のため、三人で一部屋づつ確認することにして、まずは一番手前の部屋を攻略する。

 坂田が扉を蹴破り、銃を構えながら中へ突入する。

 それに続いて、さっきの踊り場で拾ったマネキンの腕を装備した杉野が警戒しながら中へ入る。

 最後に、神谷が後ろを警戒しながら部屋へ入り、三人であちこち探索し始める。

 特に何も見つからず、再び坂田を先頭にして廊下へ出た。



 次の部屋へ入ると、端末からビッービッーと電子音が鳴り響いた。


「なんだ!? なんだ!?」


「ターゲットが近くにあるんですよ、きっと!」


「よっしゃ! すぐに見つけるぞ!」


 早速、三人で探し始めるが、全く見つからない。

 その間も、端末からは電子音が鳴り続けている。


「ダメだ。全然見つからねぇ!」


「もしかしたら、隣の部屋にあるんじゃ?」


「「それだ!」」


 杉野が指摘すると、坂田と神谷の二人が一目散に隣の部屋に駆けこんだ。



 杉野が他の二人の後に続いて廊下へ出ると、窓の外に何か不審な物が見えたような気がした。

 気になって窓の外を見てみると、正面玄関らしき広場に白いバイクが停まっていた。

 もしかしたら、この廃墟には自分達以外にも生きた人間がいるのかもしれない。

 嫌な予感がした杉野は、問題の部屋に急いで飛び込んだ。



 部屋に入ると、思いもよらぬ光景が広がっていた。

 どういうわけか、謎の若い女性を抱えた坂田が困った顔をしているのだ。

 しかも、その女性は気絶しているようで、微動だにしない。


「な、何事!?」


 驚いた杉野が大声を上げると、女性が目を覚ました。


「ヒョェ――」


 女性が坂田の顔を見るや否や、謎の断末魔を残して、またもや気絶してしまった。


「いや、違うんよ、杉野! 部屋入ったらこの子が倒れてたからさぁ」


 慌てて弁解する坂田が面白くて、杉野は少しからかってみることにした。


「んなこと言って、ほんとのところはどうなんですか? そこらでナンパしてきたんでしょ?」


「ガチで知らねぇって! っていうか、こんな廃墟に来てまでナンパしねぇから!」


「廃墟じゃなかったらするんですね……」


 杉野が少しガチめに引いてみると、さらに坂田が慌てふためく。


「いや、違くて……あ! ほら、これ! 例の『コトリバコ』! この子が持ってたんだよ。んで、俺が保護したってわけ」


 確かに、女性の手には例の箱がしっかりと握られている。


「ほんとなんですか? 神谷さん?」


「あいや~、自分は何も見てないのでありますからして」


「ちょ、神谷まで~」


 三人でふざけていると、下の階からバターンっと扉が開く音が聞こえ、ドタドタと何者かが結構な勢いで走る足音が聞こえてきた。


「あいつ、下の階に隠れてたのか」


 坂田が女性をそこら辺のベットに寝かせると、警戒態勢に入る。


「こっちに来るんですかね?」


 杉野が聞くと、坂田が廊下へ顔だけ出して確認する。


「うんにゃ、来ねぇみてぇだ」


 ひとまず、ピンチは過ぎ去ったようだ。

 しかし、状況はあまりよろしくない。

 気絶した人を庇いながら、戦わないといけなくなったからだ。

 もし銃声で女性が起きたりしたら、後々めんどくさくなるだろう。

 となると、素手で木偶人形と戦わなくてはいけなくなる。

 相手が生きた人間ならまだしも、幽体が操っている人形なのだ問題だ。

 三人で戦っても勝率は低いだろう。

 このままではどうにもならないので、杉野は廊下に出て逃げ道を探してみた。

 しかし、どう考えても階段以外に逃げ道はないように思える。

 やはり、どうにかして木偶人形を倒すしかないのだろうか。

 そうこうしているうちに、階段の方から足音が近づいてきた。


「やべぇぞ! このままじゃやられちまう! おめぇら援護頼む、あの子担いで来るから」


「「了解」」


 坂田が部屋に戻ったのを見届けると、杉野がマネキンの腕を、神谷がそこら辺に転がっていたベニヤ板を構えて、臨戦体制に入った。



 階段からの音が聞こえてから、すでに十分は経過している。

 しかし、木偶人形どころか虫の一匹も上がってこないのはどういうことだろう。

 待っている間もずっと女性を抱えていた坂田はさすがに疲れてしまったようで、廊下に置いてあったソファに腰かけて休んでいる。


「なかなか来ませんね」


「あいつ、こっちが降りてくるのを待ってるんじゃねぇか?」


 三人だけで木偶人形に挑むだけでもかなり厳しい戦いになりそうなのに、不意打ちをされて誰か一人でもやられようものなら、戦いは一気にあちらが有利になるだろう。

 なんせ、こちらの武器はマネキンの腕や木の板しかないのだ。

 こんなことなら、武器庫からサプレッサーの一つでも持ってこればよかった。

 杉野が今になって後悔していると、何かを見つけた坂田がソファから立ち上がり、廊下の奥へと歩いていった。


「どうしたんすか? 何か見つけました?」


「おい、おめぇら。もしかしたら、あいつらと戦わずに済むかもしれねぇぞ」


 そう言って坂田が指さした先には、オンボロのエレベーターがあった。


「そんなもん動くわけないっすよ。ってか、一階で調べてたじゃないっすか」


「つっても、これ……」


 坂田がポチッとボタンを押すと、エレベーターの白い扉がガチャガチャと音を立てながらゆっくりと開いた。


「なんで――」


「うわあぁぁぁぁぁ!!!」


 杉野が疑問を投げかける前に、階段の方から神谷の叫び声が聞こえてきた。


「どうし――やっべ!」


 叫び声を聞いた坂田が振り向いたと思うと、ソファに寝かせていた女性の所に走り出した。

 何事かと杉野も振り返ってみると、そこには木偶人形率いるマネキン軍団がわんさと押し寄せる恐怖の光景が広がっていた。


「ひぃぃぃぃぃ!!!」


 今回の現場でマネキンに対してトラウマを持ってしまった杉野が叫びながらエレベーターの中へ駆けこむと、少し遅れて神谷が入ってきた。


「あれ? 坂田さんは?」


「例の女の人を担ぎに戻ったみたいで、少々遅れるそうです」


 杉野がエレベーターの中から少しだけ頭を出して覗いてみると、坂田が女性をお姫様抱っこしてこちらに走ってくるのが見えた。


「坂田さぁぁぁん!! こっちでーす!!」


 杉野が手を振ると、坂田の走るペースが上がる。

 しかし、さすがに人ひとり担いで逃げるのは無理があるようで、だんだんと木偶人形たちとの距離が縮まっていく。


「神谷! 撃って!」


「で、でも、撃ったらやばいんじゃ?」


「撃たなかったらもっとやばいことになるから、はよ撃って!」


「了解であります!」


 待ってましたと言わんばかりにベレッタを抜いた神谷が木偶人形を撃ち始める。

 何発か撃つと足に当たったようで、木偶人形が勢いよく転んだのが見えた。

 それとほぼ同時に、坂田がエレベーターに飛び込んできたので、杉野が閉じるボタンを急いで押す。

 白い扉がゆっくりと閉まっていくと、後から来たマネキン達が扉の隙間から中に入ろうと押し寄せてきた。

 扉に挟まり、逃がすまいと腕や頭を突っ込んでくる。

 杉野が、持っていたマネキンの腕で思いっきりぶっ叩くと、ようやく諦めたのかマネキン達の動きが止まり、再び扉が閉まっていく。



 扉が閉まってしばらくすると、外からガンガンと扉を叩く音が聞こえ始めた。

 かなり勢いをつけて叩いていることから、木偶人形が叩いているのであろう。


「杉野! ボタン押せ! 逃げるぞ!」


「あっ! はい!」


 指示を受けた杉野が慌てて一階のボタンを押すと、ブーと電子音が鳴り、エレベーターが降下を始めた。



 エレベーターが降下し始めたと思うと、上の方からガタガタと何かの音が聞こえてきた。

 次の瞬間、バチ―ンという音が聞こえたと思うと、杉野達は浮遊感に包まれた。


「うおぉぉぉ! なんだこれ!?」


 女性を離すまいと踏ん張っていた坂田が雄たけびを上げる。

 かなりの衝撃と共にガシャーンという音が鳴り響くと、浮遊感が消え、エレベーター全体が斜めに傾いた。


「どうなってるんすか、これ。坂田さん! 何とかしてくださいよ!」


「んなこと言われても、無理だっての!」


「もしかして、エレベーターのワイヤーが切れて落ちたとか? それで、落ちる途中でどっかに引っかかったんじゃないですか?」


 神谷の予測が当たっているのかは分からないが、エレベーターの階数表示は三階を示していることから、ある程度は降りてこれたようだ。

 しかし、このままでは一階まで戻れそうにない。

 扉が開けば階段を使って降りれるかもしれないと考えた杉野が扉の開閉ボタンを押してみるが、全く反応しない。

 それならばと、坂田が手で鉄扉を開けようとするが、ビクともしない。

 これにより、完全にこのエレベーターに閉じ込められたことが確定した。


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