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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第三章 Kids in the box
22/103

22 男だらけの廃墟探索

 二階に上がってみると、不思議なことにあれだけあった落書きが全く見当たらなかった。

 ただし、ゴミの方は一階よりも散らかっており、足の踏み場もない。


「これを全部調べるってーのは、流石にきちーぜ」


 坂田が愚痴を零しながら、ゴミの山をひっくり返す。

 二階には廊下以外にも部屋が三つもあるので、このペースでは日暮れどころか深夜になっても終わらないだろう。

 このままでは埒があかないので、杉野は博士に指示を仰ぐことにした。


『もしもし、ワシじゃ。もう見つけたのか?』


 ワンコールも待たずに、端末から聞きなれたしわがれ声が聞こえてくる。


「杉野です。いえ、まだ見つかりません。ってか、ゴミが多すぎて埒があきませんよ。このままだと、深夜までかかりそうなんですけど、夜勤手当とかって出ますかね?」


『出るには出るが、今回の現場に関しては制限時間があるからのぅ、どうにか時間内に終わらしてくれ』


「んなこと言っても無理っすよ! こんなゴミ屋敷みたいなのが、あと四階分もあるんですよ! とても日暮れまでに終わるとは思えないっす!」


『ふーむ、そうじゃな……』


 端末の向こう側から、博士の唸り声が聞こえてきた。

 しばらくして、唸り声が途切れると、博士からの指示が飛んできた。


『そうじゃ、こないだ追加した端末の新しい機能が役に立つかも知れん。すまんが、坂田君と神谷君を呼んでくれ』


「へーい……坂田さーん! 神谷ー! ちょっと来てくださーい!」


「なんだ? なんだ?」 「どうしたのでありますか?」


「なんか、博士から端末の新機能の説明があるらしいんですけど」


「端末の? んなことやってる暇ねぇだろうが!」


『その新機能を使えば、探索が格段に楽になるのじゃがのぅ。いらないのなら、説明しなくてもよいか。杉野君、通信を切ってくれ。通信料もバカにならんからな』


「すみませんでしたー!! 説明お願いしまーす!」


 坂田が端末に向かって、深々と頭を下げた。


『しょうがないのぅ、そこまで言うのなら教えてやろう』


「あざーす!!」


 端末の向こうからやれやれといった感じの溜め息が聞こえてくる。


『では、君らも端末を出しなさい。杉野君は二人のを見て覚えてくれ。この端末では、通話しながら操作したりはできんからのう』


「意外とボンコツなんっすね」


 坂田の失言を無視して、博士が説明を始める。


『まずは、端末のキーパッドのカメラボタンを押しなさい。そしたら、カメラが起動するはずだから、モード選択画面からトレジャーという項目を選択するんじゃ』


 坂田達がカメラの絵が描かれているボタンを押すと、端末の画面が切り替わり、端末に付いているカメラ越しの映像が映し出された。


「次は……えーと……モード選択だっけか」


 坂田がおぼつかない操作でモード選択画面を開くと、ガイガーカウンターや爆発物検知などのおっかない項目に紛れて「トレジャー」という項目があった。

 早速、選択してみると、トレジャーという文字の横にある四角にレ点が表示される。


「選択したぞ。こっからどうすんだよ?」


『あーそういえば、ターゲットのデータを送ってなかったな。今送るから、少し待ってなさい。それと、さっきの項目にガイガーカウンターというのがあったじゃろう? 念のため、それもONにしといてくれ』


「了解っす。ちなみに、データ送るのにどれくらいかかりそうっすかね?」


『もう送ったよ。端末を見てみなさい、届いてるはずだから』


 坂田の端末を覗き見ると、画面の左上にあるアンテナの横に手紙のマークが点滅している。


「あー、届きました。これで、ターゲットを簡単に探せるようになるんすよね?」


『そう簡単にはいかん。その機能はまだ開発途中の物じゃから、有効範囲が狭いんじゃ。そうさな、大体君らの周り1mくらいじゃな』


「ってことは、いちいちカメラであちこち映さないといけねぇのかよ」


『いや、その必要はないぞ。あくまで、カメラ機能に諸々のモード選択機能をポン付けしただけだから、カメラをオフにしていても使える。というか、音でターゲットの位置を知らせる機能なのだから、カメラ機能を併用したところで意味がない……。まあ、追加するのに一番手っ取り早かったのがカメラ機能だったから何じゃが、そこらへんはあまり突っ込まないでくれると助かる。ちなみに、この機能を開発した時に――』


「んで、これはどうなったらターゲットが近いってのが分かるんだ? そこらへんをもっと分かりやすく教えてくれよ」


 止まらなさそうな勢いの博士の話を遮って、坂田が説明の続きを求める。


『おぉ、そうじゃったな。なーに、そう難しいものではない。端末に登録されたターゲットが近くにあれば、センサーが反応して電子音で知らせてくれるのじゃ。一応、ターゲットとの距離に応じて電子音のボリュームが大きくなるというギミックを仕込んであるから、闇雲に探すよりも見つけやすくなるぞ』


「なるほど……つまり、金属探知機のような物でありますな」


 神谷が眼鏡をクイッと上げて、無駄にドヤ顔する。


『ま、同じようなものじゃのぅ。とにかく、日が暮れるまでにどうにかして見つけるんじゃぞ! もし時間内に見つけたら特別ボーナスを付けてやろう』


「マジかよ!」


坂田がガッツポーズなんかして、大げさに喜んだ。


『では、頼んだぞ』


 通信が切れ、三人の間に沈黙が流れる。

 ふと、坂田の顔がにやついているのに気づいた。


「グフフフ、ボーナスだってよ! こいつは頑張らねぇとな~、グフフ」


 そう言い残して、ニヤニヤしながら近くの部屋に入っていった。



 端末でターゲットの捜索が楽になったとはいえ、三人で一緒の部屋を探していては効率が悪い。

 それに、坂田がさっき入っていった部屋をまだ探索しているのだが、なかなか出てこないことから一部屋探索するのもそれなりの時間がかかるようだ。

 そこで、残された杉野と神谷の二人は、一人一部屋ずつ探索していくことに決めた。



 まずは、坂田が入った部屋の隣に神谷が入っていった。

 しばらく待ってみても、特に悲鳴や銃声が聞こえないことから問題は起こってないとみていいだろう。

 続いて、残った部屋へ杉野が入っていく。



 杉野が部屋に入った瞬間、ドギツイ匂いが鼻をついた。

 鼻をつまみながら、何処かで嗅いだことがあるようなその匂いの出所を探っていくと、入り口のすぐそばの小部屋に行き着いた。

 その小部屋に続く扉が少し空いていたので、勇気を出して少しだけ開けてみると、洋式のトイレに何者かの吐瀉物が溜まっているのが見えた。

 おそらく、誰かが廃墟探索に来て、酒でも呑んでいたのだろう。

 その証拠に、部屋の中にはチューハイやビールの空き缶がちらほら転がっている。

 このまま、匂いを嗅いでいるとこっちまで吐きそうになるので、トイレの扉をピシャリと閉めると、部屋の奥にある窓を開け放した。

 窓の外から、開けっ放しにしていた入り口の方へ涼しい風が通り、廊下へと嫌な匂いを持って行ってくれたところで、早速、部屋の探索に取り掛かる。



 まず、窓の近くにある観音開きの扉を開けてみると、人ひとりがすっぽり収まりそうな空間にハンガーや埃だらけの服などが散らばっていた。

 どうやら、クローゼットのようだ。

 そういえば、端末の新機能をONにするのを忘れていたことを、杉野はようやく思い出した。

 早速、さっき教えてもらった手順で各モードをONにしていくと、端末からカリカリと音が聞こえてくる。

 ターゲットが近くにあるのかもしれないと考えた杉野は、盛大に埃をまき散らしながら服やハンガーを掻きわけて、目的の物を探していく。



 しばらくあちこち探したのだが、箱どころかゴミしか見つからない。

 中身が入ったコンドーさんを発見した時は、驚きと怒りでおもわず叫んでしまった。

 その間も、端末からのカリカリという音が消えることはなかった。



 そんなことをしていると、廊下の方から坂田達の声が聞こえてくるのに気づく。

 どうにも見つかりそうにないので、杉野は部屋の探索を一旦諦めて、坂田達の元に戻ることにした。



 廊下に出ると、何やら熱心に話し込んでいる坂田と神谷を発見する。

 坂田がこちらに気づくと、そこまで離れていないのにもかかわらず、大きく手を振りながら大声でこちらを呼んできた。

 ここが自分達しかいない廃墟じゃなかったら、他人のフリをしているところだ。


「そっちは見つかりましたか?」


しょうがないので、坂田達の戦果を聞いてみると、驚くべき答えが返ってきた。


「うんにゃ、全然だ。一応、端末からはカリカリって音はするから、あちこち探してみたりはしたんだけど、何も見つからんかったんよ。んで、諦めて廊下に出てきたら、ちょうど神谷も出てきたもんだから、聞いてみたら神谷の方も同じ音がしたって言うんよな~。ほんと、どうなってんだよ!」


「実は、こっちでも同じ音が鳴りまして……」


「マジか……。もしかして、お目当ての箱ってのは複数あんのかねぇ?」


「どうなのでありましょうなぁ。一度、博士に確認を取るのも手でありますよ」


「にゃるほど! 神谷、お前やっぱ頭いいわ」


「へへぇ、それほどでも」


 てへへと照れている神谷は放っておいて、早速、坂田が端末で博士を呼び出した。


『もしもし、今度こそ見つけたか?』


「いやー、まだっすね。なんか、三人共別々の部屋に入ったんすけど、全員の端末から音がするんすよ。もしかして、ターゲットって何個もあったりします?」


『いや、そんなはずはない。少なくとも、この現場にはコトリバコは一つしかないはずじゃぞ』


「つっても、全員の端末が反応したんすよ!」


 坂田が興奮気味に主張すると、しばらくの間、端末からの応答が途絶えた。


「……ありゃ、もしもーし、聞こえてますか?」


『あ、ああ! 聞こえておるぞ。ところで、一つ聞きたいのじゃが、端末から聞こえてきた音というのはどんな音じゃった?』


「へ? そりゃ~カリカリって感じの音だったけど……」


 坂田が答えると、またもや、沈黙が流れる。


『……その階の探索はもう終わりにして、上の階に行ってくれ』


 唐突に沈黙の時間が終わったと思うと、予想外の答えが返ってきた。


「な、なんでだよ! この階にあるんじゃねぇのかよ?」


 博士の返答に怪訝な顔をした坂田が端末に向かって叫ぶ。


『そのカリカリという音はガイガーカウンターの音じゃ。君らは、今、被曝しているんじゃよ』


 博士の言葉を聞いて、三人が顔を見合わせると、我先に次の階に通じる階段へ駆けこんだ。



 三階に駆け上がり、一息入れてから、次は三階の部屋を探索していく。

 今度は、端末をそこらへんにあった鉄パイプにダクトテープで括り付けて、自分の前に掲げながら部屋に入っていく。

 先程、「これなら被曝を最小限にできるはずであります」と神谷が提案してきたのだ。

 確かにこれなら、もし三階でも強い放射線が検出されたとしても、いち早く探知できるだろう。

 幸いなことに、完全に部屋に入っても、音が鳴ることはなかった。



 部屋の安全が確認できたところで、探索に移る。

 やはり、この部屋にも空き缶やコンド―さんが大量に散らばっていた。

 それでも、二階のように酷い匂いがしたり目に見えない放射線が飛び交っていないのだから、まだマシな方だ。

 そういえば、二階では諸事情によりトイレや風呂場の探索ができていなかったのを、杉野は思い出した。

 試しに、二階と同じ位置にあるトイレの扉を開けてみると、普通に綺麗な洋式トイレとバスタブが出てきた。

 初めて見たユニットバスに少しばかり興奮した杉野が中へ入っていくと、不意に視線を感じた。

 その視線は薄暗い浴室の中からではなく、ベットルームの方からこちらを凝視しているような感覚だった。

 謎の第六感を信じて、ベットルームの方を向くと窓の外に何者かの顔が見えた。

 しかも、窓の上から見切れて見えていたので、あきらかに生きた人間のものでないことは明白だ。

 幽体であるならば遠慮なく撃ってしまえるので、逆に杉野はホッとしていた。

 もし、これが生きた人間であるならば、捕まえて警察に突き出さないといけないのだ。

 現在の時刻が午後四時であることから、そうなった時点で作戦は失敗したといえる。



 杉野が腰の得物を抜いている間も、窓から覗いているその顔は不思議そうにこちらを見つめていた。

 ベレッタのスライドを少し引いて、弾が装填されていることを確認すると、未だにこちらを凝視している顔に向かって照準を合わせる。

 すると、ようやく自分の置かれている状況を理解したのか、顔は窓の上の方に引っ込もうとする。

 杉野が素早く引き金を引くと、銃声と共に白い硝煙が視界を一瞬の間だけ塞ぐ。

 煙を物ともせずに窓に近づき、戦果を確認すると、窓の外の小さなバルコニーにあったのはマネキンの頭だけであった。

 身体の部分はなく、生首状態なのは自分が撃ったせいなのかそれとも初めからそうなのか、どっちにしろ人間でないのだから問題ないだろう。



 今回は、幽体の捕獲が主目的ではないのだが、研究材料の確保の為にしっかりとソウルキャッチャーを持ってきている。

 なので、このマネキンに憑いている幽体も捕獲しようと思えば簡単に捕獲できるのだが、どうにも気が乗らない。

 何故かというと、特にこちらに危害を加えてきたわけでもないのに、捕まえて研究材料にするのは少し可哀そうな気がしてきたからなのだ。

 見て見ぬフリをして見逃そうかと悩んでいると、廊下から坂田の声がした。


「おーい! 銃声が聞こえたけど、だいじょうぶかー?」


 どうやら、先程の銃声を聞いて、心配になった坂田が声を掛けてくれたようだ。


「大丈夫ですー! 今、そっちに行きますねー!」


 全く動かないマネキンを放っておいて、廊下にいるであろう坂田の元へ戻る。



 廊下に出ると、そこに坂田の姿はなかった。

 杉野が入っていった部屋の隣から物音が聞こえることから、まだ探索を続けているのだろう。

 となると、さっき聞こえた声は誰のものだったのだろうか。

 坂田のいたずらかとも思ったが、特別ボーナスがかかっているのにふざけている暇などない。

 そう考えると、答えは自ずと出てきた。

 他の幽体が坂田の声を真似て、こちらを廊下におびき出したのだろう。

 だが、そうなるとまた疑問が湧いてくる。

 何故、自分を廊下におびき出したのか。

 もしかしたら、仲間の幽体を助けようと自らを囮にしたのかもしれない。

 そんなことを考えていると、四階へ上がる階段の方に人影が見えた。

 どうやら、誘われているようだ。

 それならば、誘いに乗ってやろうじゃないかと、杉野は階段へ足を進めた。



 四階に上がるも、人の姿はなく、その代わりにマネキンの群れが廊下を埋め尽くしていた。

 さっきの首だけマネキンのように動くのではないかと、杉野がビクビクしながら廊下を進んでいると、三部屋あるうちの一番奥の部屋からゴトゴトと物音が聞こえてきた。


「ヒッ!」


 杉野がおもわず声を上げると、音が止み、件の部屋の扉がひとりでにゆっくりと開いた。

 あきらかに、何かがいる。

 しかも、そいつはこちらを誘ってきているのだ。

 少しだけイラッときた杉野はマネキンを掻き分けながら、奥の部屋に近づく。

 売られた喧嘩を買わずにはいられなくなったのは、坂田の影響だろうか。



 扉の前に立ち、軽く深呼吸をしてから、ドアノブに手をかける。

 ギ―っと木が軋む音を鳴らしながらドアを開けると、目の前にマネキンが立っていた。

 廊下や三階の部屋でもそうだったが、ここのマネキンの目には黒目が描かれているため、デパートなどにある普通のマネキンよりも恐怖を感じてしまう。

 しかし、怖いからと引き返すわけにもいかないので、マネキンを避けて部屋に入っていく。



 部屋の奥まで入ると、やはりここにも大量のマネキンが置かれていた。

 どういうわけか、杉野はその光景に違和感を覚えていた。

 なぜなら、全てのマネキンが寸分狂わず同じ方向を向いていたからだ。

 几帳面な誰かが置いたのかも知れない。

 しかし、本当に誰かが置いたものであればいいが、そうでない場合は……。

 恐ろしい妄想に取り憑りつかれそうになった杉野が平静に戻ると、部屋の奥にマネキンではない何かがあるのに気づく。

 マネキンに紛れて気づかなかったが、部屋の奥のソファにデッサンで使うような木偶人形が足を組んで座っていた。

 一瞬、人かと思って警戒していた杉野がホッと息を吐くと、マネキンの間を抜けて木偶人形の傍に近寄っていく。



 近くで見ると、意外と小綺麗な人形であることに驚いた。

 他のマネキンがスプレーやマジックで落書きだらけになっていたのに、この人形だけ落書きどころか傷ひとつない。

 試しに、人形の腕を持ち上げてみると、かなり重みを感じた。

 人と同じくらいのサイズだから、重くなってしまうのだろうか。

 そんなことを考えていると、謎の熱い視線が背中に突き刺さったような感覚を覚えた。

 今、振り返ったら一生後悔する。

 そんな気がして、首を動かせない。

 だが、ここから怪我なく出るには振り向かないといけない。

 後ろ向きで出ようものなら、大量のマネキンやそこらに転がっている空き缶などのゴミに足を引っかけて転んでしまうだろう。

 もし転んだら、この木偶人形に何かされるかもしれない。

 普通ならそんな馬鹿げたことありっこないと思うかもしれないが、先程、マネキンの首が動いているのを見たばっかりの杉野にとっては十分にありえることなのだ。

 まだ、マネキンに何かされるならば何とかなるだろうが、こんな自分とさほど変わらないサイズの木偶人形に襲われたら命が危ない。

 そう考えた杉野は、覚悟を決めて後ろに振り向いた。

 すると、先程まで窓の外を眺めていたマネキンが全てこちらを向いているのが見えた。


「ふんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 杉野は叫んだ。

 その叫び声は、三階の坂田達はもちろん、地上で作業をしていた博士にも聞こえたほど大きかった。

 恐慌状態の杉野が叫びながら、マネキンを殴り、蹴とばし、タックルを食らわして、何とか部屋の外まで逃げ出す。

 すると、部屋に入るまでは思い思いの方向を向いていた廊下のマネキン達が、いつの間にかこちらを凝視しているではないか。

 その光景を目撃してしまった杉野はさらに錯乱し、ついにはマネキンに向かって銃を乱射し始めた。

 このどんちゃん騒ぎは、ベレッタのマガジンが空になるまで続いたのだった。



 マネキンへの乱射を終えた杉野が放心状態で座りこんでいると、階段の方から坂田達の声が聞こえてきた。


 「おーい! 大丈夫かー! 杉野ー!」


 坂田の声に、一瞬安心した杉野であったが、四階に上がる前に偽物の坂田の声を聞いたことを思い出し、再び警戒体制に入る。


 「なんか叫んでたみたいだけど、なんかおったん……何やってんだ? おめぇ」


 本物の坂田の姿が見えたことにより、安心した杉野の腰が抜けて、床に尻もちをつく。

 その手には、マネキンの白い腕がしっかりと握られていた。

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