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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第二章 Ghost chase
18/103

18 峠の亡霊

 カーブをいくつか曲がると、エリックが突拍子もないことを口走った。


「おい、杉野! お前のケツの下にある銃を取ってくれ」


「はい?」


 想定外の内容に、杉野が思わず聞き返す。


「だから! 助手席の下に張り付けてある銃を取れって言ってんだよ!」


「あっ、はい!」


 運転中で気が立っているエリックに怒鳴られてしまった杉野は急いでシートの下に手を突っ込んだ。

 手探りで探っていくと、冷たい鉄の感触があった。

 グリップらしきところを握って、どうにか取ろうとする。

 しかし、何か強力なテープのようなものでガッチリ固定されているようで、中々取れない。


「どうした? 早くしろ! あいつに抜かれちまう前に!」


「すいません、中々取れなくて……」


「しょうがねぇなぁ、これ使え」


 手渡されたのは、軍用の小さなマグライトだった。

 ライトを点けて見ると、眩い光が車内に広がる。


「前には向けるなよ」


 エリックの忠告に従い、ライトをシートの下に向け、前かがみになって覗き込む。

 シートの下には、いつも使ってるベレッタよりはシンプルな形状の拳銃が黒いダクトテープで張り付けてあった。

 シート下に右手を突っ込み、テープを剥がして銃を回収すると、エリックがこちらをちらりと見た。


「マガジンも一緒に張り付けてあったはずだが、ないか?」


 言われて、もう一度シートの下を覗いてみると、残っていたテープにマガジンが張り付いてブラブラと揺れていた。

 マガジンをテープごと回収し、ライトで照らしてみるといつもの対幽体用のものよりも一回り大きめの弾丸が入っていた。


「なんかこれ、いつものと違くないですか?」


「あぁ、それ、実弾だから。取り扱いに気をつけろよ」


 そう言われて、杉野hは持っていたマガジンを落としそうになった。


「じ、実弾ですか!?」


「おう、あいつを捕まえるには、まず車を無力化しねーといけねぇからな」


「あいつ?」


「あー、言ってなかったっけか。今回の目的は『さむがりデュラハン』の無力化だ」


 急なヘアピンカーブを無理やり曲がりながら、エリックが説明を始めた。


「まず最初に言っとくが、あのセリカに乗ってる奴は生きた人間じゃねぇ、幽体だ。大方、事故って死んじまった走り屋の成れの果てってところだろうよ」


「はぁ」


 杉野が銃にマガジンを装填しながら、適当に相槌を打つ。


「最近ここいらで事故が多発しているのは知ってるよな。俺はあいつが原因なんじゃないかと睨んでる」


 杉野は、最近奥三河の峠道で交通事故が多発しているというニュースがよく流れているのを思い出した。


「んで、流石にこれ以上俺の庭で暴れられるのは我慢ならねぇから、お供を連れて捕まえに来たってわけだ」


「なるほど」


 話を聞き終わった杉野には少しばかり気になることがあった。


「ちなみになんですけど、これって給料出るんですか?」


 杉野が聞いてみると、エリックが大声で笑い出した。


「ハッハッハッ!! 心配しなくてもちゃんと出るだろうよ。捕まえられたらな」


「もし逃げられたら?」


「そんときゃー俺のポケットマネーから出してやるから、安心しな」


 とりあえずは、タダ働きにはならなそうだ。

 しかし、まだ一つ不安要素が残っていたことを思い出した。


「こんなところで実弾なんか使ってもいいんですかね? もし、他の車に流れ玉が飛んでったらまずいことになるんじゃ」


「そこらへんも心配するな! 所詮拳銃の射程なんざそう大したもんじゃねぇ。100mも離れてりゃー大丈夫だろうよ」


 そう言うと、またガハハと笑う。



 さむがり渓谷も中盤の山場に差し掛かってきて、エリックの表情にも疲れが見えてきた。


「とりあえず、そいつで後ろの奴を撃て! なるべくタイヤを狙えよ。ボディを狙っても跳ね返っちまうからな」


「了解です」


 杉野が窓を開けると、春らしい生暖かい風が車内に入ってくる。

 窓から身を乗り出し後ろを見てみると、セリカのライトが右へ左へと動き回っているのが見えた。

 銃をセリカに向け、引き金を引くと、いつもの対幽体弾を撃った時よりもいくらか大きな発砲音と共に、ガツンとくる衝撃が腕に伝わってくる。

 思っていたよりもショックが強く、思わず銃を落としてしまいそうになった杉野は慌てて車内に身体を引っ込ませた。


「どうだ? 当たったか?」


 そういえば、撃った時の反動に気を取られて、戦果の確認を忘れていた。

 再び、窓から顔だけ出して後ろを確認すると、相手は何事もなかったかのように走っている。


「外れたみたいです」


「そうか。次はよく狙えよ」


 特に怒られることもなく、次の射撃を指示された。



 また、窓から狙い撃つも、今度はボンネットに当たり、跳弾してしまった。


「走ってる車を撃つなんて、僕みたいな素人には無理っすよ」


「大丈夫だ。俺が指導したんだから、絶対に当てられるさ」


 確かに、最初の頃よりかはかなりうまくなったとは杉野も思っていた。

 だがしかし、実弾を撃つのも初めてな人間が走ってる車からドライブバイシューティングを決めるなど、到底できるわけがないのだ。


「んじゃ、今は撃たなくていい。ここぞって時に撃ってもらうから、弾は温存しとけ」


 杉野の様子から自信のなさを感じ取ったのか、エリックが指示を取り消した。



 しばらくの間、エリックが運転に集中していたので、無言の時間が続いた。

 暇だった杉野は銃をライトで照らしてよく観察してみることにした。

 いつも使っているベレッタよりかはかなり武骨なデザインのその黒い銃には、立ち上がった馬の刻印と「M1911A1 U.SARMY」という銃の名前らしき刻印が彫られていた。

 グリップは木製グリップとなっており、ワシが羽ばたいていく姿を模った彫刻が彫られている。

 ふと気になって、マガジンを抜いてみると、残弾確認用のインジケーター越しに五発だけ弾丸が残っているのが見えた。


「あのー、今、大丈夫っすかね」


「……なんだ?」


 ちょいとばかし不機嫌そうな声で、エリックが答える。


「これ、あと五発しか入ってないんですけど、他にマガジンってないんですか?」


「ねぇよ、それだけだ。対幽体弾とは違って、実弾は手に入りにくいからな」


 それを聞いて、杉野は次はしっかり狙って撃とうと思ったのであった。



 しばらく走っていると、急に後ろからのエンジン音が大きくなったような気がしたので、窓から首だけ出して後ろを見てみる。

 すると、さっきよりもセリカが近づいているように見えた。


「なんか、追いつかれてませんか?」


「作戦通りだ」


 エリックがチラッとルームミラーを見ながら答える。

 首を引っ込めて前方に視線を戻すと、片側一車線の割と広めな右カーブが見えた。

 カマロがカーブへドリフトしながら突っ込んでいくと、後ろのセリカがインを突いてくる。

 セリカの運転席がちょうど杉野から見えるくらいに近づいてくると、何を血迷ったか、エリックがハンドルを右へ切り、車体をセリカにぶつけようとした。

 間一髪のところで、相手がこちらを抜き、そのままカーブを曲がり切る。


「何やってんすか! あやうく死ぬところでしたよ!?」


 あともう少しで、カマロの右半分がグシャッと潰れるところだった。


「そこらのふにゃふにゃボディの軽とは違って、アメ車ならビクともしねぇよ。それに、こいつのドアの内側にはアルミ板を仕込んでるからそう簡単にはへこまねぇし、窓ガラスも防弾仕様だから割れる心配もねぇ。だから、どんだけ派手にぶつかろうが死ぬことはねぇよ」


 たとえ、死ななくともぶつかった衝撃でケガはするだろうに、無責任なものだと杉野は心の中で愚痴った。



 カーブを抜けると、しばらく急な上り坂が続いた。

 馬力のあるアメ車なら旧式のスポーツカーくらい軽く抜き返せるだろうと思っていたが、中々セリカとの距離は縮まらない。

 メーターを覗いてみると、かなりの急勾配にもかかわらず160kmも出ていた。


「あいつ……四駆だな」


 エリックが呟く。


「しかも、カリッカリにチューンしてある。こいつは抜きがいがありそうだ」


 そう付け足したエリックの横顔は、とてもワクワクしていた。


「でも、このままだと追いつけなさそうですけど……」


「分かってらーよ。ガチで速い奴を相手にする時用の秘密兵器を大量に用意してあんだよ、この車にはな」


 そう言うと、ラジオの代わりに付いているいくつかのトグルスイッチのうちのひとつをカチッっと上に倒す。

 すると、グオッと身体が前に引っ張られるような感覚と共に、どんどん前のセリカに近づいていく。


「な、なんですか!? 今の!?」


「今のはこいつの秘密兵器、第一弾『DIYパートタイム4WD』だ!」


「DIY? 自分でFRから4WDになる改造を施したってんですか!?」


「おうよ! これならどんな路面だろうが楽勝で追いつけるぜ」


「っていうか、それなら最初から使っとけば良かったんじゃ?」


「いやな、四駆モードだと燃費が悪くて、すぐにガソリンがなくなっちまうんだよ」


 割と切実な理由に、杉野はそれ以上ツッコむ気が失せた。



 上り坂が終わったので、四駆モードは解除した。

 少しずつ近づいてはいるが、中々ぶつかりにいけないようで、エリックの横顔には焦りと苛立ちの色が見えた。


「しょうがねぇ、こいつを使ってやるか」


 そう言うと、今度はさっきのとは違うトグルスイッチを倒した。

 しかし、何も起こらない。


「……なんも変わってないですけど?」


「まあ、見てな」


 道がまっすぐになったタイミングで、エリックがウィンカーのレバーの先っぽに付いているボタンを押した。



ダダダダダダダアアァァン!!!



 ボタンを押すのと同時に、カマロの前方から機関銃らしき発砲音が鳴り響いた。


「な、なんすか!? またマシンガンですか!?」


「また? どっかでマシンガンの音、聞かせたっけか?」


「あーいや、忘れてください。……それより、これも秘密兵器の一つなんですか?」


 危うく、前の作戦での人体実験がバレるところであった。


「もちろんさ! その名も『AMERICAN CAR LIFE』。こいつはなぁ、ライトの横っちょに二つほど穴を開けて、その穴からブローニングM2機関銃の銃口を出してやりゃ、後は好きな時に12,7mmNATO弾をぶっ放すって寸法だ。ちなみに後ろにも二門付いてるぞ、今は故障中で撃てねぇがな」


 言いながら、レバーに付いてるボタンを押すと、再び機関銃を撃ち鳴らす。


「あーあと、弾が百二十発ずつしかないから撃ちすぎ注意なのがたまにキズだ」


「……ちなみに、あと何発残ってるんですか?」


「それが、弾数表示がないから分かんねぇんだなぁ、これが」


 ガハハと笑いながら、杉野の肩をバンバン叩く。


「んまぁ、弾が出なくなったらそこでカンバンだな!」


「えぇ……」


 それでいいのかとツッコミたかったが、また機嫌を損ねそうなので諦めた。



 しばらく、機関銃を撃ってると木のバキバキと折れる音が聞こえてきた。

 大方、木に弾が当たって折れてしまったのだろうと、杉野が軽く考えていると、エリックが何やら焦って色んなスイッチをいじり始めた。

 どうしたのだろうと思い、前を見てみると、前方100m程いったところにそこそこのデカさの倒木が横たわっているではないか。


「ちょ、これは流石に止まった方が……」


「大丈夫だ! 多分な!」


 ほんとに大丈夫なのか、不安になる答えが返ってきた。

 ふと気になって、エリックの手元を見てみると、なぜかエアコンのつまみを動かしている。


「こんな時にエアコン点けてる場合ですか!」


「うるせぇ! 黙ってみてろ!」


 怒鳴られてしまったので、杉野はそれ以上何も言わずに見ていることにした。



 エリックがつまみを右端まで動かすと、車体が前のめりになった。

 そのままの状態でオーバーレブするまで空ぶかしする。

 次につまみを左端に一気に動かすと、今度は車体が後ろにおもいっきり傾いた。

 そして、フロントガラス越しに星空が見える。


「……今度はなんですか? 空でも飛んだんですか?」


「今のは、秘密兵器第三弾『アメリカ式 丸太越えマシーン』だ!」


「名前ダサッ!?」


「名前なんてなんでもいいんだよ! まあ秘密兵器っつっても、ただハイドロ組んだだけなんだけどな」


 そう言うと、さっき左端まで動かしたつまみを今度は右端へ一気に戻した。

 すると、さっきまで上を向いていた車体がガクンと下がり、前輪が地面へ乱暴に叩きつけられる。

 その勢いで、今度は後輪が浮かび上がり、丸太を越えていく。

 エリックがサイドミラー越しに後輪が地面についたのを確認すると、つまみを真ん中に戻した。



 そうして、色々な秘密兵器を駆使しながら、少しずつセリカを追い詰めていく。

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