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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第二章 Ghost chase
17/103

17 夜のドライブ

 ここは、さむがり渓谷。

 地元の走り屋の遊び場となっている峠道だ。 

 その峠道に、今、二つのエンジン音が鳴り響き、時折タイヤのギャーという泣き声が響き渡る。

 一つはエリックが操る五百馬力越えのモンスターマシン、もう一つは前回の作戦の合間に坂田が追いかけた赤いスポーツカー。

 二台が峠道を縦横無尽に走り回ると、その爆音に恐れおののいた獣達の目が一斉に逃げ回るのが、ライトに照らされたことにより明らかになる。

 そして、エリックのカマロに乗せられて、カーブを曲がるたびに右へ左へと振り回されているのは、この物語の主人公、杉野。

 どうしてこんなことになっているかというと、話は今から二時間前に巻き戻る。



「たまには、ドライブでも行かねぇか?」


 あの幽霊屋敷での捕獲作戦が失敗に終わってから三週間が過ぎた頃、夕食が終わったタイミングでエリックが杉野をドライブに誘ってきた。

 思えば、あの作戦が終わってからのエリックは、以前に比べてかなり控えめな態度になってきたような気がする。

 特に最近は、エリックの担当する日だけ妙に豪華な夕食が出たり、訓練もなんとなくゆるくなっているような気がしたりとどうにも様子がおかしい。

 それに加えて、今回のドライブの誘いだ。

 やはり、何か裏があるのではと杉野は疑っていた。


「いいですけど……僕だけですか?」


「おうよ。俺のカマロは二人以上乗せるにはちょいと狭いからな」


 まあ確かに、アメ車、しかも2ドアクーペとなれば二人くらいがちょうどいいだろう。

 しかし、まだ不安が残る。

 現在の時刻は午後七時。

 もう日も落ちて、外は真っ暗だろう。

 こんな夜中に何処へ連れていこうというのか。

 場合によっては、貞操の心配をした方がいいかもしれない。


「んじゃ、先に行ってるからな」


 なんだかんだと考えているうちに、エリックがエレベーターに乗りこみ、地下駐車場へ向かった。

 杉野は、この隙に自分の部屋に逃げてしまおうかとも考えた。

 しかし、後が怖そうなのと、エリックのここ最近の態度が気になっていたし、ここは行くべきだろう。

 杉野はさっさと自分の食器を片づけて、エレベーターに乗り込んだ。



 暗い夜のドライブ、果たして無事な身体で帰れるのだろうかと、杉野は地下駐車場へと降下していくエレベーターの中で考えていた。



 エレベーターを降りると、エリックが愛車のタイヤの空気圧をチェックしているところだった。


「ふぅ……お! 来たな! もうちょいで終わるから、助手席で待っててくれ」


 杉野は言われた通りに、ピカピカに磨き上げられたアメ車のドアを開けて、中に入った。



 車の中は意外とすっきりしていた。

 あのエリックのことだから、銃やら弾薬やらで散らかっているのだろうと思っていたので、少し安心だ。

 ホッとしたのも束の間、ルームミラー越しに映る後部座席にバズーカらしき筒やろくなものが入ってなさそうな弾薬箱などが乱雑に置かれているのが見えたので、杉野は頭を抱えた。

 これで警察に止められようものなら、ただでは済まないだろう。

 しかも、本来ラジオやエアコンが付いているであろう場所は、ガラスの蓋が付いた赤いボタンやいくつものトグルスイッチなどの怪しい小物で埋め尽くされていたのだ。

 そのことから、この車自体もまともな物でないことが窺える。

 いざとなったら、飛び降りて逃げるのもありだなと、杉野は非現実的なことを考えた。



 杉野が車内をあちこち見ていると、エアーチェックが終わったようで、エリックが運転席のドアを開けた。


「わりぃな、待たせちまって」


「あぁ、いえ……」


 エリックが運転席に座ると、杉野にシートベルトをするように促した。

 杉野が、古い車らしい二点式のシートベルトを閉めたのを確認すると、エリックがカマロのエンジンをかけた。

 すると、まるで猛獣が吠えているような迫力満点のエンジン音が聞こえてくる。


「いい音だろう? そんじょそこらの車とはわけが違う。何よりも馬力が段違いだ」


「はあ……」


杉野の生返事を気にもせず、エリックが続ける。


「こいつは、69年型カマロの中でも69台しか生産されてない『ZL-1』っつーモデルでな。そいつをカリッカリにチューンしてやって、五百馬力以上出るようにしたモンスターマシンなんだ」


「……なるほど」


 車にあまり興味がない杉野はどう答えていいかわからず、適当に相槌を打つ。


 「お前もこういう車、乗りたいだろう? ちゃっちゃと金貯めて、こいつに負けないくらいのいい車買えや。なんなら、俺が選んでやろうか?」


「結構です!」


 エリックの態度に少しムカついた杉野が声を荒げて断ると、エリックが駐車場に停まっている杉野のカブをチラ見してから、軽く笑いながら謝った。


「すまんすまん、杉野はバイク派だったな」


「別にそういうわけじゃないっすけど……」


「ま、もし車買ったら、そんときゃ隣に乗せてくれや」


 強引なエリックのお喋りに、杉野は早くも嫌気がさしてきた。

 その空気を察したのか、気まずい顔をしたエリックがギアを一速に入れると、乱暴に車を発進させた。



 分宮山(ぶんぐうやま)行きと入り口のパネルに書かれた地下通路を結構なスピードで走っていくと、行き止まりにあるエレベーターへ辿り着く。

 エリックが、カマロのドアに付けられたハンドルをクルクルと回して窓を開くと、慣れた様子で壁のレバーを下して、シャッターを開ける。

 エレベーターの中に車を乗り入れると、今度は窓から身を乗り出して、エレベーターの操作盤のボタンを押す。

 すると、ギリギリ入りきったカマロのすぐ後ろでガチャガチャと音を立てながら、シャッターがゆっくりと閉まっていった。



 エレベーターが地上に到着し、手際よく出入り口のコンクリの壁を開くと、暗闇の中に車を突っ込ませ、すぐに右へ曲がった。

 前方の様子は暗くてよく分からない。

 エリックがヘッドライトを点けると、目の前に線路が見えた。

 線路の周りには、ファンキーな落書きが円筒状のコンクリート壁のあちこちに描かれている。

 どうやら、電車が通るトンネルの中に出たらしい。


「ここが一番、山に近いんだよ」


 エリックが呟くと、線路の上で器用にカマロを走らせる。


「ほんとに大丈夫なんですか? もし電車が来たら逃げられないんじゃ……」


「心配するな。ちゃーんとダイヤを確認して、電車が来ない時間を狙ってんだから」


 エリックが言い終わるや否や、何処からかガタンゴトンと不穏な音が聞こえてきた。


「ありゃ、今日はダイヤが乱れてんのか?」


「んな呑気なこと言ってる場合じゃないっすよ! 早く逃げないと!」


 非常事態だというのに、異様に落ち着いているエリックを見て、杉野が焦りだす。


「まあ、そう焦るな。このトンネル抜けりゃー簡単に避けれるからよ」


 そう言うと、アクセルをガッツリ踏み込んで、全速力でトンネルの出口へ向かう。

 しかし、いくら馬力があるアメ車とはいえ、線路上で電車から逃げ切るのはかなり無理があるようで、電車の真っ赤な車体がどんどん近づいてくるのがルームミラー越しに見えた。

 電車の運転手もこちらに気づいたようで、プェェェェェ!!!という迫真の汽笛の音と共に金切り声のようなブレーキ音がトンネル内に鳴り響く。



 カマロのリアバンパーが電車の先頭車両にぶつかるかどうかというところで、ようやっとトンネルを抜けた。

 すぐに線路から離れ、近くのフェンスを突き破って、道路に逃げ込む。

 そういえば、ここいらのフェンスはいつも修繕作業してることを思い出した。


「いつもこんな強引なんすか?」


「いんや?いつもは電車が来ないうちに出ちまうから、フェンスの穴ももうちょい小さいぜ」



 しばらく走っていくと、だんだんと木々が生い茂ってきた。

 もう四月の中頃になろうかというだけあって、そこかしこに緑の葉っぱが青々と茂っているのが、時折ライトに照らされることにより確認できる。

 ただ、人工林らしく、ほぼ杉しかないので、見ていてあまりおもしろいものではない。

 たまに、カーブミラーにシカかイノシシかは分からぬが、獣の目ん玉が一瞬光ったりするのには興奮したが……。 



 どんどん山奥に進んでいき、先程まではちらほら見えていた家屋がほとんど出てこなくなってくると、エリックがスピードを少しずつ上げていく。

 おそらく、今迄はご近所さんに配慮してなるべくスピードを抑えていたのだろう。

 チラッとメーターを覗いてみると、スピードメーターの針はとっくに60kmを超えていた。


「結構速いっすね。こんなに飛ばして大丈夫なんすか?」


「心配するな。ここいらの道は警察も寄りつかねぇからよ。通報でもなけりゃーな」


「いや、そういう事じゃなくて……」


 杉野にとっては、警察なんかよりも、えぐいスピードでカーブに突っ込むエリックの方がよっぽど怖い。


「っていうか、60kmにしては速くないですか?」


「60km? 今、100kmだぞ」


「はい!?」


 もう一度メーターをよく見てみると、大きい数字で60と書かれているすぐ下に、小さく100と書かれていた。


「あーそうか。これ、上がマイル表示で下がメートル表示だからな。お前も、もしアメ車に乗ることがあったら、これは覚えておいたほうがいいぞ」


「多分、一生使わない知識だとは思いますが、一応覚えておきます」


 杉野が憎ったらしく答えると、ちょこっと不機嫌になったエリックがさらにスピードを上げた。



ここいらの道は分宮山を登るルートになっているので、かなり勾配がキツイはずなのだが、カマロのハイパワーエンジンにはそう大した問題ではないようだ。

 車だけでなく、エリックの腕も相当なもので、ほとんどスピードを落とさずにカーブに突っ込んでいき、迫力たっぷりのスキール音を出して曲がりきって見せる。


 「やっぱいいマシンだぜ! 上等なサスペンションに交換してるから、ドリフトなんざお手の物だし。排気系を全部レース用に替えてあるから、直線でも速い。くぅ~たまんねぇなぁ!」


「へぇ~、結構改造してあるんですね」


「おうよ! こいつはただのアメ車にしとくにはもったいねぇくれーの良いエンジン積んでっから、他のパーツもいいもんにしねーとな!」


 エリックが嬉しそうに答える。


「へぇー……ところで、このボタンとかスイッチって何に使うんですか?」


「これか? そりゃー……使うときに説明してやるから、楽しみに待ってろ」


 そう言うと、意味深な顔をしてトグルスイッチを撫でる。


「まあ、使わない方がいいもんもあるけどな」


 不安を解消しようと質問したら、逆に疑惑が深まってしまった。



 しばらくすると、車は何処かの駐車場に入っていく。

 駐車場の入り口には、「さむがり渓谷」という看板が立っていた。



 入り口から奥へ入っていくと、何十台もの走り屋風な車がたむろっていた。

 カマロの車窓から外を覗いてみると、黄色や紫などのハデな色のホイールを履いたスポーツカーやタイヤのキャンバー角を鬼の如く傾けたセダンなど、多種多様な車があちらこちらでエンジンを吹かしたり、その場でタイヤを回して白い煙を上げたりしているのが見えた。

 車と同様にドライバーも色々いるようで、如何にも輩といった感じのコワモテのあんちゃんから、ジーパンとアニメキャラがプリントされた痛Tシャツというオタク風ファッションの大学生ぽいのなどが、あちらこちらで愛車談義に花を咲かせている。



 エリックが、白いホイールを履いたインテグラ――車の方だ――の横に愛車を停め、車から降りると、近くのオタクに挨拶しに行ったきり、そのまま戻って来なくなった。

 暇になってしまったので、杉野も車から降りてあちこち見て回ることにした。



 車から降りると、四輪だけでなく二輪もいるのが分かった。

 がらの悪いセダン達に隠れて、車の中からは見えなかったのだ。

 怖そうなお兄さん達の横をビクビクしながら横切って、バイク集団の近くに寄ってみると、見慣れた顔に気づく。


「坂田さん!」


 杉野がその名を呼ぶと、愛車のシートに座って、走り屋仲間と熱心に話していた坂田がこちらに気づいて手を振る。

 そういえば、今日の夕食に坂田の姿がなかったのを、杉野は今になって思い出した


「おー、杉野じゃん! どしたん? こんな時間に?」


「ちょっと、教官に連れてこられて……っていうか、坂田さんの方こそ何してるんですか? 夕飯も食べずに」


「いや~、今日は走りたい気分だったからさぁ~。にしても、杉野も乗せてもらったんだな。実は、俺もこの前乗せてもらってよぉ、いやーヤバいぜ! あのテクは」


 坂田の話によると、どうやらドライブに誘われたのは杉野だけではないらしく、坂田以外にも神谷を乗せて米武町(よねぶちょう)の方――奥三河でも長野よりに位置する田舎町――に連れていかれたこともあったらしい。


「あんまり長くなるようなら、明日は仮病使って休んじゃえよ。前に神谷が乗った時は、結局帰れたのが次の日の朝五時だったって話だぜ。あいつのドライブに付き合って寝不足になったんだから、ずる休みしたってバチは当たらねぇよ」


「そうっすね。あんまり遅くなりそうだったら、そうしますわ」


「んじゃ、俺は行くけど、気をつけろよ。最近、ここいらで故意に事故らせようとしてくるやべー奴がうろついてるって噂もあるからよぉ」


「気を付けます!」


 杉野がビシッと敬礼すると、ヘルメットを被った坂田が敬礼を返す。

 坂田がバイクのエンジンをかけて走りだすと、他のバイクもその後を追って駐車場から出ていった。



 カマロに戻ると、エリックが走り屋仲間とのご歓談を終えて、車に戻ってくるところだった。


「おー、すまんな、ほっといちまって。これからちょっとしたレースがあるんだが、お前も来るよな?」


 エリックの誘いに、一瞬考えた杉野だったが、ここに残るのも怖そうなので渋々了承した。


「あんまり飛ばしすぎないでくださいよ……」


「へっ、レースで飛ばさねぇで、どこで飛ばせってんだ」


 車が動き出す前に、エリックにスピードを控えさせようという試みは見事に失敗した。



 車が駐車場を出ると、色とりどりのスポーツカーが道を塞いでいて、スタートの合図を今か今かと待っていた。

 エリックも愛車をさっき隣に停まっていたインテグラの後ろに止めると、ブァンブァンと空ぶかしをしてテンションを上げていく。



 カマロの後ろに赤いワンダーシビックが停まったところで、メンバーが揃ったらしく、先頭車両の前にセクシーな格好の女性が出てきた。

 その女性が道の真ん中に立つと、周りの車のエンジン音が一際うるさくなってくる。

 エリックも同じように、エンジンが焼き付くのではないかと思ってしまうくらいに、アクセルを踏み込んで吹かしまくる。



 女性が両腕を上げ、勢いよく振り下ろした。

 それを合図に、エリックがクラッチを繋げて、グワッと車をロケットスタートさせた。

 他の車よりも早めのスタートを切ったカマロが歩道に乗り上げながら前の車を抜いていく。

 その強引な運転で、杉野は早々に腰を痛めてしまった。


「ちょっ――もうちょっと丁寧に運転してくださいよ!」


「あぁ!? 何だって!?」


今度は目一杯声を張り上げて抗議した。


「だ・か・ら、もっと丁寧に走らせろって言ってんですよ!」


「ばっきゃろー! んなことしてたら勝てねぇだろうが!」


 どうにも、勝つことに頭がいっぱいなようで、こちらの要求を聞く気はないようだ。



 しばらく走っていくと急に道が狭くなってきて、ついにはセンターラインがなくなり、ただの林道になってしまった。

 一応、舗装されているとはいえ道の状態は最悪なようで、ガタガタと車体が揺れて、杉野の腰を痛めつけていく。

 そんなことはお構いなしで、まだ前の車を抜かそうと無茶苦茶なラインでカマロを走らせるエリック。

 果たして、帰るまでに自分の腰は持つのだろうかと心配になってきた杉野。

 対照的な二人を乗せて、カマロは峠をひた走る。



 だんだんと前の車に近づいてはいるが、道幅が狭いので中々抜かせないでいる。

 ふと横を見ると、エリックの瞳にメラメラとした闘争心が高ぶっているのが見えた。

 再び前に目を戻すと、ちょうどカーブのところだけセンターラインが復活して片側一車線になっており、反対車線側が空いていた。

 その隙を逃さぬといった勢いで、エリックがカマロをドリフトさせながら反対車線に突っ込んでいく。

 ギャーっとスキール音を残して前にいた車を抜かすと、アメ車らしく有り余るエンジンパワーを使って無理やり車体をまっすぐにした。

 カマロがまっすぐになったのと、カーブが終わって道幅が狭くなったのがほぼ同時であった。

 危うく標識にぶつかりそうになりながらも、カマロはさらにスピードを上げていく。



 さっきの車を抜いて、エリックのカマロが一番手になったようで、前方に他の車が見当たらない。


「見たか! こいつの底力を!」


 確かに、あれだけ無理な運転をしたにも関わらず、未だにまっすぐ走れているのには思わず感心してしまう。


「やっぱり丈夫なんですね。アメ車って」


「そりゃそうだろ! アメリカの荒野を何マイルも走るんだから、丈夫じゃねぇとあっちじゃ使い物にならねぇんだよ」


「へぇー……じゃあ、あっちじゃ日本車は売れてないんですか?」


「うんにゃ、アホみたいに売れてるぞ。あのBIG3ですら倒産寸前まで追い込まれたくらいだからな。ただ、最近はアメ車も頑張ってるぜ。昔ながらの内燃機関じゃなくて電動だがな……」


 そう言ったエリックの横顔は、なんとなく寂しそうに見えた。


「にしても、日本じゃまだエンジンの音があちこちから聞こえるから落ち着くねぇ~。なんなら、永住しちまうのもありかもしれねぇな」


「教官はアメリカ国籍なんですか?」


「そうだよぉ、言ってなかったっけか? まあ、アメリカを出てもう七年になるから色々忘れちまってるけどな……お気に入りのバーガーショップとか」


 冗談交じりに、かつての母国を懐かしむように語るエリックを見て、杉野は少し同情してしまった。


「……寂しくなったりしないんですか?」


「寂しい? ……ガッハッハッ!」


 少し間が空いて、エリックが大笑いする。


「寂しいわけねぇよ。もう三十五のオッサンだぜ」


「三十五には見えないですけど……」


 外国人だからか、あまり老けているようには見えない。


「そうか? あんがとよ。んまぁ、たまーに地元のダチ公に会いてぇなぁとは思ったりもするけどな」


 車内にノスタルジーな雰囲気を流しつつ、カマロは夜の峠を爆走していく。



 しばらく、ほとんど外灯のない峠道を走っていると、後ろからさっき抜かした車とは違うエンジン音が聞こえてきた。

 気になってルームミラーを覗いてみると、そこには何処かで見た赤いスポーツカーが映っていた。


「ようやく、おいでなすったな!」


 エリックが後ろも見ずに、音だけで相手の素性を確認すると、アクセルを踏み込んでさらにスピードを上げていく。

 100kmをゆうに超えるスピードでカーブに突っ込んでいくので、杉野の心臓は破れそうなほどにバクバクと鳴っている。

 後ろの車も同じようにカーブに突っ込んでいき、スキール音を響かせながら強引に曲がっていく。


「こりゃ、今夜は退屈しなさそうだぜ!」


 エリックが、暴れる車体を制御しながら、ニヒヒと笑う。

 その横顔は、今迄に見たことがないほど嬉しそうだった。

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