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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第一章 Soul Research Institute
15/103

15 幽体切り離し実験

 気絶したエリックを抱えた杉野達が小屋に戻る頃には、もう辺りは暗くなってしまっていた。



 小屋に辿り着くと、ハイエースの中で博士が何かの機械をいじっていた。


「確保してきましたよ! んで、こっからどうするんすか?」


「おーご苦労だった。ちょいとそこの椅子に座らせといてくれ。まだ準備が終わっとらんのじゃよ」


 博士が指差したのは、頭を置く部分に銀色に輝く金属製のボウルがぶら下がっている、木製の椅子だった。

ボウルには、何やらチューブやらコードやらが繋がっていて、コードの先は仰々しい機械に繋がっているた。


「なんじゃこりゃ? フランケンシュタインにでもする気かよ」


 言いながら、エリックの無駄にデカい図体を男三人がかりでなんとか座らせる。



「あとは、こいつをチューニングしてやれば……よし、準備完了じゃ」


 ちょうど準備ができたようで、座ったばかりのエリックの頭に博士がボウルを被せると、両端に付いている革製の顎ひもを閉め、固定する。

 それから、椅子のひじ掛けに両腕を、椅子の脚に両足を、それぞれ金属製の拘束具を使って固定した。

 はたから見ると、電気椅子に座っている囚人のようだ。


「これ、ほんとに大丈夫なんですか? どうみてもしけ――」


神谷が言いかけた言葉を遮るように、博士が説明を始めた。


「心配するな。こいつは幽体切り離し機といって、文字通り人間に憑りついた幽体を強力な幽体捕獲磁石によって切り離すことができる装置なのじゃ。ただ……」


「……ただ?」


「生きた人間で使われたことがないのじゃよ。死んだ人間に憑りついた……所謂ゾンビと呼ばれている個体に対してなら、数回使われているのじゃが」


「ダメじゃないですか!」


「まあ、これも実験だと思えばよい。きっとエリックも実験台になれて喜んどるじゃろう」


 神谷は呆れて、それ以上言い返す気も起きなかった。


「いやいや、喜ぶわけねぇよ! つーか、もし失敗したらこのハゲ坊――エリック教官はどうなるんだよ!」


 代わりに、坂田がツッコミを入れる。


「まあ、死ぬじゃろうな。正確には、自分の幽体も切り離されて、残った肉体は抜け殻もとい死体となるじゃろう」


「そんな……」


 八坂がショックを受けて、両手で口をおさえた。


「どっちにしろ、このまま何もやらなければまた暴れだすじゃろうし、放っておいても勝手に出ていくわけでもないからのう」


 結局、一か八かやってみるしかないようだ。



「このままうだうだ言っててもしょうがないから、さっさと始めるぞ」


 そう言うと、博士が機械のスイッチを入れた。

 すると、機械に付けられた古そうな白熱電球がオレンジ色に光ったり、メーターの針が右や左に振れだしたりする。

 しかし、エリックには特に変化は見られない。


「これ、もう動いてるんですか?」


 杉野が疑問をぶつけてみた。


「動いておるよ、普通に見ただけでは分からんかも知れんが……そうじゃ、ゴーグルを付けてみなさい。面白いものが見えるぞ」


 杉野が試しにゴーグルを付けると、エリックの顔に纏わりついている黄色いもやもやが大量に見えた。

 あの黄色いもやもやがエリックに憑りついていた幽体なのだろうか。

 しばらく見ていると、もやもやがどんどんボウルに吸い込まれていき、エリックの浅黒い顔が少しづつ見えるようになってきた。

 ほぼ完全にもやもやが見えなくなったところで、博士が機械のスイッチを切った。


「どれどれ、まだ生きておるかな?」


 博士がエリックの頭に乗っかったボウルを外し、そこらへんに置いてあったペットボトルの水をエリックの顔に思いっきりぶっかけた。


「ぶばっ! な、何しやがる!」


 水をかけられたエリックが抗議の声を上げた。


「どうやら、実験は成功したようじゃな」


「実験? 何のだ? ってか、なんだこれは! 俺は死刑囚じゃねぇぞ!」


「ふむ、どうやら記憶が混濁しているようじゃな。急に暴れだしたから、こうして拘束しているのだよ。」


 博士が誤魔化そうと色々言っていると、廃墟の方から木材の割れるような大きな音が聞こえてきた。



 急いで廃墟まで戻ると、そこには瓦礫の山しかなかった。

 おそらく、先程の機関銃の乱射によって、右半分の柱が全部折れてしまったことが原因だろう。


「こりゃ、今回も作戦失敗じゃな」


 博士が諦めたように呟き、小屋へ帰っていく。

 一方、この事態をしでかした張本人であるエリックはというと、何がなんだか分かってないようで首を傾げて考え込んでいる。

しばらくすると、諦めたのか、渋々と小屋に帰っていった。



「あ!」


 一人だけゴーグルを付けたままの杉野が、瓦礫の中で何かが動いているのを見つけた。

 杉野が瓦礫の山に駆け寄ると、坂田達三人もその後に続いた。



 おそらく、崩れる前には台所があったであろう場所に杉野が辿り着くと、瓦礫を素手で掘っていく。

 追いついた坂田達も何がなんだかわからなかったが、とりあえず一緒になって掘った。

 床が見えるまで掘っていくと、台所によくある床下収納の蓋が見えた。

 躊躇なく杉野が蓋を開けると、中にあったものを見て腰を抜かしてしまった。

 不審に思って、坂田達も覗いてみると、そこには子供くらいの大きさの白骨死体があった。



 それからは、自分達が見たものを報告する為に急いで小屋に戻った


「瓦礫の山に幽体がいたから、近づいてみたら瓦礫の下へ逃げられちまって、そんで四人で瓦礫を掘ってたら床下収納が出てきたんで、蓋を開けたら白骨死体が入っていたってわけか」


 エリックが杉野の長々とした説明を要約した。


「おそらくは、その死体が我々のターゲットとしていた幽体の元々の肉体なんじゃろうな」


「にしても、せっかく捕まえるチャンスだったのに、逃がしちまったのか」


「すいません」


 杉野が申し訳なさそうに謝る。


「まあ、良い。あの銃に憑りついておったナチス兵の幽体を大量に確保できたから、結果オーライじゃ」


 そう言うと、あの機械に取り付けてあった金属製のタンクを博士が慈しむように撫でた。


「ナチス兵? なんのことだ?」


「こっちの話じゃ」


 エリックの疑問に適当な答えを返すと、博士が何処かに電話をかけた。


「もしもし、警察か? 廃墟の解体現場で白骨死体を発見したんじゃが。ちょいと見に来てくれんかのぅ」


 場所だけ説明すると、さっさと電話を切った。


「では、エリックは警察が来る前に戦車とヘリを会社に戻してくれ。あーあと、銃とそこら辺に転がっている空薬莢もできる限り回収して持って行ってくれ」


 エリックがヘリに向かったのを見届けてから、博士が杉野達へ振り向いた。


「君達はあそこにある作業着に着替えてくれ。超特急でな」


 そう言うと、部屋の隅に置いてある灰色の作業着を一着持って、トイレに引っ込んでしまった。

 杉野達も急いで作業着を取り、着替えていく。

 作業着をよく見ると、「玉籠技研」というロゴが刺繍されていた。



 作業着に着替え終わり、適当に時間を潰していると、外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。


「おいでなすった! 君らもついて来い」


 そう言うと、博士がさっさと小屋から出ていった。

 まためんどくさいことになりそうだと思いながら、杉野達も後を続いた。



 外に出ると、戦車も、戦車が入っていたコンテナも、それを運んできたヘリも、全部なくなっていた。



 それからは、来てくれた警察官から事情聴取を受けた。

 もちろん、発見した状況などは博士が事前に杉野達に覚えさせた偽の証言をして誤魔化している。



 結局、その日は三時間も拘束されて、根掘り葉掘り聴取されたのであった。

 解放された時には、全員へとへとで晩飯もお風呂も忘れて寝入ってしまった。



 朝になると、警察も一旦引き上げたようなので、杉野達も帰り支度を始める。

 早めに帰り支度が終わり、暇を持て余していた杉野はそこら辺を散歩することにした。

 そういえば、昨日戦車で突っ込んだ所はどうなっているのだろうか。

 どうにも気になってしまった杉野は、廃車の山の方へ足を進めた。



 廃車の山岳地帯を歩いていくと、キャタピラの跡が付いた白い廃車を見つけた。

 白い車体が戦車に潰されて、見るも無残なことになっている。

 何か見覚えがあるような気がして、杉野が考え込んでいると、後ろから坂田の声がした。


「あー! あのソアラ、潰れとるやん! もったいねぇー」


 まさに、この前坂田と見つけたソアラだったスクラップを見て、坂田が残念そうに叫んだ。


「これ、このままにしといていいんですかね? また警察が来るんじゃ……」


「まあ、大丈夫だろ。知らんけど」


 坂田の無責任な発言に、杉野は呆れて言い返す気も起きなかった。



 博士から帰社してよしと言われたので、カブに荷物を詰め、キックペダルを踏み降ろして、エンジンをかける。

 立ち去る前に、廃墟の方をなんとなく見てみると、小さい子供がこちらを見て、歯を剥き出しにして笑っていた。


 その子供は、瞬きをしたほんの一瞬のうちに、霞むように消えてしまった。

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