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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第一章 Soul Research Institute
12/103

12 切断式

 月曜の朝、休みが終わりを告げ、また幽霊退治の仕事が始まる。

 その日は大量の幽体を捕獲したのだが、どういうわけか博士の表情が普段よりも険しいことに杉野達は疑問を抱いた。



 夕食を食べながらそのことについて話していると、さっきとは打って変わってすっきりしたような表情の博士が現れ、杉野達に指示を出した。


「夕飯を食べ終わったら、またこないだのようにケミカルライトを並べてほしい。今回は二重丸で頼む」


 それだけ言うと、夕食には手を付けずにプレハブ小屋へ引っ込んでしまった。


「なんだぁ? 今度は何を持ってくるってんだ?」


 坂田が夕食の焼きそばをすすりながら、小屋を一馨して首を傾げた。

 杉野はというと、ろくでもない物を持ってきそうな予感がしていた。

 あのヘリで持ってこれる物なんていくらでもあるだろうし、トンデモない兵器を持ってくる可能性だってゼロじゃない。

 そうなれば、もはや戦争だ。

 幽霊との、戦争だ。



 夕食が終わったら、杉野達四人で小屋の近くの空き地にスティックライトを並べ始める。

 今回は二重丸とのリクエストなので、いくらか大きめに作ってみた。

 淡い緑色の光が、まるで季節外れの蛍のようでなかなかに幻想的だ。



 完成した簡易のヘリポートを眺めていると、遠くの方からヘリのプロペラ音が聞こえてくる。


「お! きたきた。……何、ぶら下げてんだ?」


 ヘリの下には、ヘリより一回り大きいサイズのコンテナがぶら下がっていた。

 ゆっくりとヘリがヘリポートの上に降りていき、ケミカルライトが潰れる音と共にコンテナが地面に接地する。

 ちなみに博士の話によると、このケミカルライトは発光素材にヒカリゴケを、外側の部分は飴細工を使用しているので、一応は環境に配慮しているらしい。



 杉野達がコンテナに近づいてみると、ボンっと音がして、コンテナの上から火花が降ってくる。

 今回は火薬を使って自動的に外れる仕掛けになっているらしく、地上要員は念の為にヘルメットを被っていたので、火傷をせずにすんだ。

 ただ、コンテナの扉には「火気厳禁」と書かれていたが……



 少し離れた空き地にヘリを降ろすと、エリックが降りて来てコンテナに駆け寄る。

 そして、(かんぬき)式のロックを外し、重そうな鉄の扉を軽々と開けた。

 中を覗いてみるが、暗くて何が入ってるのかは分からない。


「ちょっと、誰かついて来てくれ」


「じゃあ、俺行きます」


 扉を両開きにしたエリックが四人に頼むと、坂田が率先して手を上げた。



 エリック達がコンテナの奥に消えてしばらくすると、くぉぉぉぉぉんという音がコンテナの奥の暗闇から聞こえてきた。

 段々と音が高くなっていき、しばらく聞いているとカッカッカッという音と共に、聞いたことがないほどデカいエンジン音がけたたましく鳴り響く。

 なんだろうと、杉野と神谷の二人が覗き込んでみるが、やはり暗くて何も見えない。

 しかし、突然奥から白い光が射しこんできたので、杉野達は眩しさに目を細めた。



 しばらくして目が慣れてくると、コンテナの奥に緑と黄色の迷彩模様に塗られた戦車が現れた。

 戦車がキシキシと音を鳴らしながら、ゆっくりこちらへ向かってきたので、杉野達は慌ててコンテナから離れる。

 月明かりに照らされた戦車がコンテナの外へ完全に出てくると、戦車の上の方にあるハッチがガチャンと開き、そこから坂田が顔を出した。


「お前ら、これすげーぞ! モノホンの戦車だぜ!!」


 坂田が興奮した様子で戦車から這い出て来て、地上に飛び降りる。


「ほう、こいつを持ってきたのか! 確かにこいつなら、今回の作戦にうってつけじゃのう」


 いつの間にか、後ろにいた博士がうんうんと頷く。

 戦車のエンジンが切れたのか、急に静かになった。

 すると、今度はエリックが戦車から這い出てきた。


「そうだろう? こいつなら発砲音もそんなにデカくねぇーし、50mm砲だから無駄にあれこれ壊しちまう心配もないってわけだ」


 博士に答えてから、戦車を見てポカーンとしている杉野達へ説明し始めた。


「あぁ、そう言えばお前らにこいつの紹介をしてなかったな。こいつは『三号戦車Ⅿ型』っていってな、俺のコレクションのひとつだ。今はシュルツェンを外してあるから分かりにくいかもしれんが、一応、地下駐車場に停めてあったのと同じものだぞ」


 確かに、駐車場に停めてあった時には付いていた履帯の横の板がなくなっていた。


「……っていうか、こんな戦車使って何をしようってんですか?」


 冷静になった杉野が、思い切って聞いてみる。


「そりゃおめぇ、あのオンボロ幽霊屋敷を解体すんだよ。博士から聞いてなかったのか?」


「聞いてたら、こんな驚いてないっすよ! ってか、戦車で解体なんかできるんすか?」


「できるかじゃねぇ、やるんだよ」


 そう、エリックはドヤ顔で答えた。



 時間も遅かったので、廃墟の解体は次の日に回された。



 翌朝、坂田と一緒に新たな日課となった朝の体操をやりに外へ出ると、エリックが一生懸命に戦車を洗車していた。

 軽く体操を済ませて戦車に近寄ると、こちらに気づいたエリックがご機嫌な挨拶をしてきた。


「よう! お前ら! 昨日はよく眠れたか? 今日もいい天気で良かったなぁ、まさに最高の戦車日和って感じだぜ!」


 お気に入りの戦車が来て機嫌が良いのか、やけにテンションが高い。

 そういえば、昨晩は小屋にエリックが帰って来なかった。

 もしや、この戦車で峠でも攻めていたのだろうか。


「おはようございます……テンション高いっすね」


「おうよ! こいつを仕事で使える日が来るなんて夢にも思わなかったからな!」


 言いながら、戦車の砲塔を慈しむように撫でる。


「そういえば、ヘリの頭の方になんか付いてますけど、あれなんなんすか?」


 坂田が聞くと、よくぞ聞いてくれたといった顔でエリックが答える。


「あれはなぁ、今日の作業で使う秘密兵器だ。ブリーフィングの時に説明するから、楽しみに待ってろ」


 そう言われて、さらに気になった坂田がヘリに近づき、謎の機械をまじまじと観察する。

 杉野も続いてヘリに近づくと、ヘリと戦車を見比べて首を傾げた。


「廃墟一つ解体するのに、なんでヘリなんて使うんですかね? 壊すだけなら、戦車だけでいいだろうに……」


「うーん……俺も分かんねぇけど、なんか楽しそうじゃね? こういうの」


「まぁ……確かに……」


 実のところ、杉野も昨日の夜からワクワクしてあまり眠れないでいた。

 おそらくそれは坂田も同じようで、目の下に薄くクマが出来ている。


「まーとりあえず、適当に楽しもうぜ」


「……そうすっね」



 朝食を食べ終わると、早速ブリーフィングが始まった。


「さて、今回の作戦の目的は、どうにかして最重要ターゲットを捕獲することじゃ」


「最重要ターゲットって、あの子供の幽体でしたっけ?」


「そうじゃ、あやつを捕まえるためにこれまで色々としてきたが、そろそろ活動資金が底を尽きそうなんじゃよ。なので、今日明日にも捕獲してここから撤退しないといかんのじゃ」


 まあなんとも世知辛い事情に杉野達がくすくす笑うと、博士が珍しく声を荒げる。


「笑いごとじゃないわい! あやつを捕まえるのに、どれだけの時間と労力と金を使ったと思っとるんじゃ! このままでは、うちの営業成績が本社に抜かれてしまう!」


「と、とりあえずその作戦?の説明をお願いします! 早く終わらせないといけないんですよね!」


 色々とツッコミどころはあったが、このままではまた脱線しそうなので、杉野が歯止めをかける。


「おっと、そうじゃったな! 今回の作戦は、もうさんざん聞いておるだろうが、あの廃墟の解体作業をやってもらう。まず最初にエリックがヘリに付けた小型のレーザー砲で廃墟を真っ二つに切断する。その後に、戦車で柱を撃ちぬき片方だけ倒壊させ、半分だけ残った状態にする。んまぁ、だいたいこんな感じじゃ」


 なんとも破天荒な作戦内容に面食らった杉野たちの反応が遅れた。


「……廃墟をレーザーで切断!? 火事になるんじゃ?」


 ようやっと情報をかみ砕いた神谷が、早速質問した。


「もちろん、その時は君らに消火してもらうつもりじゃ。ちゃんとヘリにたっぷりと消火器を積んでおるからのう」


「戦車で砲撃って、危なくねぇのかよ! 普通に体当たりして崩せばいいんじゃねぇの?」


 今度は坂田が質問する。


「そこはじゃなぁ、体当たりするとなると精密な動きができぬので、思わぬところを壊してしまうのじゃよ。その点、砲撃ならばうまい具合に柱だけを撃ち抜きさえすれば、いらぬところを壊してしまうこともないじゃろうて。あーそうそう、安全面に関しては心配せんでもよいぞ。ここいら一帯は民家も店もないから、そうそう何かに当たることはないじゃろう」


「っていうか、なんで半分にするんですか? 別に全部壊しちゃえばいいんじゃ」


 杉野も質疑応答に加わる。


「良い質問じゃ。これには幽体の性質が関わっていてのぉ。幽体というのは、基本的に暗いところを好む性質があるんじゃよ。なので、無理やり明るい所に出すと逃げ出してしまう可能性があるんじゃ。となると、半分にしたとしても、中がなるべく暗くなるようにしないといかん。だから、あまり派手に壊せないのじゃ」


「それで、半分にすりゃーその最重要ターゲットとやらを捕まえられるのか?」


「まあ、捕まえやすくなるはなるじゃろうな。考えてもみたまえ、あちらは半分になった廃墟の中で閉じこもっており、こちらは外から狙い放題、明らかにこちらが有利といえるだろう」


 その説明に坂田が納得する。


「でも、山の中とはいえ、戦車で砲撃なんかしたら、明日の朝刊に乗っちゃうんじゃ……」


 神谷が心配そうな顔で質問すると、博士の代わりにエリックが答える。


「心配するな、そこらへんもちゃんと考えてるぜ。この近くに米軍の基地があることはお前らも知ってるだろうが、実は今回の作業に合わせて砲撃訓練をやってもらうように頼んでおいたんだ。こっちでどれだけドンパチやろうがそうそう問題になることはないだろう」


「……そんなにやって、お金とか大丈夫なんですか?」


 予想以上の答えにあっけに取られた神谷が、さらに聞く。


「大丈夫だ。米軍の古い知り合いに頼んで、ちょいとスケジュールを弄ってもらっただけだから、実質タダみたいなもんだ」


 エリックの答えに、神谷はそれ以上何も聞けなくなってしまった。


「では、もう質問はないかね? なければ、これにてブリーフィングを終わりとし、そのまま作業に移ってもらうぞ」


 あまりの内容にそれ以上質問する気力を失った杉野達は、自ら立ち上がって作業の準備を始めた。



 まずはレーザーによる、廃墟の切断作業からだ。

 あらかじめ廃墟の間取りを部屋の広さから位置関係にいたるまで事細かに調べあげ、どこを切ればいいのかをしっかり決めておく。



 次に、ヘリの反対側にカーボン製の柱を立てる。

 この柱は、戦車と一緒にコンテナに入っていたものだ。

 何に使うのか皆目見当もつかないが、命令されるままに地面に根元を固定する。



 それが終わったら、ついに切る作業に移る。

 ヘリにはエリックと博士の二人だけで乗り、杉野達はもしもの時の消火要員として、小屋で待機となった。

 杉野達が窓越しに見守る中、ヘリがゆっくりと離陸していく。

 ヘリが廃墟の切妻屋根のてっぺんまで上昇すると、高度を維持しながら、レーザーの照準が目標のラインになるように微調整していく。

 おそらく、エリックが操縦しているのだろう。

 神業的な精密さで、廃墟のちょうど真ん中あたりにヘリを持っていく。

 ヘリの動きが止まったかと思うと、突然ヘリの先端から閃光が走り、屋根を貫いた。


 ついにレーザー照射が始まったのである。


 ヘリが降下していくと、切断面も同じように下がっていき、後には焼けた木材が黒く焦げた跡だけが残る。

 そのまま屋根を完全に切断してしまうと、次は二階部分に取り掛かる。

 一応、作業の前に燃えそうな物はあらかじめ端の方に寄せておいたので、中の家具が燃えることはないだろう。



 二階部分も無事切り終わり、一階部分は半分くらい切ったところでレーザー照射をやめ、一旦上昇したのち、プレハブ小屋近くの空き地に着陸する。



 着陸してすぐに、出入口を開けてエリックが出てくる。

 何かこちらに向かって叫んでいるようだが、よく聞こえない。

 坂田が窓を開けると、ようやく何を言ってるか分かった。


「お前ら! 何やってんだ! 早く消火してこい!」


 あまりに現実離れした光景だったので、杉野達は自分の役割を忘れてしまっていた。

 慌てて消火器を担いで小屋を出ると、廃墟に向かって走り出す。



 廃墟に近づくと、何やら焦げ臭いにおいが立ち込めている。

 しかし、外から見ただけではどこも燃えているようには見えない。

 確認のため中に入ると、一階の階段部分に小さな火種が燻っていた。

 坂田が駆け寄り消火器を噴射すると、いとも簡単に火種が消えた。



 それから、二人づつに分かれて廃墟の中を隈なく確認していった。

 杉野は二階を担当したが、特に燃えているところは見つからなかった。

 しかし、においが消えるどころか、さっきよりきつくなってきたので窓を開け放すと、そこには黒い煙を吹いて荒々しく燃える一本の杉の木があった。

 どうやら、レーザーがカーボンの柱から少しばかりずれ、木に当たって燃えてしまったようだ。

 あのカーボンの柱は、延焼防止の盾の役割を担っていたらしい。

 急いで業火に向かって消火器を構え、レバーを握って消火を開始する。

 二階からの音で気づいたようで、一階の窓からも消火剤が勢いよく火元へと噴射される。

 一般的な消火器よりかは性能が良いようで、消火し始めてから二十秒ほどでほとんど消えてしまった。

 いくらか残っていた火も、エリックが急いで持ってきた追加の消火器によって、無事に鎮火された。



 これにより、廃墟の切断作業は危なげながらも完了したのだった。

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