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Operation Soul~若者達の幽霊退治~  作者: 杉之浦翔大朗
第一章 Soul Research Institute
11/103

11 休日の過ごし方

 その日は、坂田と杉野で野菜炒めを作った。

 少しばかし味が濃いのは男の料理なのだから、しょうがないのである。



 晩飯が終わり、風呂の時間が来る。

 プレハブ小屋には、トイレはあっても湯舟どころかシャワーすらないので、何故か博士のハイエースに積んであったドラム缶とプレハブ小屋に付いている簡易シャワーを使うことになった。

 水に関しては、プレハブ小屋の上に付いてる貯水タンクから簡易シャワーに繋がっているので、遠慮せずに使える。

 シャワーはタンクの水を電気で温めて使えるので、温かいシャワーを浴びることも可能だ。

 湯舟の方は、沸かすのに大量の電気を消費する為、薪を燃やして沸かす。

 小屋の屋根に付いている太陽光パネルで発電しているのだが、いかんせん効率が悪く、無駄に電気を使うわけにはいかないのだ。



 最初に入るのは、決まって八坂である。

 やはり年頃の娘が男共の後に入るというのは、抵抗があるのだろう。

 ちなみに、プレハブの裏にスペースを作って、ビニールシートで簡易のカーテンを付けてあるので、そうそう着替えを覗かれることはない。

 そこらへんもちゃんと考えられているのだから、この作戦に向けて、博士達はかなりの準備をしてきたのだろう。



 その日も、八坂が一番風呂に入っていた。

 暗い山の中で風呂に入るのは、一見すると怖そうに思えるだろう。

 しかし、疲れた身体に染みわたるちょうどいい湯加減のドラム缶風呂に浸かって、頭上に広がる星々を眺めていれば、怖さなど忘れてしまうものだ。

 これこそ、極上の贅沢だといえるだろう。



 八坂がドラム缶の湯舟にゆったりと浸かっていると、後ろからガサガサと音が聞こえた。

 どうせ、あのアホ三人組が覗きに来たのだろうと思った八坂は、カーテン越しに叫んだ。


「このヘンタイ! なに覗いてるのよ!」


 しかし、反応がない。

 少し怖くなってきたので、早めに湯舟から上がると、また物音が聞こえた。


「な、なに?」


 恐る恐るカーテンに近づくと、何かが逃げていくような草が揺れる音がした。

 やっぱり覗きだったのかと安心して、これまた簡易の脱衣所で着替え始める。

 そうすると、今度はどこからか視線を感じた。

 なんとなく、妬ましい感情が込められた視線だ。

 怖さを誤魔化そうとした八坂が、持ってきていた風呂桶を視線の方へ投げつけた。

 また草の揺れる音がしたと思うと、何者かの気配が消えた。



 ようやっと着替え終わった八坂が小屋に戻り、中にいた坂田に風呂桶を投げつけた。

 風呂桶が坂田の顔へ見事に命中した。


「いっってぇぇなぁ!! なにすんだよ!?」


「あんたら、覗いてたでしょ!」


「覗いてねぇーよ! 俺ら全員、ここでだべってたし……な!」


 坂田に言われて、杉野と神谷がうんうんと力強く頷く。


「博士も教官も会社の方に用事があるとかで戻ってっからいねーし、お前の見間違いなんじゃねーの」


 坂田に指摘されると、八坂の顔色がみるみる悪くなっていった。


「今日はもう寝る」


 そして、八坂はそれだけ言うと、さっさと自分のベットに潜ってしまった。


「なんなんだ、あいつ?」


「なんか変なもんでも見たんじゃないっすか?」


 その後、杉野達も風呂に入ったが、特に何も起きなかった。



 それから週末まで、ひたすら幽体退治に勤しんだ。



 土曜日の朝、少し遅い朝食を食べて、簡単に身支度を整える。

 土日は一応休日となっているが、現場から離れることはできない。

 勝手な外出は博士に禁止されているのだ。

 その為、八坂は愛車の中で読書、神谷は回収したいくつかの人形を修理して、暇を潰していた。

 杉野も暇だったので、この鬱蒼とした森の中をちょいと散歩でもしようかと外に出てみると、小屋の近くで坂田がアキレス腱を伸ばしていた。


「おはようございます。えーっと、何やってるんすか?」


 杉野が尋ねると、それに気づいた坂田が腰を捻ってこちらを向く。


「おう、おはよう。いやね、日課の体操をやっとるんよ」


「俺も混ざっていいすか?」


「おー、ええよ」


「あざっす」


 早速、杉野も加わり、前屈を始める。


「そういえば、今日ってなんか予定あったりする?」


 肩を伸ばしながら坂田が聞く。


「いやー、特にはないですね」


 杉野がそう答えると、坂田が嬉しそうにはにかんだ。


「ほいじゃあ、一緒にここら辺探検しねえか?」


「いいっすよ! っていうか、僕もそこらへん散歩しようかと思ってたところなんで……」


「んじゃ、早速出発しようぜ!」


 早めに体操を切り上げて、坂田が近くの廃車の山へと歩き出した。

 腕を伸ばしながら、杉野もその後を続いた。



 プレハブ小屋の近くには、不法投棄された家電やら車やらが散乱しているので、なかなか見てて飽きない。


「お、おい! あれ見てみろよ!」


 坂田が何かを発見したようで、奥の方に駆けだしていく。

 追いかけていくと、そこには一台の古いクーペが停まっていた。


「これ、ソアラだぜ! こんな古いのそうそう見ねぇぞ」


 そう言うと、ソアラのドアを開けて中を物色し始める。


「ちょ、何やってんすか!? いくら廃車でも、勝手に漁るのはまずいっすよ!」


「大丈夫だって、おっ! 免許証発見!」


 見ると、坂田の手には何者かの免許証が握られていた。


「どれどれ~、『斎藤(さいとう) 信宏(のぶひろ)』だって、へぇー結構イケおじじゃん」


「ちょ、俺にも見せてくださいよ!」


「はいよ」


 坂田から受け取った免許証の顔写真には、ひと昔前に流行った、所謂ちょい悪オヤジ風な男が写っていた。


「ほえー、確かにちょっとかっこいいかも……って、今度はなにしてるんですか!?」


 いつの間にか車の前に回った坂田が、何やら難しい顔をしている。


「いやね、ここ見てみ。べっこりへこんどるだら? 多分これ、事故車だぜ」


 杉野も車の前まで来て、坂田に言われた箇所を見てみると、白い車体のバンパー部分がべっこりとへこんでいた。


「もしかしたら、その免許証の持ち主はもう死んどるかも知れんよ……」


 そう言われて、思わず免許証を落としてしまう。


「っんな!? 止めてくださいよ! 縁起でもない!」


「だって、免許証だぜ。車捨てるのは分からなくはないけどよぉ、免許証まで忘れていくもんかね、普通」


 確かに、免許証を再発行する手間を考えれば、忘れたとしても気づいて取りに戻ってくるはずだ。

 しかし、免許証が見つかったのは、捨てられてから十年以上は経ってそうな廃車である。

 結局再発行したのか、あるいは取りに戻ることができない状態になってしまった可能性もなくはないだろう。


「もう、他んとこ行きましょうよ。ほら、あっちにも色々ありそうですよ!」


 少々怖くなってきた杉野が、廃車がわんさと積まれてる山を指さす。


「しょうがねぇなぁ、行ってやるか!」


 やれやれっといった口調の割には、ワクワクした表情の坂田が廃車の山へ早足で向かう。

 杉野は免許証をソアラのダッシュボードに放りこんでから、急いで坂田の後を追った。



 それからは、「Pe?」というステッカーが貼られたジョルカブを見つけたり、「唐揚げ甲府店」が使っていたであろうCR-Xがあったり、ミッドナイトブルーのHONDA Zが廃車の山から崩れ落ちてきたりと、とても充実した時間を過ごした。



 廃車見学を堪能した後は、エリックが作った変な色のカレーを食べる。

 なんでも「デザートカモカレー」とかいうオリジナルカレーらしく、白いルーにほうれん草と牛すじ肉だけのシンプルなカレーだ。

 デザートというから甘口なのかと思いきや火を噴きそうなほどの激辛だったり、鴨じゃなくて牛肉だったり、色々ツッコミどころはあるが、慣れれば案外癖になる味であった。



 杉野が二杯目のカレーを食っていると、坂田が話しかけてきた。


「なあなあ、ツーリング行かね? せっかくバイク乗ってんだし、行くしかないっしょ!」


「おー、いいっすね! でも、現場から離れちゃいけないんじゃ……」


 二人が何か言いたげな眼差しで博士を見つめると、しょうがないなっといった口調で外出の許可を出した。


「「あざーす!!」」


「ただし、今日中には帰ってくるんじゃぞ」


「分かってますよ」


 坂田が答えると、結構な勢いで残りのカレーを掻き込み、皿を片づけると、自分のバイクに向かった。


「先、行ってるぜ」


 杉野も遅れまいと、咽ながら残りを急いで片づけて、坂田の後を追う。



 坂田に追いつくと、バイクのエンジンに火を入れたところであった。


「おう、待ってたぜ。じゃ、早いとこ出発しようや」


 杉野もカブに跨って、キックペダルを下し、エンジンをかける。

 こちらの準備ができたのを確認すると、坂田はロケットの如き勢いで発進した。

 その後を、スロットル全開で杉野が追いかけていく。



 しばらく走ると、杉の木が何本も生えている林道に入った。

 一応、舗装はされているが、でこぼことしていて走りづらい。

 特に、坂田の方はスポ―ツバイクなので杉野よりも苦戦しているようだ。

 その為、さっきまでは坂田に追いつくのに精一杯だった杉野でも、易々と追いつくことができた。



 さらに進むと、これまたなんとも立派な峠道が現れた。

 峠道の手前の信号で止まると、坂田がメットのシールドを上げて、こちらに振り向く。


「ここの峠で、よう走っとるんだわ」


 へぇーって感じで杉野が頷くと、坂田の得意げな顔がメット越しに見えた。



 信号が変わると、そのまま峠道に入っていく。

 少しばかりキツイカーブが続くが、坂田がスピードを抑えてくれているので、カブ乗りの杉野でも何とかついていけた。

 いくつかカーブを曲がっていくと、ふいに左の木々が切れて、なかなかの絶景が拝めた。

 その時、杉野達の後ろから、赤いスポーツカーが物凄い勢いで追い越していった。


「あぶねぇーだろーが!! こんのくそセリカ!!」


 坂田がメット越しに、怒声を上げる。

「まあまあ、事故らなかったんだから、いいじゃないですか」

「そうだけどよぉ……」

 平和主義な杉野が宥めると、坂田はちょこっとテンションが下がったように見えた。



 その一件で、どうにも興が冷めてしまった一行はツーリングを中断して、近くの道の駅で休むことにした。



「いや~、楽しかったなぁ。やっぱ二人で走ると二倍楽しいな! にしても、あのアホセリカめ! 今度会ったら、ベレッタでハチの巣にしてやらぁ」


「まあ、そう怒らなくても……。そんなことより、俺、初めて他の人と走って、めっっっちゃ楽しかったっす! 今日は誘ってくれて、ありがとうございました」


「いいってことよ。にしても、ここのフランクフルトは相変わらずうんめーなぁ」


 言いながら、アツアツのフランクフルトを美味そうにほうばっている。

 少しは機嫌が直ってきたようだ。


「マジでうまそうっすね。ちょっと僕も買ってきますわ」


 杉野がフランクフルトを買いに行くと、坂田がちょうど自分の分を食べ終わってしまったので、手持ちぶさたになってしまった。



 暇なので、そこらに停まってる他のバイクを見ながらふらふらしていると、駐車場に何処かで見た気がするスポーツカーが停まっているのに気づいた。

 赤い車体に、特徴的な丸目四灯のライト、間違いない、先程杉野達を無理やり追い越していった、あのセリカだ。

 頭に血が上った坂田が、ずかずかとその赤い車体に近寄る。

 文句の一つや二つ言ってやろうかと思っていた坂田だったが、車内には誰も乗っていなかったので、拍子抜けしてしまった。



 諦めて、戻ろうとすると、背後からタイヤの空転する音がした。

 急いで振り向くと、例のセリカがけっこうな勢いで駐車場を出るのが見えた。


「あんのくそ野郎!!!」


 激高した坂田が自分の相棒で駐車場を出たのは、杉野が戻ってくるほんの少し前であった。



 全速力で峠道を爆走していくと、例の赤い車体が見えてきた。

 相手は四駆のスポーツカーであるが、坂田もここいらの峠は走りつくしているので、負ける気はしない。



 カーブを曲がるごとに、少しづつ距離を詰めていく。

 もう少しで追いつきそうな距離まで来ると、セリカが一気に速度を上げて、左カーブに突っ込んでいく。

 曲がり切れぬだろうと考え、速度を落とした坂田だったが、意外なことにセリカが華麗なドリフトを決めて、カーブの向こう側へ消えてしまった。

 慌ててスピードを上げて追いかける坂田であったが、カーブの先にはもう相手の姿はなかった。



 諦めて道の駅に戻ると、不機嫌そうな杉野が食い終わったフランクフルトの串をくるくる回しながら律儀に待っていた。



 その後、坂田は杉野の機嫌を取る為に、晩飯をおごるだけでなく、ガソリン代も出す羽目になったのだった。


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