ピンクの髪の男爵令息は牙を持つ
とある王立学園の卒業パーティ。
そこで、この国の王女メリッサは宣言する。
「わたくし、第一王女メリッサは、ゲオルグ・アルティミス公爵令息との婚約を破棄し、
シャルル・マーシャル男爵令息との婚約をここにて宣言する。」
メリッサを睨むは婚約者のゲオルグ。
「何故だ?私のどこが気に入らない。よりによってシャルルだと???」
そう、メリッサに付き添うのはピンクのふわっふわの髪で色白の男爵令息シャルル。
シャルルは困ったように、
「どうも、メリッサ様は僕の事が好きみたいだよ。やだなぁ。困っちゃうなぁ。」
ポッと頬を染めて跪き王女の手を取り、首を傾げて、上目遣いにメリッサ王女を見れば、王女はシャルルの頭をナデナデし、
「シャルル。なんて可愛い。わたくしは癒されたいのです。ですから…ゲオルグ。貴方との婚約を破棄致しますわ。」
「よりによってこんな…ヤサ男と…許せない。私は、受け入れないからな。
後から公爵家より苦情を王家に申し入れる。」
卒業生の見守る中、ゲオルグは取り巻きの公爵令息達と共に、足音高くその場を退場する。
ゲオルグの後姿を見送ったメリッサ王女は、扇を口元に当てて呟いた。
「本当に、わたくしもゲオルグ様。貴方の事、許せませんわ。」
王城に戻ると、父である国王に報告する。
「わたくし、ゲオルグ・アルティミス公爵令息を見限りましたわ。
ですから婚約破棄してまいりました。18歳になれば結婚が許される年頃になります。
わたくしは、あんな男と結婚したくはない。」
アルフレッド国王は傍にいた宰相に、
「ゲオルグの最近の行動報告書を私にも見せて貰おう。」
「はっ。」
メリッサ王女は、国王が報告書を読むのを待ってから、
「何人の女性達と逢瀬を重ねているのでしょう。そして派手な金遣い。
そういえば、わたくし、首飾りを無くしましたの。ゲオルグ様とお茶をたしなんだ後でしたわ。
もう、我慢出来ません。結婚を公爵家は急いでいたようですけれども、こんな男と結婚したくはありませんわ。」
国王は頷いて、
「メリッサ。そなたの婚約破棄認めよう。こちらからその事はアルティミス公爵家に通達しておく。この行動報告書と共にな。しかし、何だ?その傍に立っているヤサ男は?」
「わたくしの新たなる婚約者。シャルル・マーシャル男爵令息でございます。」
「シャルル??よりにもよって男爵令息だと???」
「シャルル・マーシャルです。国王陛下。どうぞお見知りおきを。」
跪き、国王陛下に挨拶するシャルル。
国王は首を振って。
「認めん。男爵令息と結婚等。もし、奴と結婚するのなら、お前は王位継承権から外すぞ。
私の弟に譲る事になるが?」
メリッサは一人娘である。したがって王位継承権一位であった。
メリッサはにっこり微笑んで。
「シャルルは癒されるのです。でも、それ以上に…」
「それ以上に?」
シャルルは、厚い書類の束を取り出して、国王へ手渡し、
「これは僕が調べ意見を書いた、この国の政策に関する考え方です。是非、一読下さればよいかと。」
「これは分厚い…宰相。其方が読んで私に意見を聞かせてほしい。」
「かしこまりましてございます。」
宰相がその書類の束を預かった。
メリッサ王女は国王に向かって、
「彼はとても頭がいいの。だから父上。わたくしとの婚約を認めて下さいませ。」
「頭がいいだけではな…」
「それならば。シャルル。貴方の筋肉をお見せなさい。」
「ここで脱ぐのですか?失礼に当たりませんか?」
「脱いで頂戴。貴方がいかに鍛えているか見て頂くのよ。」
シャルルは上半身裸になる。
気痩せするタイプなのか、脱ぐと色白なのに、筋肉隆々だった。
「「「おおおおおおおおっーーーーーー」」」
周りから感嘆の声が漏れる。
「この通りですわ。彼は鍛えていますし、剣技の腕も一流です。」
シャルルは国王に一枚の書類を提出する。
そこには王立学園での剣技の成績、そして学業共に全て一位の成績を収めていた。
ただ、王立学園はいかに成績が良くても、高位貴族程、プラスアルファの評価が着く事になっている。だから、シャルルの優秀さは学園では評判にならなかった。男爵令息と公爵令息とでは学園でのクラスも違うのだ。皆、シャルルを見る目は、下位貴族達からは、見かけによらず出来る男。上位貴族達の間では単なるヤサ男だったのである。
「何なら、騎士団の方達に僕の実力を見て頂けるとありがたいのですが。」
廊下を丁度、通りかかったのは遠国から来た使節団だ。
王との謁見は済ませてあるらしいが、どうも王宮で迷ったらしい。
シャルルはすかさず、その使節団へ近づいて、外国語で話かける。
「その紋章は、スエトロ王国の…私はスエトロ語を話せます。どうなさったのですか?」
使節団の一人が、シャルルに、
「ちょっと廊下を出たら迷ってしまって。客室はどこでしたか?」
宰相が慌てて近づいて、
「何を言っておられるのだ?」
シャルルが答える。
「客室はどこかと。王宮内で迷子になったようです。」
「ああ、それでは、案内致そう。」
宰相自ら、使節団を案内するようである。
メリッサ王女は微笑んで、
「この通り、シャルルは外国語も堪能ですわ。」
国王は感心して、
「見かけによらず凄い男よの。それならば一つ仕事をしてくれぬか?」
「何でございましょう。」
「我が娘を愚弄したゲオルグに仕置をしたい。」
「わたくし、直接しとうございますわ。シャルル。協力してくれるわね。」
「勿論。メリッサ様の為なら、なんなりとお申し付け下さい。」
ゲオルグは女達と共に、夜道を歩いていた。
酒を浴びるに酒場で飲み、ご機嫌だ。
「メリッサめ。この私と婚約破棄等、後悔させてやるっーー。」
ぐいっと酒瓶をラッパ飲みする。
「ゲオルグ様っーー素敵ですわー。」
「本当に、素敵すぎて倒れそうですわよー。」
その時、豪華な馬車が止まって、メリッサ王女とシャルルが降りて来た。
メリッサ王女はゲオルグの前に行くと、
「この首飾り、シャルルが見つけてくれたのよ。貴方が売り払ったそうね。
お店の人が証言してくれたわ。貴方が直に持ち込んだってね。」
「はっ??この首飾りは落ちていたのだ。私が売り払って何が悪い。」
「落ちていた?わたくしがお気に入りの首飾りだって知っていたでしょうに。
お母様の形見なのよ。許せませんわ。」
ビシっと扇でゲオルグの頬をひっぱだく。
ゲオルグは怒りまくって、
「おのれっーーー。
メリッサ王女に飛び掛かったが、突然、何者かに足を引っかけられて地に転がされた。
腕をひねあげられる。
「いたたたたっーーーー。離せっーーー。」
すると男の声で、
「離しません。メリッサ様に無礼を図る者は不敬罪で牢獄行きです。覚悟して下さい。」
見上げれば、ピンクの髪のヤサ男、シャルルがにっこりと微笑む。
「きさまは、シャルルっ。男爵令息の分際で。」
「ああ…僕…男爵令息ですけど、スパダリになる自信あるんですよ。
メリッサ王女様を支えて、優れた王配になる自信もね。
人は見かけによらないんだな。
庇護欲を掻き立てられる者程、男も女も牙を持っているんだよ。
そこの所、よーくわかってほしいな。」
にっこりと天使の笑顔で微笑むシャルル。
そして、ゲオルグを縛り上げる。
メリッサ王女はゲオルグを地に転がし、その顔をヒールで踏みつけながら、
「貴方には王家の首飾りを盗んだ窃盗罪。わたくしに危害を加えようとした不敬罪。
まだまだ叩けばホコリが出そうね。じっくりと取り調べて貰うわ。覚悟する事ね。」
メリッサ王女は愛しのシャルルの腕を取る。
「本当にシャルルって素敵。癒しだけではなくて、出来る男なのもわたくしの惹かれる所だわ。」
「僕…メリッサ様の役に立って嬉しいですっ。」
わざとらしく頬を染めるシャルル。
メリッサ王女は嬉しそうに、
「本当にそんな所がす・て・き。」
この出来すぎる男爵令息シャルルは、後にメリッサ王女と結婚し、その凄腕で王国をかつてない程、繁栄させた。
一方、その可愛らしい癒しの笑顔で、メリッサ王女を時には癒して、二人は仲睦まじい夫婦としても有名になった。
人は見かけによらず。
ピンクの髪の男爵令息は牙を持つ。
国民の間で、有名になり、
「見かけに騙されてはいけないよ。特にピンクの髪の男や女にはね。」
と言う教訓が長く言い伝えられたと言う。