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第04話『オーク村の生活』

 いつの間にか寝ていたようだ。

 放熱を終えた【W-01】は、ボディスーツ状態に戻っていた。


『おはようネラ。さっき朝食の差し入れがあったよ。少し冷めちゃったね』


 当然のようにルブランが居て、王様だったオークは居ない。

 朝食は木製の器に入っている何かの葉っぱと鶏肉のような何かが入った豆のような粥。それと木製のコップに入ったミルク。

 王様の食事としては質素だが、ネラが昨日から何も食べていない事を案じて、あえて軽めのものを用意したのだとしたら、思慮深い。


「これは、オークが作ってオークが運んできたのか?」


『人間が作ったものを人間が運んできたよ』


 【O-01】の観測ではオークにしか注意していなかったが、人が居たのか。後で会いに行こう。

 そんな考えを巡らせながら、ネラは器を傾けて薄い豆粥を喉に流し込む。


「ところでルブランのその念話は、どれくらいの距離まで通じるんだ?」


『絆さえあれば、特に距離は関係ないね。絆が無ければ、目の前に居ても僕の声は届かない』


 つまり会話が成立している自分達には絆があると。

 絆とは?


『愛の事さ』


 愛とは?


『互いに絆を感じる関係かな』


 一概にふざけた話でもないかも知れない。

 絆とは、束縛や切っても切れない関係という意味もある。

 愛にもアガペー、エロス、色々ある。

 えにしという言葉もあるし、何か特別な関係である事は確かなのだろう。


 ネラにとっては、この世界で初めて出会った話の通じる知的生命体である。

 それは特別な関係なのだろう……もっと素敵な出会いが良かったと思っても、過去は変えられない。



 ネラは人間の居る場所を探すついでに、昨晩からの情報をHMDに流す。

 寝た後にも【O-01】からの警報は何度か出ていたが、熟睡していて気付かなかったか。我ながら後始末が酷い。

 結局、自分やルブランや集落に直接害が及ぶ状況にはならなかったから【A-22】は攻撃しなかった。

 寝込みを襲われなかったのは運が良かったからに過ぎない。

 動体探知した標的は野生動物だったようだが、もしこれが敵意を持った生命体だったら……。

 これは秘書的な奴と本格戦闘用の奴を最低2体ずつ、生成しておくべきだ。


 ネラは【S-Sc-01/M】と【S-Sc-01/F】を1体ずつ。それと戦闘用の【F-04】を2体、それらが使用するプラズマライフル等の武器一式を生成した。

 いずれも完全な人型で、【W-01】と同程度の性能を持つナノマテリアルが表面を覆う事で、外見的には普通の人間に見える。

 容姿はいずれも、誰でもあり誰でもないような平均的で印象に残りにくい普通の顔立ち。

 身長や体格は戦闘を主任務としない【S-Sc-01】は普通程度で、戦闘用の【F-04】は大柄となる。

 触れれば人間でない、言わばゴーレムである事くらい直ぐに分かるが、遠目から見ればまず見分けはつかない。

 服装がどうしてもボディスーツ、ボディスーツのようなピッチリしたものになってしまうので、そこの不自然さはどうにも解決しがたいが、ネラが必要とする最低限の能力はある。


 現時点で、ネラが一度に実体化させられる限度にはまだ十分過ぎるくらいの余裕はあるが、キャパシティのギリギリまで使うと不測の事態が起きた時に対処出来なくなる。

 いきなり外に連れ出しても面倒臭いが、遊ばせておくのも勿体無いので、【S-Sc-01/F】だけは家で待機し、残りは集落から少し離れた場所で資材を集めて、とりあえずは家具を揃えて貰おうと、命令を出す。

 作業用ではないから多少効率は悪いが、半日もあればベッドと椅子とテーブルと簡単なチェストくらい作れるだろう。

 金属部品を使う解体用途に【W-03】を5体も置いておけば大丈夫だろう。



 食事を終えたネラは、早速行動を開始する。


 食器を返すついでに、集落に居る人間と接触を持ちたい。

 食肉の安定的な供給源として、集落をオーク牧場とするつもりだったが、人間が居るとなると方針転換が必要かも知れない。

 もしその人間がオークに虐げられて反抗の機会を窺っていたとかになると話がややこしくなる。

 人数や状況を、実際に会って確かめないとならないだろう。



 ネラは外出するにあたり、少し考えて【W-01】をもう一着分追加する。

 基本は全身防護のボディスーツ状態だが、普段はもう少し普通の服のようなものにしたい。

 【W-01】は肌にピッタリ吸い付くように装着され、スカートやワンピース、コートのようなゆったりヒラヒラした形状を自然な形で維持するのは苦手で、色は黒以外にも調整出来るが、単色のみで部分ごとの色分け指定が出来ない。

 本来、最低限の防御力を持つインナーウェアであって、この上から何かしらの服を着たり更なる装備を装着するのが正しい使い方。【W-01】だけで服装が完成するようには出来ていないのだ。

 他の色にするよりは黒のままの方がまだしも違和感が少ないだろう。基本色なので、色変更という操作をしないだけ僅かながら負荷も小さくなる。


 厚みを持たせて誤魔化しつつ、上半身は七分袖に。

 【W-01】単体で可能な“衣装”としては、もうこれくらいしか選択肢がない気がする。

 あとは、靴と手袋。手袋はともかく靴はコンバットブーツ風のナニカが限界だ。


 つまりこれが普段用の恰好。

 そして戦闘や危険度の高い場合に全身を覆うボディスーツに戻す。

 ネラの指示があれば戻るし、【W-01】自身や【S-Sc-01】、【F-04】、上空からネラを見守っている【O-01】など、周囲とのデータリンクで危険と判断しても自動的に戻る。


『どう転んでもえっちだなぁ』


 ルブランは心に直接話しかけてくるから、黙らす事が出来ない。

 しかもどんなに離れても声が届くとは、一種の拷問ではないだろうか。


『ところで君は自分のものだからいつでも自由に形を変えられるようだけど、僕のこれはどうすればいいのかな?』


 ルブランも全身に【W-01】を覆わせているが、何か不都合があるだろうか?

 折角の白く美しい馬体が真っ黒になってしまって不満なら、色変更くらい直ぐに出来るが。


『トイレに行きたい時にどうすればいいのかな?』


「行きたければ行けばいいだろう。この集落に馬用のトイレがあるかは知らんが」


『そういう意味じゃない事くらい分かるだろう? もう結構限界が近いんだ』


 おい、家の中でするんじゃない!

 というかユニコーンも出すものは出すんだな。

 などと感心しながらも、ネラは素早く動いた。


「そういう大事な事は早く言え! とりあえず家から出ろ!」


 王様オーク用の大きめのドアを通って、ルブランを追い出す。

 人間用のドアだとこんな簡単には出られなかった。入って来る事が難しかったろうが。


 しかし馬を飼っているようには見えないこの集落に、馬用のトイレがあるだろうか? 

 ルブランは馬ではないが、馬みたいなものだろう。厩舎か家畜小屋か……。


『僕は家畜かい?』


「いいのか? 私が一言命令すれば、お前はもう一生出すもの出せなくする事も出来るんだぞ?」


『そんなねちっこい方法で死ぬのは嫌だよ……』


 脅しつつ、ネラは【O-01】の情報から、集落の外れに家畜小屋らしきものを見つけた。

 動物小屋では、豚や羊などが飼われているようではあるが、馬は見当たらない。

 他の場所にもそういった類のものは無いので、見つけた方向へ、小走りで動物小屋を目指す。

 時折オークに声をかけられるが、今はそれどころではない。



 ネラとルブランが辿り着いた動物小屋には多数の鶏と豚、少数の羊と牛は居たが、やはり馬は居なかった。

 こんな森の奥深くで馬を必要とする状況など想定されないだろうから、驚くような事ではない。

 むしろよく羊や牛などを維持していると言える。


『別にここでして良くない? 排水溝はあるようだし』


「あの排水溝は雨水が溜まらないようにする為のものに見えるし、ここを掃除する人の事も考えろ。それにちゃんとトイレでやらないと自然を汚すだろう」


『ユニコーンのは綺麗だよ。フローラルだよ』


「カレー味のウンコみたいな話をされてもな、ウンコはウンコだろう」


『昨日、オークと森を散々焼いて環境破壊した人に言われたくないよ。それに今回限りで、次回からは僕用のトイレを作ればいい』


「誰がルブランのトイレを作るんだい? オーク共にやらせるのか?」


『もう、こんな事を言い合っている時間があればトイレくらい作ってくれてもいいだろ?』


「他人の土地に勝手にトイレ建設が許されるだろうか」


『君が乗っ取った集落だ! 駄目と言うなら暴れ回って集落を壊すぞ! 角から破壊光線出すぞ!』


 ネラは建築用傀儡である【T-01】を生成し、動物小屋の裏手にあった肥溜め小屋の近くの空き地にルブラン用の簡易トイレ建築を命じた。

 と言っても、穴を掘って盛り土にするだけだ。終わったら埋め戻す。


「1分待て」


 猛り狂うとはこの事か。

 しかし破壊光線とは。試射させて威力を確かめたい。


『そんな奥の手を簡単に見せると思うかい? 君だってまだまだ奥の手は隠してるだろう?』


 掘り終わった穴に向けて大小の用を足しながら、ルブランは角を光らせた。


「そんな無防備な姿で言われても説得力が無いなぁ。終わってからにしような」


 しかしルブランが出したモノは本当に特有の悪臭は無く、微かに甘い花のような香りがする。

 ユニコーンの生態は謎だ。回収して解析すべきか?


「次から私に許可を貰う時は“用便お願いします”だ。忘れるなよ」


『何で僕が、トイレの度に許可を必要としなければいけないの……』


「なら股間の急所だけは、常に開きっぱなしにしておいた方が良いか?」


『そんな酷い選択肢……でも君に頼めない事もあるだろうから、そうしてくれた方が良いよ』


 普段は閉じた状態で、ルブランが後ろ脚を広げて“用便の姿勢”を取った時にはそこだけ開くようになった。

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