第十話・他人が手放しで自作を褒めることはないとわきまえること
以下は誰もが夢見る作家のサクセスストーリーです。
……ある日思いついた話を何気なく出版社に送ったらすぐに本になって版を重ねてベストセラーになりました。 ⇒⇒⇒ そういう作家さん実際にいますが、大半は高望みにすぎないでしょう。
文豪の話を読んでいると結構気の弱い人が多く、出来上がったらなんでも褒めちぎる編集者にまず見せる人が多い。別の出版社へ渡す原稿も褒め上手な気に入りの他社の編集者に見せる。結局文豪といえども普通の人間だなあと感じます。
編集者も「お仕事」 だから褒めてくれるのでしょう。編集者だってある程度の読みこなしや、文章を書ける人です。文章については目が肥えています。出来栄えがいい悪い関係なく、その文章が売れるかどうか、を見極めるのも仕事の一つだから。
また近年は出版不況で大型書店の倒産も珍しくない。大変に厳しい状況です。ベストセラー作家はある程度の売れ行きが予測できるものの、すべての人間が手放しで褒めまた愛してくれる作品を生み出せるとは限らない。プロですらそうなのですから、ましてや私のような書けたらいい、ついでにいつか受賞できたらいいなと夢見る状態はどうでしょう。
原稿は原石です。ベストセラーになる原稿は金塊だとも言います。本が売れるとお金になるからです。それを見極めるのが編集者であり文学賞の選考者です。みんな、基本の文章が書ける人なのです。
ど素人の私たちの文章がお金になるかならないか以前に、編集者や選考者だって、みんな、自分が書いたものがベストセラーになれたらいいなと思っているはずです。事実、編集者から作家になる人も多いです。元々文章に対して目が肥えているので当然でしょう。加えて売れるか売れないかの見極めも、お給料に直結しますので目線も厳しい。編集者だって会社員ですのでともかく一人の意志で出版はできません。
編集会議であげて無事決済をもらってから出版や雑誌連載の話がくるでしょう。そのあたりでは漫画のバクマンが詳細に書かれていて非常に興味深いです。
ある出版社がある書き手をキープする目的で先に商業出版を確約したが、ダメだったという話もネットで読んだことがあります。キープ外以外に本命が出たわけですね。素人新人は立場が弱いからくやしがるだけです。それと出版詐欺。あなたの原稿は素晴らしい。ぜひ出版すべきですと持ち上げておいて、商業出版に見せかけた自費出版というもの。共同出版という曖昧なやり方もありますし、素人相手の出版社は損はしたくないのでとにかく知恵を絞ります。
自費出版を専門とする会社は、書き手の作品を世に出したいという渇望をよく知っていて、自ら営業をかけてきたりします。もう倒産した会社ですが社会問題になったところで、私にも電話がかかってきたところがありました。見積もり無料というのでお願いしたら二百万円でした。もちろん断りました。そんな余裕、家計にありません。でも一度そういった見積もりをとったら脈ありと判断されるのか、定期的にダイレクトメールがきます。倒産した時に被害者のエッセイを読む機会がありましたが、自費出版後も保管料などの名目で数度にわたってお金を取られていた。とても気の毒に思っています。出版社の編集者はこれは売れない作品だと思ったらはっきりと売れないと、引導を渡すのも仕事のうちだと思っている。
文章を書く習慣のない人、創作をしない家族、親類、友人は、作品を見せるとほめてくれますが本心でないと心得た方がいいです。勤務先の部下や取引先ならお世辞もセットで含まれています。私自身もそれをしたことがあります。一部の創作者に自信満々な人が多いので……私は逆にそういう性格の方が人生楽しそうだなと思います。