いざ果ての草原へ
町から比較的近いところに広大で肥沃な草原が広がっている。
とても広くてどこまで進んでも終わりが見えず、世界の果てまでつながっているといわれているから、そこは『果ての草原』と呼ばれてるんだ。
そんないわくつきの場所なんだけど、草原そのものは危険なところはほとんどない。
気候もよくて、今日は天気も晴れているからとても歩きやすかった。
「ピクニックみたいで楽しいですね!」
ライムが上機嫌に歩いている。
僕たちはシルヴィアの率いる騎士団『自由の風』に同行する形で草原を進んでいた。
アルフォードさんに頼まれたからなんだけど、隊を率いるシルヴィアは僕たちのことを信用していない。
「貴様等の助けなど必要ない。せいぜい足を引っ張らないように大人しくしていろ」
といわれてしまったため、今は隊の一番後ろから後を追う形でついて行っている。
もともとこのクエストは、結成したばかりのシルヴィアの騎士団の訓練も兼ねているものだと思うから、あまり手は出さない方がいいよね。
なのでライムとのんびり散歩気分で歩いていたら、隊の先頭を歩いていたシルヴィアが僕たちのほうにまでやってきた。
「ふん。一応遅れずについてきてはいるようだな」
口調は厳しかったけど、どうやらわざわざ僕たちの様子を見に来てくれたみたいだ。
「隊の速度もゆっくりだからね。これくらいなら僕たちでもついていけるよ。心配してくれてありがとう」
「……一応はアルフォード様からの紹介だからな。何かあっては申し訳が立たない。せいぜい怪我をしないようにすることだな」
「うん、そうするね。このあたりは危険な魔物もいないし、ゆっくり進むことにするよ」
草原にはなにもないから、方角さえ間違えなければ迷うようなこともないしね。
「……やけに聞き分けがいいな。もっと反発するかと思ったが」
「アルフォードさんとの約束だからね」
「そうか。まあいいだろう。ところでひとつ尋ねたいことがある」
どうやら様子を見に来ただけじゃなかったみたいだ。
「うん。僕に答えられることならなんでも聞いて」
「貴様は果ての草原に行くのは初めてか?」
「そんなことないよ。よく素材の採取を依頼されるから、もう何回も来ているよ」
こっちの草原はとても豊かで、動植物の種類が多い。
素材探しにうってつけの場所なんだ。
だからけっこう来る機会は多い。
最近はたまたま違う依頼が多かったけど、僕らの町からは果ての草原に近いこともあって、依頼されるクエストも大半が草原関係だしね。
そのおかげで素材の採取場所や、モンスターの生息域などこのあたりにはそれなりに詳しい。
さすがに虹の欠片を見たことはないんだけどね。
とにかくそういうわけだから、果ての草原については熟知しているつもりだ。
だけどシルヴィアは疑わしそうな目を僕に向けた。
「確認したいのだが、貴様等の装備はそれだけか?」
「そうだけど……」
いわれて気がついたけど、僕が持ってきている装備らしい装備といえば、鍋だけだった。
せっかくの竜の鱗の鍋だからもっと使いたくて持ってきたんだ。
他に鞄も持ってるけど、素材を持ち帰るためのものだから、今は中身はほとんど空になっている。
それにこのあたりは素材の宝庫だから、たいていの物は現地調達できるしね。
ライムにいたっては最初からなにも持ってきていない。完全に手ぶらだ。
なのでこうしてみてみると、僕たちはそれこそ本当に散歩に来たくらいの軽装だった。
シルヴィアの目がますます厳しくなる。
「果ての草原に詳しいのなら、このあたりのモンスターについても知っているはずだろう? そんな軽装でよくこられるな」
「このあたりは危険な魔物はいないからね」
僕がそういうと、シルヴィアの目の色が変わった。
「危険な魔物がいないだと? このあたりはコカトリスや、魔獣族の生息地だぞ。危険極まりない魔物の宝庫だ。それを知らないとは、単なる無知か、それともよほどの自信家か……。まあその装備を見ればどちらなのかはいわずもがなだがな」
「うん、戦闘に関しては全然だからね」
なにしろ僕はレベル1だから、最弱のミニゴブリンと互角なくらいだ。
このあたりにでるモンスターと戦いになれば十秒と持たないだろう。
ライムなら逆に楽勝だろうけど、あまり危険なことはさせたくない。
だからシルヴィアたちに守ってもらわないといけないんだ。
案内人として依頼されたのに守ってもらうのはちょっと情けないけど、見栄をはって出来ないものを出来るといったら迷惑をかけちゃうからね。
シルヴィアも口元にわずかな笑みを浮かべた。
「フッ。虚勢を張らない点だけはほめてやろう。
とはいえアルフォード様の推薦だ。ただの素人ということもあるまい。虹の欠片の専門家とか、せいぜいそのあたりだろう? 少なくとも戦闘の役には立たないだろうから、私たちの後ろに隠れているといい」
「うん、そうさせてもらうね」
わざわざそんなことを言いに来てくれるなんて、やっぱりシルヴィアはいい人だよね。




