我が隊は実力主義だ
今の時代、冒険者カードはほとんど生活必需品といってもいいくらいだ。
それを持っていないなんて、よほどの訳ありしか考えられない。
犯罪者か、公にしたくない身分の持ち主か……。
ライムの場合は、正体が人間の姿に擬態したゴールデンスライムだから、それがバレないようにするためにカードを作ってないんだ。
偽造するわけにもいかないしね。
それはアルフォードさんも知ってるから、すぐにフォローしてくれた。
「シルヴィアが疑うのも無理はないだろう。私もはじめはずいぶんと驚いたものだ。だが二人の身分と実力は私が保証する。心配はいらない」
「……い、いえ! アルフォード様の推薦を疑うわけでは決して……!」
シルヴィアが慌てたように否定する。
「こうみえて二人とも頼りになる実力者だ。クエスト中は彼らの言葉は私の言葉と思って従ってほしい。
カイン君たちも、なにかあったらシルヴィアをサポートしてやってほしい」
それはもちろんかまわないんだけど。
「今回は『虹の欠片』を取りに行くんですよね?」
「ああそうだ」
僕とアルフォードさんの視線が正面から重なり合う。
じっと見据えるようなその視線を受けて、今回のクエストの目的を理解した。
「わかりました。微力ながらお力添えさせていただきます」
「君たちがとても微力とは思えないが、そういってもらえると心強い。
ではシルヴィア。私は王都に戻る。ここからの指揮は君一人で行うことになるが、問題はないな」
シルヴィアがすぐにひざまずき、アルフォードさんに向けて頭を垂れた。
「はっ。お任せください。このシルヴィア、必ずやご期待に応えてみせます」
「うむ。シルヴィアの実力は私もよく知っているから心配はしていない。だがあえて一言だけお節介をいわせてもらおう。決して無理はするな。危険と感じたらすぐに撤退しろ。それが隊を指揮する者の責任だ」
「はっ。肝に銘じておきます」
「では朗報を期待しているぞ」
そういうと、アルフォードさんは馬に乗って王都に戻っていった。
その姿が見えなくなってから、シルヴィアが立ち上がり僕たちに目を向ける。
瞳には、はっきりと拒絶の色が浮かんでいた。
「私はアルフォード様と同じ実力主義だ。どのような者であれ実力があるのなら評価する。だがそれは逆も同じだ。どのような者であれ実力がないのなら評価しない。
アルフォード様の推薦だから同行は許可しよう。せいぜい邪魔にならないようにしてるんだな」
口調も突き放すような厳しいものに変わっていた。
内容もすでに僕たちを実力がないと決めつけている。
いやまあそれに関してはその通りなのでなにも問題ないんだけど。
だけどそれは僕たちを嫌ってるからって感じじゃない。
自分にも他人にも厳しい騎士って感じだ。
「氷のシルヴィア」は無表情という意味じゃなくて、冷徹という意味なのかも。
もしかしたらこっちが普段の口調なのかもしれないね。
「もちろんだよ。足手まといにならないよう努力するね」
「任せてください! こう見えてわたしすっごく強いですから!」
ファイティングポーズを取るライムを見ても、シルヴィアの態度は変わりなかった。
「ふん。せいぜい頑張ることだな」
「うん。よろしくねシルヴィア」
握手をしようと手を差し出したけど、シルヴィアは嫌悪の表情を浮かべるだけだった。
「軽々しく私の名を呼ぶな」
「ええっと、それじゃあ、オルベリクさん、でいいかな?」
「ふん、本来ならその名も軽々しく口にできないが、呼ぶ名がなければ不便だからな。今回は許可しよう」
そう告げると、集まる騎士たちをまとめるため、号令をかけはじめた。
「休憩は終わりだ! 『自由の風』団、出発するぞ!」
シルヴィアの声と共に、僕たちは西の草原へと進み始めた。