女騎士シルヴィア
僕とアルフォードさんのほうに向けて、一人の女騎士が歩いてきた。
背をまっすぐに伸ばし、着込んだ銀の鎧に美しい銀の髪がかかっている。
引き締められた表情がいかにも真面目な騎士らしい。
その人はアルフォードさんの前に立つと、直立不動の姿勢となった。
「『自由の風』団隊長、シルヴィア=オルベリク参りました」
イメージ通りの凛としたよく通る声が響く。
ちなみにアルフォードさんのとなりに僕もいるんだけど、こっちには一瞥もくれなかった。
アルフォードさん以外は眼中にないって感じだ。
きっとよっぽどアルフォードさんのことを尊敬してるんだろうね。
「時間通りだな。さすがだなシルヴィア」
「いえ、この程度、騎士として当然です」
「君に紹介したい人物がいる。カイン君とライム君だ」
そこではじめて、澄んだ銀色の瞳が僕とライムを見た。
その視線は一瞬だけで、すぐに僕たちに向かって一礼した。
「シルヴィア=オルベリクです。以後お見知り置きを」
「はじめまして。僕はカインで、こっちがライムです」
「ライムです! よろしくお願いします!」
元気いっぱいな声が響いたけど、シルヴィアさんはちらりと視線を向けただけだった。
ずいぶんクールな人みたいだね。
アルフォードさんが小さく苦笑する。
「シルヴィアはこの若さで隊を一つ任されるほどの実力者でな。『氷のシルヴィア』の二つ名を持つほどだ」
「この若さで二つ名を? それはすごいですね」
騎士が二つ名を与えられるには、相応の功績を残さなければいけないと聞いたことがある。
だけどシルヴィアは静かに首を振った。
「いえ、私などまだまだです。家の名によってもらったようなものですから」
「確かに一部の騎士には家柄を重んじる傾向があるが……。
少なくとも私は家柄だけではなく、実力で評価したいと考えている。シルヴィアもそう考えたから『自由の風』団を結成したのだろう」
「……騎士とは国を、ひいては民を守るための者。そのための騎士団を結成したかったまでです」
「うむ。その考えには私も同意する。しかしシルヴィアは優秀だが、どうにも柔軟さに欠けるところがあるな」
「私が未熟なばかりにアルフォード様にご心配をおかけして申し訳ありません」
「いや、責めているわけではない。それがシルヴィアのいいところだとも思うからな」
「恐縮です」
シルヴィアの表情は変わることなく凛としたままだったけど、アルフォードさんに向ける視線は、僕たちを見るときよりもいくらかやわらいでいた。
やっぱりシルヴィアもアルフォードさんのことを敬愛してるみたいだね。
「私はこのあとどうしてもはずせない用事があってな。実は今回のクエストに同行できないのだ」
「えっ」
シルヴィアの表情が初めて変わった。
「てっきりアルフォード様が同行されるものとばかり思っていましたが」
「事情が変わってしまってな。代わりにカイン君たちを呼んだのだ」
「この者たちが替わりに……?」
僕たちを見る氷のような白銀の瞳に、わずかに疑いの色が浮かぶ。
「……失礼ですが、普通の市民にしか見えませんが」
さすがアルフォードさんに優秀といわれるだけはある。
実際僕は普通の市民だからね。
「アルフォード様の推薦を疑うわけではありませんが、冒険者カードを見せてもらえませんか。一応お二人の実力を知っておきたいので」
渡した僕の冒険者カードを見て、シルヴィアの瞳が見開かれた。
「レベル1でスキル0だと……!? そ、そっちの女性は……」
「あ、わたしはその、ぼうけんしゃかーど? というのは持ってないんです」
「冒険者カードを持っていないだと……?」
シルヴィアの疑いの色がますます濃くなった。