クエスト開始
アルフォードさんから依頼されたクエストの日がやってきた。
目的の場所である西の草原はこの町から向かうみたいで、集合場所も王都ではなく、町のすぐ外になっていた。
僕のほうが近いし待たせるのも悪いかと思って待ち合わせ時間の少し前に向かったら、すでに騎士団の人たちが集合していた。
多くの騎士の人たちが並んでいるけど、整然と整列した感じではなくて、みんなどことなく自由にしていた。
騎士団っていうと厳格なイメージがあったけど、この隊は少し違うのかもね。
もしかしたらまだ結成したばかりなのかも。
そうやって観察していると、騎士の人たちの中にひときわ大きな姿を見つけて近づいた。
「お久しぶりですアルフォードさん」
「おお、カイン君にライム君か。久しぶりだな。このあいだは世話になった」
大きな体に快活な笑みを浮かべて頭を下げる。
「いえ、そんないいですよ。お世話になったのはこちらも同じですから」
アルフォードさんとは、以前にドラゴンがこの近くに襲ってきたときに一緒に戦ったんだ。
ドラゴン自体はライムがワンパンで倒しちゃったけど、そのことが知られれば間違いなく騒ぎになってしまうし、もしかしたらライムの正体がバレてしまうかもしれない。
それは非常に困るので、アルフォードさんに倒してもらったことにしたんだ。
竜を倒したとなれば、ドラゴンスレイヤーの称号を得ることになる。
全ての冒険者があこがれる最強の証だ。
それにアルフォードさんは騎士団団長でもある。
家柄と実力の二つを兼ね備えた貴族中の貴族しかなれないといわれている名誉ある地位らしいんだよね。
まさにドラゴンスレイヤーを得るのにふさわしい人物だと思うんだ。
そのせいか、周りの騎士の人たちもちょっとざわついている。
なにしろアルフォードさんは全騎士団のトップだからね。
憧れの人がこんな近くにいたら、緊張するのも無理はないと思う。
そんなアルフォードさんが、急に僕に向かって頭を下げたから、ざわめきがさらに広がっていった。
「君たちにはろくなお礼もできていないのに、またこうして手を借りることになってしまって申し訳ない」
「い、いえ、そんなの気にしないでください。助けてもらったのはこっちも同じですから、頭を上げてください」
なんかめちゃくちゃ注目されてるし。
「君たちはこの国の危機を救ったのだが、相変わらず謙虚だな」
アルフォードさんが朗らかに笑う。
その言葉を聞いて周囲の騎士たちがさらにざわつき始めた。
「あいつらがこの国を救った……?」
「そういえば、アルフォードさんがドラゴンを倒したとき、熟練冒険者の手を借りたと聞いたことがあるぞ」
「自分一人で倒したわけではないから、という理由で一度はドラゴンスレイヤーの称号を辞退したらしいな」
「それが、あいつらなのか……?」
なにやら噂が広がっている。
「アルフォードさん、ドラゴンスレイヤーの称号をもらわなかったんですか?」
「私が倒したわけではないからな。もっとも、王様に押し切られて結局は受けることになってしまったが」
ドラゴンスレイヤーとなれば誰でも欲しがるはずなのに、それを辞退するなんて、アルフォードさんのほうが謙虚なんじゃないかな。
「それでアルフォードさん、今回のクエストなんですけど……」
「ああ、そうだったな」
今回のクエストは、西の草原の果てにあるといわれる「虹の欠片」の採取ということだった。
伝説によれば虹の欠片は様々な効果を持ち、非常に強力な武具の材料にもなるとされる、貴重な鉱石だ。
市場に出回ったときの値段は計り知れない。
ひょっとしたら伝説の金属であるオリハルコンを上回るかもしれないくらいの物なんだ。
でもアルフォードさんには必要ないもののはず。
なにしろ虹の欠片は……。
「実はその件で君たちに紹介したい人がいるんだ。そろそろ来る時間だが……ああ、ちょうど来たようだな」
アルフォードさんの指し示す方向を見ると、銀髪の美しい女騎士が歩いてくるところだった。




