どうしてこんなにモヤモヤするんですか
「ニアちゃんとカインさんが唇をくっつけたとき、わたしすっごく胸がもやもやしたんです。ニアちゃんのことは嫌いじゃないんですけど……どうしてあんな感じになったんでしょう」
「それは……」
ニアとキスしたときの感触を思い出して、思わず顔が熱くなってしまった。
その表情をライムは見逃さなかった。
「その顔……。カインさんが浮気してるときの顔です!」
ええ……。どんな顔なのそれ……。
「やっぱりキスには特別な意味があるんですか!?」
こういうときのライムはなかなか鋭い。
それに一度決めるととても頑固になるから、なかなかあきらめてくれないんだよね。
ライムが鼻先が触れるほどの距離にまで詰め寄ってくるので、思わず意識して離れてしまった。
「なんで逃げるんですか!」
僕が離れた分、ライムがずずいっと迫ってくる。
「い、いや、逃げてるわけじゃないんだよ。ただ……」
ただでさえキスの話をしてるせいで意識してるのに、さらに近づいてくるから……。
「むむむっ!」
ライムは瞳を釣り上げてまったく引く気がなさそうだ。
「もしかしてキスは人間の交尾と関係があるんですか?」
「それは、ない、と思う。たぶん」
「それじゃあ、どうしてカインさんとニアちゃんがキスしたときを思い出すと、こんなに胸がもやもやするんですか?」
「えっと、それは、その……。キスは好きな人同士でするものだから……、つまり、ライムが、僕のことを……」
ううう……。なんでこんなことを本人に説明しないといけないんだ……。恥ずかし過ぎる……。
いくらなんでもこれ以上自分の口から言うのは無理だ。
黙り込んだ僕に向けて、ライムが納得したようにうなずいた。
「つまりキスは好きな人同士でするものだということですか?」
「えっと、まあそうだね……」
「あっ、モヤモヤの理由がわかりました。
ニアちゃんはカインさんが大好きだからキスをしたのに、わたしもカインさんが大好きなのにまだキスをしてないから、なんだかすっごくモヤモヤするんですね!
……えっ、なんでわたしまだカインさんとキスしてないんですか?」
そんなこと僕に聞かれても……。
「はい! じゃあカインさん、お願いがあります!」
「……うん、どうしたの」
内容は分かり切ってるけどしょうがないから聞いてみる。
ライムが元気よく答えた。
「わたしはカインさんが大好きなので、カインさんとキスがしたいです!」
「ええと、それは……」
そんなに正面から堂々と頼まれると恥ずかしくて仕方ない。
「それはその、できないよ……」
「どうしてですか! 好きな人同士でするんですよね? ニアちゃんとはしたのにわたしとはしないということは、もしかして、わたしのこと嫌いなんですか……?」
「そ、そういうわけじゃないけど!」
目を潤ませるライムに、僕は慌てて否定した。
「えっと、その……。そういうのはすぐにできるものじゃないというか、ライムが嫌いだからしないんじゃなくて、まだできないんだ……」
「むぅ」
ライムが頬を膨らませて不満そうな表情になる。
「まだが無理なら、いつならできますか?」
「ええっと……今はほら、クエストの準備があるから……それで忙しいから、その……」
「むー。それじゃあ次のクエストが終わったらキスしてくれますか」
「う、うん。いいよ。わかった」
なんとかこの話題を終わらせたくて、ついうなずいてしまった。
ライムの顔がぱあっと明るくなる。
「やったあ! それじゃあクエストが終わったらキスしましょうね!」
「う、うん」
そんな大声で言われるとご近所さんにまで聞かれてしまいそうだな……。
となりの家の人とかは僕たちのことどう思ってるんだろう……。
それにしても、なにかとんでもない約束をしてしまった気がする。
でも、そのうち忘れると思うし、大丈夫だよね……?




