意外と難しいですね
元気よく返事をしたライムが、お玉を受け取って、僕の見よう見まねでご飯をかき混ぜはじめた。
だけどなかなか上手くいかないみたいだった。
「あれ、意外と難しいですね……」
上手く混ざらなかったり、逆に大きく動きすぎてこぼれそうになってしまっている。
確かに慣れないうちは難しいかもしれないね。
僕も最初の頃は上手くできなかったし。
でも一度感覚をつかむとすぐできるようになるんだよね。
まだ料理をはじめたばかりの頃を思い出し、いいことを思いついた。
「ちょっと貸して」
ライムの後ろから回り込むと、ライムの手の上から握るようにして鍋の取っ手をつかんだ。
「あっ……か、カインさん……?」
「こうやるんだよ」
そのまま一緒に鍋を持ち上げると、すくい上げるようにしてご飯を炒めていく。
こうすることで鍋の中のご飯をかき混ぜて、均等に火が通るようなる。
ふっくらとしながらもパリッと炒めることができるんだ。
見た目は難しいけど、一度感覚をつかむと意外と簡単に出来るんだよね。
それにしても、なんだかライムが大人しい。
後ろからだと表情が見えないけど、うつむきがちなままずっと黙っていた。
いつも元気なライムには珍しいことだ。
「……もしかしてつまらないかな?」
料理が思っていたよりも楽しくなくて、それで黙っているんじゃないかな……。
そう思って落ち込んでいると、ライムがあわてて首を振った。
「あっ、いえ! 全然そんなことはないです!」
「そうなの? つまらないからずっと黙っているのかと思ったんだけど……」
「カインさんと一緒に料理ができて楽しいです! ただ、なんといいますか、こういうのは慣れてないので、いつもとは違うカインさんが見られてうれしいというか、なんだかちょっと恥ずかしいというか……」
照れ照れとしながらつぶやく。
いわれて気がついたけど、僕たちの体勢は、ちょうど僕がライムを後ろから抱きしめるみたいになっていた。
しかもライムの手と一緒に鍋をお玉を握っている。
「ご、ごめんね。こんな体勢じゃやりにくいよね」
すぐに手を離そうとしたけど、ライムがゆっくりと頭を横に振った。
「いえ、できれば、このままの方がいいです……」
「そ、そう? なら……」
ライムの手を握ったままご飯を炒める。
今更だけど、これってものすごく恥ずかしいことをしてるんじゃないかな……。
立ちこめる香ばしいにおいも、鍋にかかる火の熱気も全然感じられない。
握る手のやわらかさと、抱きついたライムの体温ばかりで頭がいっぱいになっていた。
ライムのきらめくような金髪が目の前にあるせいか、甘い匂いが鼻をくすぐる。
やがてそれは香ばしい匂いに変わり、しだいに焦げ付いた匂いへと変わっていって……。
「か、カインさん! ご飯焦げてますよ!」
「えっ? わあっ!」
いつのまにかご飯をかき混ぜる手が止まっていたため、焦げてしまったみたいだ。
あわてて鍋を火から外す。
ご飯は焦げてしまったけど、竜鱗のおかげでこびりつかずに済んでいた。
さすがはスミスさんに特注で作ってもらっただけはあったかな。
「ごめんなさいカインさん、わたしのせいで……」
「ううん。ライムのせいじゃないよ。僕がうっかりしてたから」
鍋からご飯をお皿に移す。
裏返して置いたため、焦げた面が上になった。
「あ、でもいい匂いです!」
ライムが表情をほころばせる。
確かに焦げた面がちょうどおいしそうな匂いを漂わせていた。
ちょっと味見をしてみると、硬い焦げがアクセントになって美味しい。
「これはこれで美味しそうだから、食べてみようか」
「はい! カインさんと一緒に作ったご飯楽しみです!」
さっそく二人で食べてみる。
焦げた部分が香ばしい触感となって、普通に作るよりも何倍も美味しくなっていた。
一口食べたライムも、表情をふにゃふにゃに崩れさせた。
本当に美味しい時になる表情だ。
「とっても美味しいです! やっぱりカインさんの作るご飯はすごいです!」
「僕が作ったんじゃないよ。僕とライムで作ったんだよ」
僕一人だったらいつも通りにできたはずだし。
「そうでした。カインさんと一緒に作ったからこんなに美味しくなったんですね。えへへ……」
ライムが顔をほころばせる。
その表情は今日見た中で一番うれしそうな笑顔だった。