名指しのクエスト
作った万能薬をセーラにわたし、報酬を受け取る。
万能薬はセーラが実際の依頼人に渡してくれるはずだ。
これでクエスト完了だ。
そこでふと気になったことをたずねた。
「このクエストの依頼人ってどんな人か知ってる?」
ニアの話によれば、僕の作った万能薬はかなり性能がいいらしく、市場に出回れば騒ぎになるはずといっていた。
本当にそうなると困ったことになる。
だから確認しておきたかったんだ。
依頼人について聞かれたセーラは少し困った顔をした。
「実は、私もよく知らないのよね」
「そうなの? セーラが知らないなんて珍しいね」
セーラはそういうところはちゃんと調べて、確かな依頼人のクエストしかもらってこない。
だから安心して受注できるんだけど。
「信用できる人なのは間違いないわ。依頼を受けるのも初めてじゃないし。ただ詳しい正体についてまではわからないのよね。王都に住むお金持ちの人らしい、としか聞いてないの」
「そうなんだ」
「でも、信用できる人だから、カインのいうような心配はないと思うわよ」
「セーラがそういうなら大丈夫だね。これでもセーラのことは信頼してるから」
「そりゃそうよ。カインに迷惑をかけるようなクエストなんか持ってこないわよ」
「いつもありがとう」
「本当よ。この私にもっと感謝してもいいと思うんだけどね」
「いつも感謝してるよ」
「そう思うなら私と……いえ、やっぱりなんでもないわ」
なにかを言いかけたけど、途中でやめて視線を逸らしてしまった。
なんでもはっきり言うセーラがこんな態度をとるのは珍しい。
僕一体どんなことお願いされるところだったんだろう。
「そういえばカインに依頼が来てるわよ」
「僕宛に?」
「西の草原に行くから、案内を頼みたいらしいの」
「やっぱりカインさんはいろんな人に頼られててすごいですね!」
ライムが自分のことのように喜ぶ。
だけど……。
「うーん、頼りにしてもらえるのはうれしいんだけど……」
たまに案内してほしいとか、護衛してほしいとかいう依頼がくることはある。
僕はいろんなところに素材を取りに行くから、そういうのに詳しいと勘違いする人がたまにいるんだよね。
確かに多少は知識があるけど、そもそも僕はレベル1だから、逆に護衛してもらいたいくらいなんだよね。
なのでこの手の依頼は基本的に断っている。
でもそれはセーラだってよく知っているはずだ。
それでも言ってきたってことは……。
「それは誰からの依頼なの?」
きっと依頼人が特別なんだろう。
セーラもにやりと笑みを浮かべた。
「さすが察しがいいわね。これはなんと、王都騎士団のアルフォード隊長直々の依頼よ」
「アルフォードさん?」
それは以前にドラゴンに襲われたときにお世話になった人だ。
そのときに助けてもらった恩もあるし、確かに断るわけにはいかないよね。
それにセーラとしても、騎士団長直々に依頼されたら無碍に断ることもできないだろうし。
「わかった。じゃあそのクエストを受けることにするよ。それにしても西の草原になんの用があるんだろう」
「なんでも虹の欠片を探しに行くそうよ」
虹の欠片といえば、虹の根本にできるといわれる幻の鉱石だ。
膨大な魔力を秘めるとも、神々の世界の扉を開くともいわれる。
確かにすごい逸話のあるものだけど、そもそもアルフォードさんには必要ないもののはずだと思うんだけど……。
「詳しい話は私も聞いてないわ。直接会ったときに話したいそうよ」
アルフォードさんのことだからなにか考えがあるんだろう。
詳しい話は後で聞かせてくれるみたいだし、そのときに聞けばいいよね。




