古き盟約に従いて
しばらくして山の主は眠り薬から目を覚ましたけど、まだ立ち上がれないみたいだった。
どこかケガでもしているのかと思って調べてみたけど見当たらない。
我を忘れていたから動けていただけで、実際は毒ガスが全身に回って痺れていたみたいだね。
思ったよりも重傷だったみたいなので、ライムに使った解毒剤じゃなくて、一角獣の万能薬を飲ませてあげた。
ニアによれば死者蘇生すらできるらしい一角獣の薬だ。
きっと毒ガスの効果も除去してくれるはず。
しばらくして猪がゆっくりと体を起こした。
だけどもう襲ってくる気配はなかった。
僕の方を向いて鼻を鳴らしている。
ライムが少し顔をしかめた。
「こいつがカインさんに伝えたいことがあるそうです」
「こいつって……。なんでそんなに敵対的なの」
「あの人間どものせいで我を忘れていたとはいえ、カインさんを傷つけようとしましたから。本来ならこの場で鍋になるか焼肉になるかを決めるべきです」
「もう済んだことだし、許してあげてよ」
「わかりました」
ライムが大猪に手を触れる。
すると、僕の頭に低くて重い声が響いてきた。
『汝に助けられたようだな』
どうやらこれが山の主の声みたいだ。
そういえばライムはテレパシーが使えるみたいなことを言っていたし、それがこれなのかもしれないね。
「気にしなくていいよ。急にやってきた僕たちも悪かったし」
『山は自由だ。汝に罪はない』
どうやら山の主はとても寛大みたいだ。
勝手に踏み入って荒らしたことを咎めたりはしないらしい。
「そういってもらえると助かるよ」
『我が命を救いし者よ。古き盟約に従い汝に忠誠を誓おう』
「忠誠って?」
『汝の僕となり、汝の手足となろう』
「そういうつもりはなかったんだけど……」
『汝にその気はなくとも、それが人との古き盟約故に』
古き盟約というのがなんなのかは分からないけど、きっと山の主として大事なものなんだろう。
僕が断ったところで、主のほうが引き下がらない気がする。
うーん。困ったな。
本当にそういうつもりはなかったんだけど。
こんなに大きい猪を連れて帰るわけにもいかないし。
「それじゃあこうしよう。君はこのままこの森を守っててくれないかな。僕としてもこの山は大事にしたいし」
『承知。この身に誓って、この山にいる限り汝に危害がないことを約束しよう』
よかった。どうやら納得してくれたみたいだ。
この山全域を守るくらいの主が守ってくれるなら、とても心強いしね。