表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/362

もう大丈夫だよ

 巨大猪がニアへと突進してきた。


「俺らの代わりにそいつを倒してくれよ、一流冒険者様ならもちろん勝てるだろ!」


 猪のターゲットをニアに擦り付けたハンターたちが、笑い声をあげながら逃げていく。

 許される行為じゃなかったけど、それをとがめる余裕はなかった。


 小柄なニアに向けて、3倍以上もある巨大な猪が迫っていた。

 いきなり攻撃されたせいで、よけられるタイミングでもない。

 かといって、ニアが持つ小さな短剣ひとつで受けきれるような体格差じゃなかった。

 それでもニアは一歩も引かなかった。

 腰の短剣を震える手で構える。


 その態度を前にして猪も直前で足を止めた。

 今は怒りで我を忘れているけど、本来山の主は、人間にも滅多に姿を見せることのない警戒心が強い生き物だ。

 一歩も引かないニアを敵とみなして、警戒しているんだろう。


 鼻息を荒くし、後ろ足で激しく地面を蹴りたてる。

 威嚇するように巨大な咆哮を轟かせた。


 山の木々が震えるほどの爆音。もしかしたら主の怒りに呼応してるのかもしれない。

 開いた口からは拳大もある凶悪な牙がのぞいている。

 そのまま閉じるだけで小さな体は粉々に噛み砕かれるだろう。

 ニアの足が恐怖に震え、両の目に光がにじむ。

 それでも泣き言ひとつ言わずに目の前の大猪をにらみつけた。


「く、来るなら来なさいよこのやろう!」


 小さな短剣を両手で握りしめ、精一杯の強がりを叫ぶ。

 呼応するように巨大猪も再度吠えた。

 前足を踏み出し、大きな口をさらに広げ、小さなニアを噛み砕く。

 その、直前に。


「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」


 僕はニアと猪のあいだに立ちはだかった。

 うしろから驚きの声が上がる。


「は、はあ!? アンタ何しに来たのよ!」


「なにって、決まってるじゃないか。ニアを助けに来たんだよ」


「助けにって……レベル1のアンタじゃ勝てるわけないでしょ!」


「確かに僕じゃ勝ち目はないと思うけど……。でも、困ってる人が目の前にいるのに、放って逃げるなんてできるわけないよ」


 ニアが僕を見る顔を赤くさせた。


「ば、バッカじゃないの! なにカッコつけてるのよ! それで二人ともやられちゃったら意味ないじゃない……っ。なのに、どうして……」


 気丈にこらえていたニアの瞳から涙があふれた。


「どうして、アタシなんかを助けてくれたのよ……」


「ニアならどんな相手でも必ず立ち向かうって思ったから。

 山の主は警戒心が強いからね。ニアが勇気を出して前に出れば、主も止まると思ったんだ。だからこうしてニアの前に出ることができた。ニアを助けられたのは、ニアががんばったからだよ」


「そ、それだけのことで、こんな危険なことを……?

 ……いえ、それより、まだ全然助かってなんか……」


 ニアの言葉がそこで途切れた。

 僕が現れたときから、猪の動きが止まっていることに気が付いたみたいだ。

 やがて大猪の足元がふらつく。

 そのまま地響きを立てて横向きに倒れた。


 呆然とするニアを振り返り、手をさしのべた。


「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました
「横暴幼馴染が勇者の資格を剥奪されたので、奴隷にして再教育してあげることにしました」
https://ncode.syosetu.com/n7380gb/

アーススターノベル様より9/14に書籍版が発売されます!
よろしくお願いします!
i000000
クリックすると特集ページに飛びます
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ