白馬の王子様
爆発音は辺り一帯に響きわたっていた。
かなり大きな爆発だ。
ただ事じゃないのは間違いない。
「急ごう!」
音のした方に向けて僕たちは走った。
そのすぐ横を一角獣が併走する。
「もしかして、乗せてくれるの?」
一角獣が走りながらいなないた。
どうやら乗せてくれるみたいだ。
一角獣の背に飛び乗ると、となりを走るニアに向けて手を伸ばした。
「ニアも、ほら!」
「え、でも……」
「いいから早く!」
小さな手を取って後ろに引っ張り上げる。
後ろに乗ると、一角獣がスピードを上げて走り出した。
ものすごい早さだ。しっかりと掴まっていないと振り落とされてしまう。
たてがみをしっかりとつかむと、ニアが僕の体に腕を回してぎゅっと力強くしがみついてきた。
背中越しに小さくなにかをつぶやく。
「ユニコーン……白馬の王子様……」
「なにかいった?」
「……ッ! な、なんでもないわよ!」
高速で駆けているせいで、耳元で風がなっている。
そのせいでよく聞き取れないんだよね。
なにをいったのか聞き取れなかったけど、とにかく落ちないようにしっかりしがみついてくれているのでその点は安心だね。
僕とニアが一角獣の背に乗ってるあいだ、ライムは僕たちの先を一人で走っていた。
どうやら一角獣に乗るよりも早く走れるみたいだ。
するとライムが急に振り返った。
「……むうー!」
僕と一角獣を見比べて不満げな表情になる。
なんだろう、僕が一角獣の背に乗ってるのが気に入らないのかな。
自分も乗りたかったとか?
「ライムも乗る?」
「そんな泥棒猫の背中になんか乗りません!」
断られてしまった。
一角獣は馬だけど……。
それにしても泥棒猫なんて言葉どこで覚えてきたんだろう。
たまにライムはヘンな言葉を覚えてくるんだよね。
ちなみに僕がライムに手を伸ばしたとき、一角獣も激しく身震いして拒否の反応を示していた。
僕とニアはいいのに、ライムだけはダメみたい。
前にライムから聞いた話だと、一角獣たちとは情報交換するくらいに仲が良さそうだったんだけど、この二人はすっかり嫌いあってるみたいだ。
しばらく走るうちに、誰かの怒鳴り声のようなものが聞こえはじめた。
どうやらハンターたちの場所に近づいてるみたいだ。
この山一帯は、山の主の魔力によって迷いの力が働いている。
見渡す限り一面の山々すべてに影響を与える強大な魔力だ。
まっすぐ歩いていても、気がつくと真後ろに逆戻りしてることもあるくらいなんだ。
僕たち人間が捕らわれたら抜け出すのは簡単じゃない。
だけどさすがに一角獣だと迷うこともなくたどり着けるみたいだった。
やがて空に爆発後の黒煙も見えてくる。
到着してみると、そこには休憩小屋で出会った六人組のハンターたちがいて、大量のモンスターに囲まれていた。
「こんなに大量のモンスター、いったいどこから!?」
ニアが驚く。
確かにこのあたりは静かな森で、モンスターが生息していてもこんなに大量に襲われるようなことにはならない。
だけどハンターたちを囲むモンスターは、まるで我を忘れたように興奮していた。
到着した僕たちを見てハンターたちが驚く。
「ユニコーンに乗馬してきただと!? なにをしたらそんなことが……」
急いでいたせいで忘れてたけど、確かに驚くのも無理はない登場の仕方だったかも。
僕だって、もしライムが一角獣に乗ってやってきたらすごい驚くと思うし。
でも今はそんな状況じゃない。
「いったいなにがあったんですか!?」
地面に降りてたずねると同時に、一角獣が激しくいなないて元来た道を引き返していった。
同時にライムが地面にひざを突く。
「カイン、さん……っ」
「ライム!? どうしたの!?」
慌てて駆け寄る。
息が荒くなり、体も熱を帯びていた。
さっきまで元気に走っていたのに、急にこんなになるなんて絶対におかしい。
そのとき僕は、周囲に漂うかすかな匂いに気が付いた。
思わずハンターたちを振り返る。
さっきの爆発音と、我を忘れたモンスターに囲まれる彼ら。
僕は瞬時に状況を理解した。
「まさか、毒ガスを使ったの!?」




