神の霊薬の作り方
「こんなのはもう万能薬じゃないわ……。使い方によっては死者蘇生すらできる幻の霊薬よ」
驚くニアに、ライムが喜びを爆発させる。
「わたしの傷も治してくれましたし、やっぱりカインさんはすごいんですね!」
ライムは無邪気に喜んでいるけど、僕にはニアのういうことが信じられなかった。
僕なんかにそんな凄い薬が作れるなんて思えない。
それに死者蘇生だなんていったら、人生のすべての信仰に捧げた高位の司祭のみが使えるという伝説のスキル。
そもそも生死を操ること自体ほとんど神様の領域だ。
そんな簡単にできるわけないよ。
ニアがはっとしたように表情を変える。
「神の領域……。そうか、それだわ! そもそもユニコーンは神話の時代から生きるといわれてるモンスター。その角から作られる薬が神話級の効果を持っていても不思議じゃない。しかもウンディーネの加護を得た水も使用したから、保有されている魔力量が桁違いなんだわ。
もしも神話の時代に神々が薬を作ったとしたのなら、きっと同じ材料を使い、同じ手順になったはず。
これが神々が使用したとされる霊薬エリクサーの本当の姿だったのね」
エリクサーといえば神々の秘薬といわれる伝説のアイテム。
人によってはそんなものは存在しないという人もいるくらいなんだ。
その存在自体が、神々と同じレベルのレア度を持ってる。
「そんなすごいものを作れるわけがないよ」
「……確かに実際のエリクサーを見たことがあるわけじゃないから何とも言えないけど。でも、こんなものが出回ったら必ず騒ぎになるはずよ。作るのは初めてじゃないんでしょう? 以前に作った分はどうしたのよ」
「前回作った分はライムに使って、その前は腰痛に効く薬が欲しいというからその人にあげたよ」
「は? 腰痛?」
ニアが目を丸くする。
「セーラからクエストを受けたから実際に依頼人に会ったわけじゃないけど、いつも腰痛に悩んでる人がいるから何かいい薬がないかって言われて、一角獣の万能薬を納品したんだ」
「……それで、その人は今どうしてるの?」
「セーラからの話だと、腰の痛みも取れてとても喜んでるっていってたよ」
「幻の霊薬を……腰痛のために……」
ニアが驚きを通り越して絶句していた。
だけど復活すると、なにかを振り払うように軽く首を振った。
「いえ、そのほうがいいんでしょうね。一般に知られたら大変なことになるもの」
「ニアも万能薬がいるんでしょ。一緒に作ろうか?」
ニアは静かに首を振った。
「いえ、アタシはいらないわ。
……こんなすごいものを王都にもっていったら、間違いなく大騒ぎになる。そうなれば、またユニコーンの乱獲が始まってしまう。そんなのは許せないもの」
そういって削った角を荷物の中にしまった。
「これは持ち帰って、井戸の水でも使ってから作るわ。そうすればちょっと性能のいい万能薬くらいになると思うから」
「ありがとうニア」
「なんでアンタがお礼を言うのよ」
「一角獣たちの代わりにと思って」
一角獣も優しくいなないた。
その意味は分からないけど、きっと僕たちの想像通りのはずだよね。
僕たちのあいだにあたたかな空気が流れる。
そんな雰囲気を、けたたましい爆発音が切り裂いた。




