優美な獣
「は? ユニコーンを見つけた? もう? っていうか、なんでわかるのよ?」
ニアが混乱したように矢継ぎ早に質問を重ねる。
ライムが笑顔で答えた。
「カインさんがわたしを助けるときに薬を使ってくれたおかげで、そのときの匂いがわかるんです」
「ユニコーンの匂い……?」
ニアが周囲の匂いをかいでみるけど、当然なにもわからなかったらしい。
「全然わからないんだけど」
「人間はあんまり鼻がよくないので、わたしもこの姿だとあんまりわからないかも。でも近くにいるのは本当だよ」
「本当なんでしょうね?」
疑うニアに、ライムが笑みを浮かべてみせる。
「本当だよ。こっちこっち!」
ライムに先導されて森の中へと分け入っていく。
それから五分としないうちに美しい姿が見えてきた。
ニアの息を飲む声が聞こえてくる。
「うそでしょ……。本当にいるなんて……」
真っ白で優美な体躯と、一流の彫刻のように完成された螺旋状の角。
一度目にすれば決して忘れることのできない美しいモンスター。
一角獣が僕たちの目の前にいた。
本来は人を避けて移動するから、僕たちがいるあいだは泉には来ないと思ってたんだけど、けっこう近くにまで来ていたみたいだ。
「……と、とにかく、バレないように近づくわよ」
気を取り直したニアが草むらに隠れる。
けど、一角獣は小さくいななくと、駆け足で僕たちの方に近づいてきた。
「やばっ!? もしかしてバレてる!?」
ニアが草むらから出て臨戦態勢を取る。
一角獣は大人しいモンスターだけど、戦闘となればS級モンスターにふさわしい強さを発揮する。
ニアの警戒はそれを想定したものだと思う。
だけど。
「ああ、この前の子だったんだね」
僕は駆け寄ってくる一角獣へと近づいた。
「ちょっとアンタ!?」
ニアの声が悲鳴のように響く。
けど心配する必要はない。
僕が近づくと一角獣も足を止めた。
手を伸ばすと一角獣も頭を下げて、角で僕の手に軽くふれてくる。
彼らなりの挨拶みたいだ。
「心配しなくても大丈夫だよ。この子は以前に僕があった一角獣と同じ子みたいだから。僕のことを覚えてたみたいだね」
ニアを振り返ると、驚愕の表情で僕を見ていた。
「ウソでしょ……? 一角獣が人に懐くなんて、そんなの聞いたことないわ……。人には絶対に気を許さないって……」
ニアがものすごく驚いている。
でも僕にとってはそんなに驚くようなことじゃなかった。
「一角獣が人間になつかないなんてことないよ。昔から一角獣が勇者を癒す伝説は残っているし、純潔の乙女には気を許すなんてことも言われてる。本当に人間すべてを敵と思っているのなら、そんな伝説ができるわけないんだ。きっとその伝説ができたころには、一角獣と人間は仲が良かったと思うんだよね。
それにこの子たちだって一人で生きてるわけじゃない。家族だっているし、きっと友達だっている。僕たちは仲間だって伝えれば、ちゃんと仲良くなれるよ」
そんな僕の言葉を、ニアは呆然と聞いていた。
一角獣が嬉しそうに鼻先をこすりつけてくる。
「ははは。くすぐったいよ」
そういえば一角獣は話ができるってライムがいってたっけ。
ひょっとしたら僕の言葉もわかるのかな。
「久しぶりだね。会えてうれしいよ」
試しに話しかけると、一角獣がいなないた。
さすがにその意味は分からなかったけど、なんとなくうれしそうなのは伝わってくる。
「……むむむー!」
ライムが急に不機嫌そうな顔つきになった。
「カインさんの浮気者ー!!」
「ええっ!?」
なんで僕怒られたんだろう。