たくさん頼りにするといいわよ
「あーっ、いっぱい遊んですっごい楽しかったです! ね、カインさん!」
遊び尽くしてすっきり爽快のライム。
夏の太陽みたいに笑顔を輝かせていたけど、僕とニアは気まずく顔を逸らしていた。
ニアの裸を見てしまっただけじゃなく、そのまま押し倒す形になってしまったんだから。
「……あの、ごめん。怒ってるよね」
幼い瞳が僕をギロリとにらみつけた。
うん、これはどう見ても怒ってるね。
ニアは小さくため息をついた。
「……怒ってないわよ。アンタのせいじゃないし。悪いのは……」
鋭い瞳がライムへと向けられる。
当の本人はきょとんとしてその視線を受け止めていた。
たぶんニアが怒ってる理由がわからないんだろう。
ライムは今こそ女の子の姿をしてるけど、その正体はレアモンスターのゴールデンスライムだ。
あらゆるものに姿を変えられる力を使って、今は人間の姿になっている。
だから普通の人とは感覚が少し違うんだ。
それだけじゃなくて、服とかも全部ライムが姿を変えて作っているものだ。
「服を着た女の子の姿」に変身してるって感じかな。
だから見た目は服を着ているけど、ライムからしてみれば常に裸でいるのと変わらないみたいなんだよね。
そのせいもあってか、裸を見たり見られたりすることに対して、恥ずかしいと思ったりしないみたいなんだ。
そのためか、ニアににらまれても全然気にしないどころか、むしろ見つめられたのがうれしかったのかニコリと笑顔まで返していた。
さすがのニアもこれには毒気が抜かれたみたいだ。
「なんなのよアンタはもう……。まあ終わったことはもういいわ」
結局ニアの方から視線を逸らした。
ライムの笑顔を見てるとなぜだか怒る気も失せちゃうんだよね。
わかるわかる。
「アンタもなにニヤニヤしてるのよ」
「あっ、ごめん。そういうつもりじゃなくて」
「ふん、まあいいわ。なんにせよ泉のおかげで全身の汚れは清められたからね。さっさとユニコーンを探しに行きましょ」
「ニアは姿を消せるスキルがあるんだよね?」
「そうよ。そのおかげで、前回はたった一ヶ月で見つけられたんだから。アタシと一緒に探せるなんて光栄に思いなさい」
「そうなんだ。僕は三日だったけど、きっと運が良かったんだね」
僕がいうとニアが驚いた。
「三日ですって!? 半年探したって見つからない人もいるのに……。アンタそれ、相当運がいいわよ」
「確かにそうかも。一角獣のいそうなところをいくつか見当を付けてたんだけど、一回目で出会えたからね」
「ユニコーンの生息域を特定できるだけでも十分すごいんだけど……」
「モンスターの生態を調べるのは僕の趣味でもあるから。
どんなモンスターでもご飯を食べるし、寝る場所だって必要だ。その二つは近い方がいいだろうし、天敵を見つけやすい場所や、逃げるのに都合がいい場所だってある。そういうのを色々考えてたら、何となくこの辺かなってところがいくつか見つかったんだ。
この泉だってそうやって探した場所のひとつだし」
「……ユニコーンの生態については未だ研究中で、専門家でも生息域については意見が割れてるのに……。アンタ、やっぱりすごいんじゃないの?」
「あはは。ほめてくれるのはうれしいけど、僕なんて全然大したことないよ。いつも周りの人に助けてもらってばかりだし。前回も一回で見つかったのは運が良かっただけだと思うよ」
「まあ今回もこのアタシと出会えたんだし、相当運がいいのは間違いないわね。アンタの運にアタシの実力が加われば、三日以内見つけるのも不可能じゃないわ。アンタの記録はアタシが塗り替えてあげるからね!」
「そうだね。頼りにしてるよ」
「アタシは期待されるほど伸びるタイプだから。たくさん頼りにするといいわ!」
そういってもらえるのはとても助かる。
僕自身にはほとんどなんの力もないからね。
一人じゃなにもできない。こうやって頼りになる仲間がいることはとても心強いことだ。
ニアが得意顔で胸を張っているあいだ、ライムは木々の向こうをじいっと見つめていた。
「どうしたのライム」
いつも元気なライムがこうしてじっとしてるのは珍しい。
気になって声をかけると、ライムが僕を振り返った。
「たしか一角獣って、カインさんが私を助けるときに使ってくれた薬に使っていたんですよね?」
「うん、そうだよ」
答えると、にこっと笑顔が返ってきた。
「じゃあ見つけました」
いきなりそんなことを言い出した。




