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君の名前は

「……って、なんでまた裸なの!」


 姿を自由に変えられることに驚いて気がつかなかったけど、女の子はまたもと通りの裸のままになっていた。

 女の子はきょとんとしてから、思い出したように自分の体を見下ろす。


「え? あっ、そうでした。どうもわたしにはその、服を着る? ですか? そういう習慣ないので……。ええっと、これでいいですか?」


 女の子の素肌が水面のように揺らめくと、柔らかな肌をおおうようにして服が現れた。


「ここに来る時に見た人間のを参考にしたんですけど、あってますか?」


「う、うん。それなら大丈夫だよ。よく似合ってる」


「ありがとうございます。人間のことはよくわからないですけど、ほめられるのはうれしいです」


 にっこりと笑顔になる。

 町でよく見かける服だからなにも変わったところはないんだけど、この子が着るだけでなんだか輝いて見える。

 というか、よくみたら金色の髪が本当にうっすらと輝いていた。

 風もない室内でもかすかに揺らめいている。

 もしかしたらこれはうごめいている、って表現のほうが近いのかもしれないけど。


「……それにしても、本当にゴールデンスライムなんだね……」


 目の前で変化したから疑ってるわけじゃないんだけど、それでもやっぱり信じられない。


「言葉もやっぱり、擬態の能力で話せるようになったの?」


「そうみたいですね。今まで人間の言葉はわからなかったのですが、人間になったら話せるようになりました」


 なるほど。そういうものなんだ。

 姿だけじゃなくて、知識もある程度得られるからこその完璧な擬態なのかもしれないね。

 といっても服を知らなかったりするみたいだし、生活習慣までは完璧じゃないみたいだけど。

 女の子がうっとりとした表情で僕を見つめる。


「実はこれまで人間に擬態する事はできなかったんです……。でも、あなたに助けていただいて、あなたの元に行きたいと願ったら、こうして姿を変えることができました。きっと神様のお導きです!」


 そういわれると確かに運命のような気もしてくるけど……。

 そこでふと気がついた。


「そういえば君の名前は?」


「あ、ごめんなさい。ドャュッチュルムプッュチァです」


 なんだろう。

 今なんだかすごい音が聞こえた気がする。


「……。うん。もう一度言ってもらっていいかな」


「ドャュッチュルムプッュチァです。……人間の口だと少し発音が難しいですね」


 人間の姿になった女の子が口をもごもごと動かしている。

 確かに、名前というよりは、水の泡が弾ける音みたいだったけど。

 スライムだと言いやすい名前なのかな。


「あの、よければ新しい名前をつけてほしいです。わたしのはあまり人間ぽくないと思うので」


「え? 名前を僕が付けるの?」


「はい! ぜひアナタにつけていただきたいんです!」


「といわれてもなあ……」


 親でもないのに僕なんかがつけていいのだろうか。

 とはいえ名前がないのも確かに困る。

 さっきのは僕にはとても発音できないだろうし。


「それじゃあ……。ライムとかでどうかな。スライムだからライムで」


 安直すぎるかな。と思ったけど、女の子はとても気に入ったようだった。


「ライム……。はい、とてもいいです! 大事にしますね!」


「そんなに大したものじゃないけどね。喜んでもらえてよかったよ」


「それで、あの、アナタのお名前はなんでしょうか?」


「え? ああ、そうか。そういえば自己紹介してなかったね」


 ライムのほうから押し掛けてきたし、てっきり教えたつもりになってた。


「僕はカインだよ。よろしくね」


「カイン様……。はい、よろしくお願いします!」


 まるで大事なものをそっと胸にしまうように僕の名前をつぶやくと、満面の笑みを浮かべた。


「あはは、カインでいいよ。様なんて付けられるほど偉くもないし」


「そんな! カイン様は命の恩人ですし、それに、わたしの運命の相手なんです!」


「そんな大層なものじゃないんだけど……。せめてカインさんにしてくれないかな」


「そうですか……。わかりました……」


 しゅんとうなだれてしまう。そこまで僕のことを様付けで呼びたかったのかな。

 なんだか悪いことをした気になってくるけど、様付けで呼ばれるのもなんだか落ち着かないし……。

 しかたないよね。

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