みんなで水浴び
ウンディーネの許可をもらったので、さっそく泉の水を使わせてもらうことにした。
「一角獣は汚れを嫌うからね。ここの水で体をきれいにするんだよ」
「水で体をきれいにする……」
ついさっきまで不機嫌だったライムの顔が、急にぱあっと明るくなった。
「それって水浴びですか!? わたしも昔はよくやっていました!」
そういうが早いか、着替えることもなくそのまま泉の中に飛び込んでいった。
盛大な水しぶきが上がり、水面から顔だけを突き出す。
「冷たくて気持ちいいですー。カインさんも一緒に入りましょう!」
「なんで服のまま入ってるの!?」
「えっ? ……あ、そうでした。そういえば人間は服を着てるんでしたね」
ライムが水の中に潜ってもぞもぞと動く。
なにかを終えると、泉を出て勢いよく僕の前へと飛び出してきた。
服をいっさい着ていない状態で。
「はい! これなら大丈夫ですね!」
「なんで裸になってるのよ!?」
今度の叫び声はニアだ。
ライムの正体はスライムで、体を人間に擬態させている。服もその変身能力で作ったものだ。
だから服を消した状態に変化しただけで、服を脱いだわけじゃないんだよね。
でも僕たちから見たら、いきなり服が消えてしまったように見える。
早着替えってレベルじゃないんだけど、ニアにはそれを気にする余裕はなかったみたいだ。
そりゃまあ、いきなり裸になって僕の前に出てくればね……。
ちなみに僕はというと、ライムの裸を見ないように首を背けていた。
「裸じゃなくて、せめて水着に着替えるとかできないかな……」
「みずぎ、ってなんですか?」
ライムが聞き返してきた。
自分で言っておいてなんだけど水着の説明を口でするのは難しい。
濡れてもいい服なんだよ、といったところでたぶん正しくは伝わらないと思うし。
それに裸になって全身を清めたほうが効果が高いのはいうまでもないからね。
それにしても、いつも自分の感情に素直なライムだけど、この山に来てからはいつも以上に開放的というか、元気だよね。
やっぱりこういうところにくると野生の血が騒いだりとかするものなのかな。
ニアに目を向けてみると、裸のライムに怒りながらも、チラチラと泉のほうを気にしていた。
どうやら自分も水浴びをしたいみたいだ。
女の子はみんなお風呂とかが好きだからね。
男の僕なんかは濡れた布で体をふくだけで十分なんだけど。
でもニアだって水着なんて持ってきてないはず。
「わかったよ。僕は反対を向いてるから、そのあいだに水浴びを済ませておいて」
「えー、カインさんは一緒にしないんですか?」
残念そうな声に少しだけ胸が痛むけど、さすがにそういうわけにはいかない。
「僕は向こうにいるから。かわりにニアと一緒に水浴びしててよ」
「えっ!? い、いや、アタシは別に……」
「でも全身を清めたほうがいいのは確かだし。持ってきた聖水じゃそこまでの量はないでしょ」
「う……。それはまあ、確かにそうだけど……」
「ニアちゃんも一緒に水浴びするの? わーい! あそぼあそぼー!」
「わっ、こらちょっと! これは遊びじゃな……勝手に脱がさないでっ!」