それってかなりのレアスキルなんじゃ?
「ほらライム、昨日の残りだけどこれ食べて」
余っていたおにぎりを渡す。
よほど保存食の味が強烈だったのか、おにぎりを受け取ると丸ごと口の中に放り込んでしまった。
しかめっ面だった顔が徐々にほぐれていく。
「ふわあ……。やっぱりカインさんの料理は美味しいです。口の中もサッパリしましたし。これの中身はなんですか? 初めて食べた味でしたけど」
「梅干しっていうちょっと変わった食べ物だよ。本来はもっと酸っぱいんだけど、これはライム用にハチミツでちょっと甘くしてあるんだ」
「わたしのために……。えへへ……」
ライムが妙にうれしそうに笑みをこぼす。
梅干しがそんなに美味しかったのかな?
その様子をニアが少し驚いた表情で見ていた。
「炊いたお米なんて、そんな痛みやすいものどうして持ってるの?」
「梅干しは梅っていう果実を塩漬けにしたものだから、保存がききやすいんだよ」
ライムがたくさん食べると思って用意したんだけど、一日で着いちゃったからね。けっこう余っちゃったんだ。
ちなみに梅干は食べると種が残るはずなんだけど、ライムは一口で食べちゃったから一緒に飲み込んじゃったみたいだ。
今度、正しい食べ方をちゃんと教えないとね。
ライムがおにぎりをほおばるあいだに、朝食の準備を進めることにした。
テーブルの上に火の魔石を置いて、その上に金網をかぶせると、簡易的なたき火ができあがった。
これならどこでも出来るし、簡単な調理なら十分なんだよね。
十分に温まってきたところで、金網の上におにぎりを置く。
熱くなった金網がおにぎりを焼き、じゅーっといういい感じに香ばしい音と匂いを立てはじめた。
ライムの表情がみるみるうちにとろけていく。
「ふわあ~、美味しそうな匂いと音です~」
行商人の屋台でやっていた手法を真似てみたんだけど、うまくいってるみたいだね。
「はいできたよ」
いい感じにできた焼おにぎりをライムに渡す。
さっそく一口で食べると、急に表情が変わった。
「熱っ、熱いれすっ」
「ははは、焼きたてだからね」
「でも焦げた部分がすっごい美味しいですぅ~」
本当にうれしそうなライム。
ニアもちらちらとこっちを気にしていた。
焼おにぎりの焦げる匂いと、ライムの表情に引かれてるみたいだった。
「よかったらニアも食べる?」
「あ、いや、アタシは……」
「余ってるから処分するのを手伝ってほしいんだけど。さっきライムに保存食をくれたお礼もあるし」
「……。そういうことなら、もらっておくわ。ありがとう」
意外と素直に受け取ってくれた。
保存食は本当に美味しくないからね。
ニアもできれば食べたくなかったのかも。
ニアは焼おにぎりを受け取ると、それを少しだけ眺めてから、三角形に握られた部分の上端を口に含んだ。
ライムのおかげで感覚がマヒしていたけど、普通はこういう食べ方だよね。
「……そんなにじっと見られるとなんか食べにくいんだけど」
「ああ、ごめんね。口に合うか気になってさ」
「美味しいわよ。とても。ただのおにぎりなのにどうしてこんなに美味しいのか不思議なくらいだわ」
「そうだよね!! カインさんの料理は世界一美味しいんだよ!」
ライムがまるで自分が褒められたかのようによろこんでいる。
「実はこのあいだ行商人の屋台に行ったんだけど、そこでヒントをもらってね。そのときのを参考にしてアレンジしたんだ。うまくいってよかったよ」
「……ちょっと待って。アンタたちケープサイドから来たのよね?」
「そうだけど」
「あの街からここまでは、早くても三日はかかるわ。でも行商人の到着予定は一昨日のはず。行商人の屋台を見てからここに来たのなら、どんなに早くても到着は明日になるはず……」
「三日もかかってないよ」
答えたのはライムだ。
「街からここまで、大体半日くらいだったかな?」
「はあ? 半日? いくらなんでもそんなの不可能よ。寝ないで森の中を歩いてきたとしても……」
「でも、空を飛んできたから、すぐだったよ」
これにはさすがのニアも目を丸くしていた。
「空を飛ぶ……? 飛行のスキルが使えるの? かなりのレアスキルじゃないそれ」
確かに飛行スキルを持ってる人は僕も見たことがない。
世界でも数えるほどしかいないんじゃないかな。
「カインさんを抱っこしながら飛んできたんだ。ニアちゃんも一緒に飛ぶ?」
「そんな飛び方なら絶対いやよ」
「でも空を飛ぶのは結構気持ちよかったよ。一回くらいは経験してみてもいいかも」
僕がいうと、ニアが迷うような表情を見せた。
「確かにこんなチャンス滅多にないし、一回くらいは飛んでみるのも……。でも、ぬぬぬ……」
ニアが葛藤している。
ライムに子ども扱いされるのがよっぽど嫌みたいだね。