なんかすっごい味がするぅ……
次の日は朝早くに起きた。
朝日もまだ半分顔を出したくらいのかなり早い時間だ。
となりではライムが静かに寝息をたてている。
といってもいつもみたいに同じ布団で寝てるわけじゃないよ。
休憩小屋の部屋を借りたけど、ベッドはそのまま寝られるようなものじゃないから、僕とライムはそれぞれ別の寝袋で寝ていたんだ。
おかげでライムが布団に潜り込むこともなく、となりで静かに眠っていた。
「カインさんおはようございます~」
ライムが目をこすりながら起きあがる。
まだ朝日が顔を見せたばかりだから、いつも家で起きるより二時間くらいは早い。
そのせいかだいぶ眠そうだった。
「もうちょっとゆっくりしててもいいよ」
「ん~……」
目をゴシゴシとこすり、半分閉じた瞳を僕に向ける。
「カインさんはどうしますか?」
「僕は一階に降りて朝食の用意をしてくるよ」
「じゃあ一緒にいきます~」
のろのろとした動きで寝袋から這い出てくる。
見てて危なっかしいので手伝ってあげることにした。
「大したことはしないから、眠いなら無理に来なくても大丈夫だけど」
「じゃあ一緒に寝ながら行きますぅ……ぐぅ……」
寝袋から出るとすぐに僕の背中に抱きつき、そのまま寝息を立てはじめた。
ほとんど子供だね。
昨日はニアが自分の娘みたいだとかいってたけど、これじゃあライムの方が娘みたいだ。
「あ、そういえば、カインさん……」
僕の背中でライムがなんでもないことのようにつぶやいた。
「今朝は交尾をしてくれなかったですね」
「ええっ!? 別にそんな、毎日してるわけじゃないし……」
そもそも交尾とかじゃないし……。
「朝はいつもカインさんが交尾をして起こしてくれるので、今日もちょっとだけ楽しみにしてたんですけど……」
ライムが僕の背中で小さく笑う。
「でも、カインさんの背中で眠るのも、きもちいーですぅ」
「そ、そう……」
ライムがそういうのならそれはいいんだけど。
いきなりヘンなことをいわれたせいで、背中に当たる感触が急に気になりだしてしまった。
うう……。せっかく気にしないようにしてたのにな……。
早いところ一階に行ってライムを下ろさないと。
気持ち早足で階段を降りる。
一階の共用スペースにはすでに先客がいた。
「おはよう。……アンタたち本当に仲がいいのね」
先に来ていたニアが挨拶してくれた。
背中のライムを半分呆れながら、半分うらやましそうに見ている。
ライムを下ろしてイスに座らせると、ようやく目の前の人物に気が付いたみたいだった。
「……あ、ニアちゃんおはよう~」
「ニアも朝ごはん?」
「そうよ。ユニコーンは朝早くから活動してるからね」
ニアはテーブルに置いた鍋に水を張り、保存食をふやかしていた。一緒に野菜や干し肉なんかも入れ、鍋の下に炎の魔石を置いて炊き込んでいた。
保存食は日持ちする代わりにものすごく不味いんだよね。だからこうやって簡単とはいえ料理をする人は多い。
興味を引かれたライムがのろのろと顔を上げた。
「それはなに~……?」
「保存食よ。見たことないの?」
「うん……、初めて見たぁ……。美味しいの?」
「……食べてみる?」
「……いいの? わーい、ニアちゃんありがとー!」
眠そうだった目が一瞬でぱっちりと見開く。
ニアから作りかけの朝食を受け取ると、さっそく食べはじめた。
満開の笑顔が一口ごとに曇り、やがてなにかをこらえるようにしかめっ面に変わった。
「うううー。なんかすっごい……なんかすっごい味がするぅ……」
吐き出しこそしなかったものの、ものすごく嫌そうな顔で飲み込んだ。ちょっと涙もにじんでいる。
ライムには表現できなかったみたいだけど、冒険者のあいだでは「油粘土を食べてるみたいな味」といわれているくらい不味いんだよね。
栄養だけは豊富だからみんな我慢して食べてるけど。
だから野菜とか干し肉とかと一緒に煮込んで味をごまかすんだ。
「ううー……。でもおかげで目は覚めてきたかも……」
ライムが舌を出してヒーヒーいいながらつぶやく。
ご飯がもらえる、と聞いた時点ですでにばっちり目は覚めてたように見えたけどなあ。




