カインさん大好き同盟
「ちょっと冒険者カードを見せなさ……見せてくれませんか」
「? いいけど……」
なぜだか急に丁寧な言葉遣いになってるけど。
取り出したカードを渡すと、ニアはまじまじとそれを調べはじめた。
「名前は本当にカインなのね……。それでレベルは……はあ!? レベル1!? しかもスキルがひとつもなし!?」
驚きの声が上がる。
まあそうだよね。
どんな人でもスキルが最低でもひとつはあるものなのに、僕はひとつもないんだから。
逆にレアなんじゃないかな。
自分でいってもむなしくなるだけなんだけど。
「さすがにレベル1のスキル0ならアタシの探してる人とはちがうわよね。ごめんなさい、人違いだったわ」
元の口調に戻って冒険者カードを返してくれる。
「誰か探してる人がいるの?」
「アタシ、前に一度死にそうになったことがあって……。そのとき助けてくれた人が、カインって名前らしいの」
「そうなんだ。じゃあ命の恩人を捜してたんだね」
「そうよ。でも、アタシはそのときのことを全然覚えてないの。名前もあとから聞いて初めて知ったくらいで……。だからその人のことを探し始めたんだけど、調べるうちに、実はものすごい人だってわかってきたの」
ニアが少し興奮した様子で早口に説明しはじめる。
「それまで素材は、モンスターを倒して奪うのが普通だったけど、その人がはじめてモンスターを倒さずに素材を取ってきたらしいの。
しかもその人はS級どころかSS級のクエストすら簡単にこなしてしまうほどの実力者。魔獣のはびこる遺跡や危険地帯にも単独で潜入し、かすり傷一つ負うことなくあっさりと帰還するそうよ。
しかもそれだけの功績を残しながら、自分はほとんど表舞台に出ることない。一説にはSS級とかSSS級ハンターに匹敵するといわれてるけど、本人はランクには興味がないからって断り続けてるらしいのよ。だからどこにも記録がないの。
あたしが素材ハンターになったものその人にあこがれたからなの。それに、アタシも有名になれば、いつかその人に出会うことがあるかもしれない。もちろんアタシなんてまだまだ追いつけないけど、いつかとなりに並んで一緒に冒険するのが夢なんだ」
まるで恋する乙女のようにうっとりと語る。
なるほど、確かにすごい人みたいだし、僕とは違うカインさんなんだろうな。
ライムがやけに笑顔を輝かせながら聞いていた。
「じゃあニアちゃんはわたしと同じですね」
「同じって、なにがよ」
まだ気を許していないらしくちょっと不機嫌なニアに、ライムは僕の腕に抱きついてみせた。
「わたしはカインさんが大好きなんです。
ニアちゃんもそのカインさんが大好きなんですよね?」
「す、好きって、そんな……!」
急に顔を真っ赤にして慌てだした。
「好きだとかそんな、恐れ多いわ! 自分はただ尊敬してるだけで……。それに顔も知らないし……。
ただ、きっと強くて、なんでも知ってて、カッコよくて、そして……とても優しい人なんだろうなあって思ってるだけで……」
赤い顔のままもじもじと語るニアに、ライムが何度もうなずいていた。
「ニアちゃんの気持ちとってもわかります。わたしもカインさんに会うまで、この好きっていう気持ちがわかりませんでしたから」
「気になってたんだけど……アナタたちは、その、やっぱり付き合ってるの……?」
「同じことをよく聞かれるんですけど、つきあうっていうのはまだよくわからないです。でも、わたしはカインさんが大好きです。それがとても嬉しいんです」
「そうなんだ……。恋ってそういうものなのね……。
でも、わかるかも……。アタシもいつかは、あの人と……」
ニアが赤い顔をうつむかせながらつぶやく。
そういう表情は年相応の幼い女の子らしいなあ。
ちなみに僕もニアに負けないくらい顔を赤くしていた。
本人が目の前にいるのにライムは全然遠慮しないから、恥ずかしくてしかたがないよ。




