アンタたち、いい加減にしなさいよ
六人組の完全武装したハンターたちを前にして、僕とライムは一瞬立ち止まってしまった。
ハンターたちの一人が僕に気が付く。
「お、はじめて見る顔だな。同業か。よろしく」
もう一人のハンターが無遠慮な目つきでじろじろと眺め、バカにするような笑みを浮かべた。
「ひょろい男と、か弱そうな女だな。ここは遊びで来る場所じゃねえぞ。観光ならよそにでも行くんだな」
完全に挑発されていたけど、僕が弱いのは本当のことだし、これくらいならよくあることだから、いまさら気にはならない。
「僕たちは一角獣の万能薬を取りに来たんですけど、あなたたちもですか?」
「おいおい、見てわからねえのか?」
六人のハンターたちは全身を装備で固めていた。
動きやすい皮鎧に、剣や弓などを装備している。腰に付けているのは投げ網かな。
きっと一角獣を捕らえるための物だよね。
そこまでは僕でもわかる。
でも、最初に話しかけてきたリーダーっぽい人だけは、他の人とは違う、鉄製の細長い筒状の武器を持っていた。
「それ、銃ですよね」
僕が指摘すると、リーダーの人の目つきが少しだけ変わった。
「ほう、銃を知ってるのか。さすがにこんなところまでお遊びできてるわけじゃないってことか」
「一度だけ見せてもらったことがあるので」
銃は最近遠い国で開発されたばかりの新しい武器だ。
クラインの店にもひとつだけあるけど、高くて僕にはとても手が出せなかった。
タイプは色々あるらしいけど、あの細長い筒の中で爆発を起こし、その力で弾をとばす非常に殺傷力の高い武器らしい。
筒を大きくして、弾のサイズも巨大にすれば、ドラゴンすら倒せるほどの威力になるといってた。
「まるで猛獣でも倒しに行くような装備に見えますけど……」
「一角獣はS級モンスターだ。これくらい当然だろ」
一般的な一角獣の角をとるやり方は二種類ある。
僕のように生きている一角獣から少しわけてもらう方法と、一角獣を倒して取る方法だ。
ハンターたちは明らかに一角獣を倒して取るつもりだった。
もちろんやり方は人それぞれだ。僕に文句をいう権利はない。
でも。
「一角獣はこのあたりにはたぶん1頭か2頭しかいません。それを傷つけるのは……」
「傷つけるってなんだよ。甘ちゃんだな。殺してはぎ取るに決まってるだろ」
僕があえてぼかして言ったことを、ハンターたちがわざわざ言い直した。
僕の後ろから服をつかんでいたライムが、ゆらりとした足取りで前に出た。
「わたしこの人間ども嫌いです」
「う、うん、気持ちは分かるけどちょっと待って」
前に出ようとするのを慌てて引き留める。
声は落ち着いていたけど、顔はほとんど無表情だった。
嬉しいことも悲しいことも全部顔に出るライムが無表情なのは、かえって怖い。
嫌な予感しかしなかった。
「止めないでください。わたしたちには戦わなければならないときがあるんです」
「うん、それはわかったから、まずはいったん落ち着こうよ」
僕がライムをなだめているあいだにも、ハンターたちの話は盛り上がっていた。
「モンスターなんて所詮は害獣だからな。いなくなったらまた新しいのを見つけるだけだ」
「せっかく装備を新調しても、人間相手に試し斬りはできないからな。でもモンスターならいくら殺しても問題ない」
「それどころか殺せば殺すほど金になるんだ。最高の仕事じゃねえか。お前らもそう思うだろ?」
ハンターたちの笑い声が響く。
「…………………………………………」
対するライムの顔からは、表情が完全に消えていた。
そばにいる僕の肌がライムの怒気に当てられて粟立つ。
これは本当にまずい。
僕が本格的に止めに入ろうとしたとき。
「アンタたち、いい加減にしなさいよ」
僕たちのあいだに話って入る声が響いた。




