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山小屋での出会い

 ライムに抱えられたまま空を飛んで、一時間ほどで目的の場所が見えてきた。

 山の中腹に開けた場所があり、そこに山小屋が一軒建っている。

 僕たちみたいにクエストなどでやってきた人が利用するための、誰でも使える小屋だ。

 本来は三日もかかる距離だったんだから、ずいぶん早く着いたことになる。


「ありがとうライム」


「いいえ! わたしこそありがとうございました!」


「? 僕はお礼を言われるようなことは何もしてないと思うけど……」


 ライムにここまで運んでもらっただけだ。

 本当に何もしていない。

 だけどライムはニコニコ笑顔のままだった。


「カインさんの顔を目の前で見られましたし、体温も全身でいっぱいに感じられてとても幸せな時間でした!」


 満面の笑みで堂々と恥ずかしいことを言ってくる。

 一時間ずっと抱き合ったまま飛んでいたから、確かにそうなのかもしれない。

 いつだって素直なライムにはきっと恥ずかしいことじゃないんだろうけど。


「と、とにかく中に入ろうか」


「はい! こんなところにも人間が住んでるですね」


「ここは誰かが住んでるんじゃなくて、共用の休憩小屋だよ」


「きょーよーのきゅーけいごや?」


 ライムが首を傾げる。

 確かにちょっと難しい言葉が多かったかもしれない。


「山の中でずっと野宿だと疲れちゃうからね。こうやって誰でも使える休むための場所を作ってあるんだよ」


「なるほど。あの宿屋っていうのと同じですね!」


「そうだね。無料の宿屋みたいなものだ」


 こういう休憩場所は世界中にいくつもある。

 ここもそのひとつで、僕たちみたいな旅の冒険者が誰でも利用できるようになってるんだ。


「こんな場所まで知ってるなんてさすがカインさんです」


「同業者なら誰だって知ってるんだけどね」


 さっそく扉を開けて中に入る。


 見た目のわりに中は意外と広い。

 一階が共用スペースのリビングになっていた。

 二階に上がると個室がいくつか配置されている。

 3、4グループくらいが同時に泊まることもできる作りになっているんだ。

 滅多に人が来るところじゃないけど、それでもたまにタイミングが重なることは意外によくあるからね。


「いつもはそんなに混まないんだけど、今日はたくさん来てるみたいだね」


「そうなんですか? ほかに人間の気配は感じないですけど」


「扉の前に札がかかってるでしょ? あれはすでに利用してますよっていうサインなんだ」


 部屋はちょうど最後の一部屋が残っていた。

 よかった。ここまで使われてたら、せっかく来たのに野宿しないといけないところだったよ。

 最後の一部屋をさっそく使わせてもらうことにする。


 中は女将さんの宿屋よりもさらに狭かった。

 部屋にあるのは簡単なベッドだけ。

 といってもシーツはないから、ベッドの形をした木製の置物といった方が近いかもね。


 とりあえず背負っていたバッグを床に置く。


「ライムのおかげで早く着いたから、荷物が余っちゃったな」


 荷物のほとんどは食料関係だったから、ほとんど手つかずで残ってる。

 帰りも同じように戻ると考えたら、ほとんど必要なくなっちゃうな。

 食料が余って困ることは何もないから別にいいんだけど。


 ちなみにそのあいだ、ライムは僕の荷物整理を黙って眺めていた。

 なにをするわけでもなく、僕の正面にしゃがんでニコニコしている。


「……。えっと、そんなに見られるとちょっと恥ずかしいんだけど……」


「……おじゃまでしたか?」


「邪魔ってことはないけど……」


「じゃあずっとこうしていたいです」


 そうしてまたニコニコと僕を見つめる作業に戻る。

 うう……。いったいなにがそんなに面白いんだろう。

 邪魔ってわけじゃないけど、なんだかやりにくいな……。


 そうやって荷物の整理をしていたら、急にライムが顔を上げた。

 真面目な顔つきで壁の一点を見つめている。


「どうしたの?」


「……イヤな気配が近づいてきます」


 ライムは警戒してるみたいだったけど、モンスターの気配は感じない。なんだろう。

 それから少しして一階が騒がしくなりはじめた。

 どうやら別のグループが戻ってきたみたいだ。

 同業者なら挨拶をしておかないと。


 ライムと一緒に階下へ降りる。

 開けた場所に集まる男たちの姿を見たとき、ライムが後ろからぎゅっと僕の服をつかんだ。

 僕も思わず立ち止まってしまう。


 粗野な言葉が飛び交い、金属のこすれ合う音が小屋の中にいくつも響いている。

 そこにいたのは六人組の完全武装したハンターたちだった。

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