落ちたら大変だから仕方ないんです♪
「それじゃあいきますね!」
ドラゴンの翼を生やしたライムが浮き上がる。
僕を正面から抱きしめると、翼を大きくはためかせた。
風が渦を巻き、足が浮き上がる。
一瞬のうちに僕たちは空高くに舞い上がっていた。
「うわっ、これはすごいね」
山を空から見下ろす経験なんて初めてだ。
見慣れたと思っていた景色でも、空から見るとまた違った雄大さを感じられる。
ライムが空中で翼を動かすと、目的の山へと向かいはじめた。
歩くよりはちょっと早いくらいのスピードだ。
だから落ちそうになる心配とかはない。
だけどライムは心配みたいだった。
「落ちないようにしっかりと掴まっててくださいね!」
「それは大丈夫だけど……。ちょっと抱きつきすぎじゃないかな?」
ライムの提案で、僕たちは正面から抱き合っていた。
普通こういうのって後ろから抱えてくれるものじゃないのかな……。
おかげで色々なんていうか、とても恥ずかしい。
しかも全身で抱きついてくるだけじゃなくて、なぜだか頬までくっつけてくる。
そこまでは密着しなくて大丈夫だと思うんだけど。
「落ちたら大変だからしかたないんです♪」
頬をくっつけたままニッコニコの笑みを浮かべる。
こんなに上機嫌なライムを見るのも久しぶりだ。
落ちたら大変なのは確かだから、それをいわれたら反論はできないんだけど……。
「前にドラゴンが飛んでいたときは、もっと速くなかったっけ」
「落ちたら大変だからしかたないんです♪」
本当かなあ……。
嘆息しそうになるけれど、ライムはまったく気にしていなかった。
「空のお散歩楽しいですね!」
「……うん。そうだね」
この体勢は確かにちょっと恥ずかしいけれど。
でも、空から眺める雄大な景色は、恥ずかしさも忘れてしまうくらいに感動的だ。
僕たちは落ちないようにしっかりと抱き合ったまま、ゆっくりと空の散歩を楽しんだ。