ライムはスライムのライムなので
半日ほど歩いて最初の山の頂上にやってきた。
今は倒れた木をベンチ代わりにして、ライムと並んでお昼ご飯を食べている。
「ん~、やっぱりカインさんのご飯はおいしいです~」
ご飯を口いっぱいにほうばりながら、満面の笑みで足をバタつかせている。
「ははは。喜んでもらえるのは嬉しいけど、それは言い過ぎだよ」
だって今食べているのは普通のおにぎりだからね。
中の具は焼いた魚とか、昨日もらったお肉の残りとか、色々とバリエーションだけはあるけれど。
でも特別美味しいものじゃないと思う。
おにぎりなんて誰が作ったって味はほとんど一緒だからね。
それでも。
「でもでも、美味しいんだからしょうがないです。きっとカインさんが作ってくれたからですね!」
ライムはそういってくれる。
そういわれたら誰だって悪い気はしないよね。
さっそく次のおにぎりを取り出した。
「これの中身は……」
「言わないでください! わたしが当ててみせます!」
ライムが手を伸ばして僕の言葉を遮る。
それからおにぎりを受け取ると、自分の顔に近づけた。
すんすんと鼻を鳴らす。
「このコクのある香りは……わかりました! 昆布です!」
「それじゃあ答え合わせだね。食べてみて」
「いただきまーす! ……もぐもぐ。あっ、やっぱり昆布でした!」
「正解! すごいな。よくわかったね」
「えへへ……。美味しそうな匂いがするからすぐにわかっちゃいました」
そんな感じで食べていたら、昼食用に持ってきた分はあっという間になくなってしまった。
ライムの食べる量にあわせて多めに作ったつもりだったんだけど。
生ものであるおにぎりは保存が利かないため、長いクエストに持っていくのには向かないんだけど、まあ最初くらいはね。
ライムも喜んでくれてるし、ちょっと無理したかいはあったと思う。
「はあ~、もう全部食べちゃいました。ごちそうさまでした!」
「はいごちそうさま。食べたばかりで移動するとおなかが痛くなるから、少し休憩していこうか」
「はーい!」
ライムが元気よく手を挙げた。
木に腰掛けながら、二人並んで山の景色を眺める。
後ろにはケープサイドの街並みがかろうじて見えるけど、前に目を戻せば森と山がどこまでも続いていた。
「目的の場所はあそこですか?」
ライムが目の前にある山を指さす。
僕は苦笑して首を振った。
「いや、その二つ奥にある山だよ。ここから歩いて三日くらいかな」
「けっこう歩くんですね」
「見た目以上に危ない場所だからね。どうしても時間がかかっちゃうんだ」
「カインさんといっぱいお散歩できるのは嬉しいですけど……。でも、あそこなんですよね?」
ライムが指を指しながら不思議そうにたずねる。
すぐそこに見えるのにどうしてそんなに時間がかかるのか、と聞きたいんだろう。
こうして頂上から見ればそんなに遠くないように感じるんだけど、遠近感がわかりにくくなってるだけで、実際に歩けばかなりの距離がある。
道が見えなくなる夜はもちろん歩くわけにはいかない。
人を襲う獰猛な動物やモンスターだってたくさん住んでいるしね。
それに、このあたりの木々は密集していて歩きにくい上に、山の主による魔法がこの辺り一帯にかかっているため、来る度に道が変わっているんだ。
この広大な山の道をすべて変えてしまうなんて、とんでもない量の魔力が必要なはずなんだけど、この山の主はそれができてしまう。
それぐらいすごい存在なんだ。
だからこそ一角獣も安心して住んでいるんだろうけど。
とにかくそういう理由だから地図は役に立たないし、とても迷いやすい。
「だから、やっぱりそれくらいはかかるんだよ」
「うーん」
ライムが腕を組んでうなりながら山の先を見つめる。
「もしあそこまですぐに行けるとしたら、カインさんは嬉しいですか?」
「そりゃあ早く着いて困ることはないけど……。そんなことできるの?」
「はい! それじゃあ見ててください!」
立ち上がったライムが、背中に力を込めるように前屈みになる。
「ん~……ていっ!」
かけ声と共に肩の後ろが盛り上がったかと思ったら、そこから大きな翼が現れた。
「うわっ! それはもしかして、ドラゴンの翼?」
「はい! このあいだ竜の鱗を取り込みましたので、ある程度は姿を真似ることができるようになったんです!」
そういえばライムたちゴールデンスライムは、体内に取り込んだ物の情報を元に擬態ができるといってたっけ。
てっきりドラゴンが食べてみたかっただけかと思ったんだけど、ちゃんとそういう理由があったんだね。
「ドラゴンの味を確かめられて、空も飛べるようになれて、とってもお得ですよね!」
「あ、やっぱり食べたかったんだね」
ライムはやっぱりライムだったね。