一角獣クエストの開始
「おやおや、ずいぶん遅くまで寝てたんだねえ」
女将さんにそんなことをいわれながら僕たちは宿を出た。
またなにか妙な勘違いをされてるんだろうなあ。
ライムはライムで、
「はい! カインさんと一緒にいっぱい寝ました!」
と、元気いっぱいに答えていたし。
そのこと自体は間違ってないから僕としても訂正できない。
誤解がどんどん広がっていくなあ……。
☆ ☆ ☆
クラインの店で必要なアイテムを買いそろえると、さっそく街の外へとやってきた。
荷物の増えたバッグをライムが不思議そうに見つめる。
「それはなんですか」
「今回のクエストに必要なアイテムだよ」
今回のクエストの目的は一角獣の万能薬を手に入れることだ。
一角獣の住処は山を三つくらい超えた先にあるため、往復で十日くらいの旅になる。
一角獣が出現する地域は非常に限られていて、しかも人間嫌いだから、遠く離れた位置からでも人間の気配を感じると近づくだけで逃げだしてしまうんだ。
処女の乙女にだけ心を開くなんて伝説もあるけど、全然そんなことはなくて、相手が誰であれ人間であれば総じて逃げ出してしまう。
だから出会うことがとても難しいんだ。人によっては一ヶ月も会えないなんてことも普通にある。
そのためにも準備はしっかりと行う必要があるんだ。
主に食料関係だけどね。
「つまりご飯がいっぱい食べられるってことですね」
ライムがニッコリする。
むしろ少しずつ食べて節約しないといけないんだけど……。
言ったらガッカリするだろうから黙っていよう。
「ところで一角獣って、頭に角がある馬のことですか?」
「そうだよ。よく知ってるね」
体は真っ白で、頭に優美な角を生やしている。
人によってはユニコーンといった方が通じやすいかもしれない。
「何度か会ったことあります。同じ人間から逃げる仲間として、人間の出現地域などの情報を交換していました」
「へえ。モンスターのあいだでもそういうコミュニティみたいなのがあるんだね」
同じ仲間同士で情報を共有することはありそうだけど、他種族間でもできるのは知らなかったな。
「話ができる種族相手だけですけど」
「ということは、一角獣は話ができるの?」
前にあったときはそういう感じはなかったけど。
「人間のように口で言葉を出すわけではないです。スライムの時のわたしも一角獣も声は出せないので、テレパシーみたいな感じです」
「ライムもテレパシーができるの?」
「んー、ちょっと違うんですけど……。どちらにしても人間同士ではできないです」
「そっか。ちょっと残念だね」
「元の姿に戻って試しますか?」
「いや、無理にすることはないよ。まずは先に進もう」
街の外とはいえここはまだ人目が多い。
試すにしても違う場所の方がいいよね。
目的の場所は山を越えた先にある。
まずは最初の山に向かって歩くことにした。