こうしないと落ちちゃうからしかたないです♪
二階の一番奥の部屋。
いつも夫婦とか恋人同士の客が利用している部屋だった。
これまでは、どうして一人の客と二人の客で部屋をわけているのかわからなかったけど、初めて入ってようやくその意味を理解した。
ひとつのベッドに二つの枕が用意されている。これはもしかしなくてもそういうことだ。
思わず入り口で立ち尽くしている僕の脇をすり抜けてライムが室内に入った。
「あれ、ここ寝床ひとつなのに、枕は二つですね。ということは、カインさんと一緒に寝られるということですね!」
ベッドの上に飛び乗って満面の笑みを浮かべる。
「いつもは別々に寝るので寂しかったんです。さあ早く一緒に寝ましょう!」
無邪気な笑みで両手を差し出してくる。
一緒に寝ようというのは言葉そのままの意味で、ライムにはそれ以外のつもりなんてないだろう。
それはわかってる。わかってるけど……。
「ええと……」
わかっていても恥ずかしいものは恥ずかしい。
それに、そういうわけにはさすがにいかないというか……。
だけどこの部屋は泊まるためだけに利用されるものなので、ベッドの他には簡単なテーブルとイスしかない。
かわりに寝られそうなソファもなかった。
「しかたないから、僕は床で寝るよ」
野宿には慣れているから、地面で寝ることも多い。
宿屋の床なんてむしろ快適なくらいだ。
けど、ライムはぷくーっと頬を膨らませた。
「どうしてですか。たまにはカインさんと一緒がいいです」
「たまにはって……いつも僕のところに潜り込んでくるじゃないか……」
思い出して顔が熱くなってしまう。
でもライムは納得してくれなかった。
「それはそれ、これはこれです!」
ボンボンとベッドを叩いて僕も来るように促してくる。
そういう言葉はどこで覚えてくるんだろう……。僕が使ったことはないと思うんだけど……。
そのあいだにも、まっすぐな瞳をそらすことなくまっすぐに見つめてくる。
いつもは笑顔なライムがこんなに強い意志を示すなんて珍しい。
なんでそんなに頑固になってるかわからないけど……。
瞳を釣り上げてじいっと見つめられると、僕のほうが根負けして視線をそらしてしまった。
「うん、わかったよ。今日は一緒に寝よう」
「……!」
ぱああっとライムの顔が輝く。
そんな表情を見せられたらダメだなんて言えるわけないよね。
当たり前だけど、一人用のベッドは二人が眠るには狭い。
落ちないようにするだけで、ぴったりと密着する形になってしまう。
それでも少しでも離れようとしたんだけど、逆にライムのほうから僕の腕にギュッとしがみついてきた。
「あの、ライム、ちょっとくっつき過ぎじゃないかな……」
「こうしないと落ちちゃうからしかたないです♪」
全然仕方なくなさそうな弾んだ声で答え、ますますしがみつく力が強くなる。
実際に落ちてしまいそうなのは事実なので僕としても強く言えない。
がっしりと僕の腕にしがみついているので、ライムの体温が直に伝わってきた。
それだけじゃなくて、腕も、お腹も、ライムの体全部が柔らかくてあたたかかった。
それがライムだからなのか、それとも女の子の体はみんな同じようにあたたかいのか、僕にはわからないけど……。
「えへへ……カインさんと一緒、うれしいです」
すぐ目の前で浮かべられる無邪気な笑顔を見ていると、離れてなんて言えなくなってしまう。
仕方なく僕は天井を見つめて静かに息を吐きだした。
今日は眠れないかもなあ……。