二人でひとつの
「カインさんの妻です!」
「ちがうよ!?」
声高に宣言するライムを慌てて否定する。
そもそも妻と夫婦は意味同じだしね。
「あらあらあら、まあまあまあ、そうなの~」
女将さんがなぜだか上機嫌になる。
「てっきりカインのお嫁さんはセーラちゃんになると思ってたんだけど、こんなキレイな子を見つけてくるなんて、なかなかやるじゃないの」
「いえ、ライムはそういうんじゃなくて、親戚の子を預かってるんですよ」
「あらそうなのかい? ふうん……」
親戚の子を預かったなんて完璧なごまかし方だと思うんだけど、なぜかあんまり信じてもらえてないみたいだ。
まあ確かにライムは全然似てないし、親戚の子なんていっても信じてもらえないのかもしれないけど。
「ライムちゃんだっけ、カインの親戚っていってたけど、どこから来たんだい?」
「ええっと、その……。どこかはわからないんですけど、すっごく遠くです」
「あらまあ。住んでた街の名前も分からないのかい」
「人間の近くは危険なので、森にいました」
「森……?」
女将さんが困惑していた。
森に住んでたなんていわれたらそうなるよね。
「森の中にある街ってことかね……? 遠い国じゃそういうところもあるって聞いたけど……。とにかく、ライムちゃんはカインのことをどう思ってるんだい?」
ライムが首を傾げる。
「どう、ですか……?」
「好きなんじゃないのかい?」
「はい! 大好きです!」
力いっぱいうなずいた。
女将さんがニヤニヤした笑みで僕を見る。
「親戚の子にずいぶん好かれてるみたいだねえ?」
「いやあ、ははは……」
うーん、これはごまかしきれないな。
さっさと逃げよう。
「と、とにかく、今日の宿をお願いしますっ」
「おや、逃げるのかい。まあそれもいいさね。それで、今日は部屋はどうするんだい?」
「いつものでお願いします」
僕がこの宿屋で部屋を取るときは、いつも同じタイプの部屋を頼んでいる。
部屋の広さや料理の有無などで値段は変わるけど、僕はいつも一番安い一人部屋を頼んでるんだ。
ご飯は外で食べてくるし、部屋も寝るためだけに使うだけだから、それで十分なんだよね。
お店としてはもっと高い部屋を取ってほしいのかもしれないけど、僕も貧乏だから……。
僕が頼むと女将さんがちょっとだけ驚き、それからすぐに笑みに変わった。
「なあんだ、やっぱりそうなんじゃないか」
「そうって、なにがですか?」
「またまたとぼけちゃって。いつもと同じなんだろう。それなら二階に上がって突き当りにある部屋を使いな」
なにやら含みのある言い方だったけど、どういう意味なんだろう。
それにいつもの部屋といっていたけど、廊下の突き当たりにある部屋に案内されたのは初めてだ。
そこはいつも男女の旅行客などが使ってたと思うんだけど……。
よくわからないけど、とにかくまずは部屋に移動しよう。
いわれた扉の前に行き、受け取った鍵で中に入る。
女将さんの意味ありげな笑みの理由は、部屋に入った瞬間に理解した。
僕はいつもと同じ一人部屋を頼んだ。
ベッドが一つしかない狭い部屋だ。
それをライムと二人で使うということは……。
「あれ、ここ寝床ひとつなのに、枕は二つですね。ということは、カインさんと一緒に寝られるということですね!」
つまりそういう部屋だったんだ。




