はじめてのやどや
その後さらに20皿食べてようやくライムは満足した。
イベント側は大赤字じゃないかと心配になったけど、ライムのおかげでイベントは盛り上がり、しかも美味しそうに食べた料理は次々と飛ぶように売れていったため、逆に感謝されてしまった。
行商人の人たちにスカウトもされていたけど、それは笑顔で断っていた。
「カインさんはいきますか? え、いかない? じゃあわたしもいかないです」
満面の笑みでそういうものだから、周りの人たちから、うらやむような嫉妬するように視線を向けられてしまった。
素直なのはライムのいいところだけど、こうストレート過ぎるのはたまに困っちゃうよなあ。
イベントが終わるころにはちょうど日も傾いてきた時間になっていた。
ライムの優勝で賞金も手に入ったし、今日の目的もこれで達成したことになる。
「ちょうどいい時間だし、そろそろ宿に行こうか」
「ここにもカインさんの巣があるんですか?」
「人間は巣じゃなくて家っていうんだけどね。これから行くところは宿っていって、部屋を借りられるお店なんだ」
「捨てられた巣を再利用する感じですか?」
「ううーん……。そういう感じじゃなくて……」
ずっと自然の中で育ってきたライムに宿というのを教えるのはなかなか難しい。
行ってみるのが早いかな。
☆☆☆
「あらいらっしゃいカイン。もう戻ってきたのかい」
「前回のクエストは失敗しちゃったので」
行きつけの宿に入るなり、女将さんが僕に気が付いた。
前にもこの宿屋を利用したので、また来たことに驚かれたみたいだ。
「あらまあ。だから一角獣は難しすぎるといったのに」
「セーラにも同じこといわれました。でも次は大丈夫だと思うので」
「まあ若いうちはそうやって色々挑戦するのがいいさ。でもケガだけはしないようにね」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ部屋はいつもの……おや?」
女将さんの目が僕のとなりに移る。
ちょうど僕の後ろからライムが入ってきたところだった。
「ここが宿? ですか?」
キョロキョロと宿屋の中を見渡している。
ライムの姿を見て、女将さんの目の色が急に変わった。
「おやおやおや、えらいキレイな子がいるじゃないか。その子は誰だい?」
いかにも興味津々の様子で尋ねてくる。
興味を向けられたライムが、元気よく手を挙げた。
「はい! ライムといいます! カインさんの夫婦……じゃなかった、えっと……」
夫婦といおうとしたけど、僕が夫婦じゃないよといったのを思い出したみたいで、別の言葉を探そうと言葉をさまよわせる。
しばらく考えていたけど、どうやら見つかったみたいで、声高に宣言した。
「カインさんの妻です!」
「ちがうよ!?」




