新チャンピオン誕生
やがてライムの前にも子豚の丸焼きが運ばれてきた。
熱い肉汁が湯気と共に溢れ出すそれを輝く瞳で見つめていたけど、いきなり食べたりはせずに、チャンピオンのほうに目を向けた。
そっちでは、ちょうどチャンピオンが残りの半分に手を伸ばしたところだった。
「チャンピオンが早くも残り半分に手をかける! この量を前にまったくひるむことがない! 奴の胃袋は本当に底なしなのか!?」
ヒートアップする司会の人の声とともに、周囲からもどよめきのような声が聞こえはじめる。
なにしろ5人前はありそうな丸焼きなんだ。
それをぺろりと食べてしまうなんて、チャンピオンの脅威の食べっぷりに感嘆してるんだろう。
最初のブーイングはもう聞こえない。
それだけ本当にすごいってことなんだ。
これはさすがに勝ち目がない。
ライムはいったいどうするんだろうと思って目を向けてみたら、チャンピオンが豚の丸焼きを骨ごと丸飲みにする様子をじっと見つめていた。
いったい何をしてるのかと思ったけど、そういえば、最初は他の参加者の食べ方を見て真似するようにと約束したんだった。
ライムは僕の言ったことをちゃんと守っているようだ。
チャンピオンの食べ方を見た後、うんと元気よくうなずき、肉を丸ごと素手でつかんだ。
あっ、マズイ、と思った時にはもう遅かった。
豚の丸焼きを頭上に持ち上げると、口をめいっぱいに開き、そのまま一頭丸ごと口の中に放り込んだ。
バリバリ、ムシャムシャ、バキバキ、ゴクン!
ちゃんと僕の言う通りに三回かんでから飲み込んだ。
子豚ほどもある大きさの丸焼きを、骨ごと、一口で。
ライムが至福の笑みを浮かべる。
「ふわぁ~、ジューシーな肉汁と硬い骨の感触がとっても美味しいですー! おかわり!」
チャンピオンの口から食べ終えた骨がポロリとこぼれ落ちる。
「な、な、なんとーっ! ライム選手、骨付き肉を骨ごと噛み砕いたーっ! しかもそのうえでお代わりまで要求! まさかのチャンピオンが煽られる展開に!」
司会者が大興奮して叫ぶ。
チャンピオンも不敵な笑みを浮かべた。
「はははっ! 確かに『皿の上にあるものを完食すること』がルールだったな! だったら骨も残しちゃいけねえってわけだ。俺も負けてられねえな!」
チャンピオンが落ちた骨を拾い上げると、口に放り込む。
「まさか、食べる気なの!?」
決死の形相で目を見開き、強く顎を動かした。
ガッ……ガリガリ……ガキンッ!
「……くっ!」
口から骨がこぼれ落ちる。
かろうじて歯形がついていたけど、さすがに食べることはできなかったみたいだ。
それだけでも十分すごいけど。
やがてチャンピオンががっくりとうなだれた。
「……俺の、負けだ」
「ここでチャンピオンが敗北宣言! 30戦無敗の帝王がついに陥落! 新チャンピオンは細身の美少女、ライムだーっ!」
大歓声が沸き起こる。
新チャンピオンの誕生に広場はすっかり沸き返っていた。
突然の大声にびっくりしたライムがきょろきょろと周囲を見渡す。
「えっと、おかわりまだですか?」




