大食いスキル
参加手続きのためステージに向かうと、司会者の人がライムを見て驚いていた。
「君みたいな子が参加するなんて驚きだね」
「あれ食べていいんですよね! 全部!」
勢い込んで尋ねるライムに、司会者の人が苦笑する。
「もちろん食べられるだけ食べていいよ。ただ、ルールがあってね。まず一品お皿の上に置くから、それを食べると次の料理が運ばれてくるんだ」
なるほど、そうやって補充していくんだね。
続々と参加者も集まってきて、最終的に20人ほどの参加者がテーブルに着いた。
「挑戦者たちが集まりました。さあ、ここで我らが大食いチャンピオンの登場です!」
えっ、腕を組んでたあの人がチャンピオンじゃなかったの?
司会者の人に紹介されて出てきたのは、さっきの大柄の人をさらに縦にも横にも倍は大きくしたような、もう巨人かトロールっていったほうがいいんじゃないかってくらい大きな人だった。
「彼こそは大食い大会30連勝中、全国の街を食べ荒らした巨漢のフードファイター! 『大食い』スキルのゴンザレスだー!」
真のチャンピオンの登場に観客はどよめき、参加者たちはブーイングを上げ始める。
だって、てっきりさっきまでいた人がチャンピオンだと思ってたからね。
あの人なら勝てると思った参加者からしてみたら詐欺みたいなものだ。
でも、それも含めてイベントは早くも盛り上がっていた。
ふざけるなーとか、返り討ちにしてやれーとか、怒声なのか歓声なのかわからない声があちこちから挙がっている。
その声を聞きつけてさらに人が増えてるみたいだった。
行商人たちは色んな街を渡り歩いては同じイベントを繰り返しているんだろうし、これも計算の内なんだろうなあ。
それにしても「大食い」のスキルかあ。
普通なら食費が増えるだけでなんの役にも立たないスキルなんだろうけど。
どんなに役に立たないようなスキルに思えても、なにかしら使い道はあるものなんだね。
「それでは準備が整いましたので、さっそく始めていきます。大食い大会、スタート!」
司会者のかけ声と共に参加者たちが一斉に料理を食べ始める。
最初はご飯の炒め物だった。
小さくないお皿にこんもりと山を作っている。あれだけで二人前くらいありそうだ。
他の参加者たちがスプーンを持ってかきこむように食べ始めた。
ライムは皆の様子を見てから、同じようにスプーンを持って食べ始めた。
約束通り口に運び、三回かんでから飲み込む。
「ん~! 美味しいです~!」
そのペースは速くない。順位でいうなら最下位だ。
だけど、本当に美味しそうに食べるライムの笑顔に観客のすべてが見とれてしまっていた。
司会の人も楽しそうに声を張り上げる。
「いやー、いい笑顔ですね! あんなに美味しそうに食べてくれれば、作った人も料理のしがいがあるというものでしょう。
しかし勝負の世界は非情です。味わって食べるあいだにも他の参加者はどんどん先に行ってしまう。チャンピオン、さっそく一皿目を完食です!」
ええっ、もう!?
二人前はありそうだったご飯の山をぺろりと平らげてしまっていた。
あまりのスピードにどよめきが広がる。
ライムはまだ半分も食べていない。
開始早々からチャンピオンの独走状態だった。
これはさすがにライムも分が悪いかもしれないなあ。