大食い大会
屋台を後にしたあと、しばらく広場のイベントを見て回っていた。
本当にたくさんの出店があって、大勢の人が集まってきている。
かなり大所帯の行商人みたいだね。
串肉みたいなお店も多くて、そのたびにライムが引き寄せられていたけど、さすがに全部の店で食べるというわけにはいかなかった。
屋台の料理は美味しいけど、少し高いからね。
ライムは、全然平気ですなんていってくれたけど、食べるのが好きなライムが無理をしてガマンしてるのは表情を見れば明らかだった。
僕が貧乏なせいでかわいそうなことをしちゃったな。
ライムのためにもこれからはもっと稼ぐようにしないと。
そんなことを思いながら色々な出店を見て回っていると、やがて広場の中央がなんだか騒がしくなってきた。
「人間がいっぱい集まってます。どうしたんですか」
「何かやるみたいだね。しばらく待ってみようか」
待っているあいだに広場にステージのようなものが作られ、たくさんのテーブルやイスが並べられる。
どうも何かのイベントを始めるみたいだね。
やがてテーブルの上に大量の料理が運ばれてきた。
ざっと見ても2,30人分くらいはありそうだ。しかもまだまだ運ばれてくる。
一体何人分用意するつもりなんだろう。
それを見たライムが感極まった表情でつぶやく。
「お肉が……あんなにいっぱい……夢のようです……」
それにしてもあんなにたくさんの料理をどうするんだろう。
気が付いた周囲の人たちもざわめきはじめた。
いったい何が始まるのだろうと期待が膨れ上がっていくのがわかる。
やがて料理が山盛りになったテーブルに大柄な人が着席する。
ステージには司会者っぽい格好の人が現れた。
「さあ、これから始まるのはどの街でも大好評の大食い大会! ルールは簡単。食べて食べて食べまくって、最後の一人になるまで食べ続けるだけ! うちの大食いチャンピオンに勝てれば参加費は無料になり、さらには賞金1万ゴールドまでもらえるぞ! タダで料理を食べて金稼ぎまでできるチャンス! 参加料はたったの8000ゴールド! 胃袋に自信のある奴はどんどん参加してくれ!」
テーブルの真ん中には大柄な男の人が、腕を組み不敵な表情で座っている。
あの人が大食いチャンピオンなんだろう。
体も大きいし、確かにたくさん食べそうだ。
僕なんかではきっとあの人の十分の一も食べられないんじゃないだろうか。
でも……。
「たべ、ほうだい……? ほうだいって……、ぜんぶたべていいってこと……? あれぜんぶを……? ……ぜんぶを!? すきなだけ!?!?」
ライムが瞳を輝かせて山盛りの料理を見つめている。
「ライムはあれに出たいの?」
きいてみたら、ものすごい勢いで僕を振り向いた。
「食べていいんですか!?」
8000Gは決して安くない。僕の十日分くらいの食費はありそうだ。
それに僕たちはアイテムを買うお金が足りないからここに来たのであって、逆にお金を使ってしまったら本末転倒だ。
でも。
期待に満ちた目が僕をまっすぐに見つめている。
口からはよだれが今もだらだらとこぼれそうになっていた。
ライムを幸せにすると誓ったばかりで、この表情は裏切れないよね。
それにライムが負けるところを想像できないのも確かだ。
「わかったよ。好きなだけ食べておいで」
「やったー! カインさん大好きです!」
飛び跳ねるようにして抱き着いてくる。
「そのかわり、ひとつ約束してほしい。食べ物はちゃんと口に入れて、三回かんでから飲み込むこと。食べるときは、他の人の食べ方を見てから同じよう食べてね」
心配があるとすれば、無茶な食べ方をして正体がバレてしまうことだ。
またさっきみたいに串ごと食べられたら、今度こそ正体が気づかれてしまうかもしれない。
たまに手でつかんでそのまま体内に吸収しちゃうこともあるし。
でもそれさえなければ正体がバレるようなことはないはずだ。
「はい! わかりました!」
ものすごくいい返事のライム。
8000ゴールドは確かに高い。
でも、お金なんてまた稼げばいいんだ。
重要なのはいくら持ってるかじゃない。何に使ったかだからね。
「ありがとうございますカインさん!」
笑顔を弾けさせるライム。
この笑顔のためなら、たとえ百万ゴールドだったとしても全然高くないと思うんだ。