屋台って3割増しで美味しく感じるよね
クラインにいわれた町の広場に向かってみると、ちょっとしたお祭りのように盛り上がっていた。
その様子を見てライムが歓声を上げる。
「うわー、人間がいっぱいいますね! これはなにをやってるんですか?」
「行商人の一団が来てるみたいだね。それで出店を開いたり、見世物をしたりしてるみたいだ」
街から街にかけて旅をする行商人たちは、各地の商品を売り歩くだけじゃなくて、こうしてイベントを開くことで路銀を稼ぐこともあるんだ。
そのおかげで、この町の広場も活気づいているみたいだね。
色々な人が忙しそうに働いている。
これならたしかに僕でも何か力になれることがあるかもしれない。
とりあえず辺りを見て回ろうとすると、ライムがふらふらとした足取りでどこかへ歩きはじめた。
「いい匂いが……とってもいい匂いがしますう……」
夢の中みたいな足取りで歩いていく。
やがて僕にもいい匂いがしはじめた。
甘そうな香ばしい香りが食欲を引き立てる。
どうやら料理を出してる出店もあるみたいだね。
でも、このあたりじゃあまりなじみのない匂いだ。
僕も料理はするほうだけど、これは初めてだな。
きっと異国の料理なんだろう。
近寄ってみると肉を串にさして焼いたものを売っていた。
肉の表面にかけたタレが焦げ付いて美味しそうな匂いを発している。
それだけじゃなくて、たっぷりとかけたタレは肉から火にしたたり落ちていた。
火に落ちたタレが焦げて黒い煙をたなびかせる。
「ああ、タレがじゅうって焦げて……。こんなのズルいです、犯罪ですぅ……」
「これは、わざとたれを焦がしてるんですか?」
そんなことするなんてもったいない。掃除も大変になるし。
でも、客寄せの効果は高そうだ。
実際にこうしてライムがまんまと引き寄せられているしね。
「おっ、兄さん目ざといね。こうしたほうがお客さんを呼び込みやすいだろ。なあお嬢ちゃん」
となりのライムがはっとして口元のよだれをぬぐい、表情を引き締めた。
「い、いえっ、カインさんの料理以外に心奪われるわけには……っ」
「そんなこと気にしなくていいよ」
苦笑しながら答えた。
美味しいものは美味しいんだから。
「この串を二つください」
お金を払い、たれがたっぷりと掛かった肉串を二本受け取ると、片方をライムに渡した。
「え、これは……?」
「いらなかった? ライムが食べたそうに見えたんだけど」
「わあ、ありがとうございます! でも、どうして食べたいと思ってたのがわかったんですか?」
「たぶん誰でもわかるんじゃないかな」
よだれを垂らしながら食い入るように見つめてたからね。
僕はさっそく肉にかぶりつく。
噛むだけで肉汁が溢れ、タレと共に地面に落ちてしまう。もったいないけどそういうものだからね。
急いで食べたせいもあってあっという間になくなってしまった。
少ないわけじゃないけど、一本じゃ物足りない。食べたせいで逆におなかが空いてしまう絶妙な量だった。
ライムを見ると、口を大きく開けて、肉串を一口で食べてしまった。
「ふわあ、ふっごいあついれす」
「そんなに急いで食べるからだよ」
「れもふっごいおいひしいれすぅ」
陶酔した声をあげるライム。
大きく膨らんだ口がもごもごと動いていた。
タレを一滴もこぼさずに食べられるから、これはこれで正しい食べ方なのかもしれない。
僕にはちょっと真似できそうにないけど。
「喜んでもらえたならよかったよ」
ライムは感情がすべて顔に出る。
だから美味しい時は本当に美味しそうに食べるんだよね。
お店のおじさんもうれしそうにライムの食べっぷりを見ていた。
が、なにかに気が付いたのか、急に真顔になった。
「嬢ちゃん、そういや串はどうしたんだ?」
「ふひ?」
……あっ。
肉串は食べれば串が残る。
でもライムは一口に食べてしまっていた。串ごと。
モグモグ、ボキボキ、ムシャムシャ、ゴクン。
「ふわあー、美味しかったです! ごちそうさまでした!」
「……嬢ちゃん、もしかして串も一緒に食べちまったのか……?」
「くし? あの木の棒ですか? やわらかいお肉の中にボリボリした感触がとてもよかったです!」
店のおじさんがあんぐりと口を開けて固まっている。
しまった。ライムは元がスライムだから、その気になれば木でも石でもなんでも消化できてしまう。
ライムがなんでも食べるのはもう慣れてしまっていたので忘れてたけど、普通は串なんて食べないんだった。
「ええと! ライムはその、あごと胃袋が普通の人とは違うっていうか! けっこう何でも食べれちゃうんですよ!」
とっさに上手いフォローが浮かばなくて、そんなことしか言えなかった。
そのせいでまるでライムが変な女の子みたいな言い方になってしまった。ごめん。
でもライムは特に気にしなかったみたいだった。
「はい! 昔は石とか草とか食べてましたから!」
とんでもないことを大声で告白した。