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クラインの店

「うううー……。お尻痛いですー……」


 馬車から降りたライムが、お尻をさすりながら涙声を上げている。

 安物の馬車だし、ろくに整備もされてない街道だったからね。

 慣れてないとそうなっちゃうかも。


「これなら自分で走ったほうが早かったです~……」


「ライムならそうなんだろうけど、僕はそこまで速く走れないから。ごめんね」


「帰りはわたしがカインさんを抱えて走りましょうそうしましょう!」


 珍しくライムが大声で主張する。

 よっぽど嫌だったんだね。

 でも抱えて走るのはとても目立ちそうだから、やめておいたほうがいいかなあ。


☆☆☆


 ケープサイドに着いた僕たちは、まずは馴染みの店に向かうことにした。

 通い慣れた扉を開くと、雑多な空間が目の前に広がる。


「わあ、すごいお店ですね!」


 ライムが目を奪われて店内をキョロキョロと見渡している。

 ここは冒険者のための様々なアイテムがたくさん集められている店なんだ。

 店の八割が商品で埋められてるくらいだからね。


 だいたいのものはここにくれば手に入る。

 だから僕もよく利用してるんだ。

 ライムにとってはほとんどがはじめて見るものだから、目を輝かせて見入っていた。


「よういらっしゃい。カインじゃないか。また来たのか」


「うん。またお世話になりにきたよ」


 店主のクラインが商品の奥から顔を見せてきた。

 僕と変わらないくらいの年だけど、こうして自分の店を持ってる。すごい人なんだ。


 一角獣クエストのために前に来たばかりだからまだ覚えてたみたいだ。

 クラインは、僕が手にしていた商品にめざとく気がついたみたいだ。


「もしかしてまた一角獣に挑むのか」


「実はそうなんだ。前は失敗しちゃって」


「カインが失敗なんて珍しいな。一角獣には会えたんだろ」


「薬を作るところまではできたんだけど、その帰り道に……」


「カインさん、カインさん! これなんですか!?」


 説明しているところにライムがやってきた。

 僕の服を引っ張りながら、棚にぶら下がっているアイテムを指さしている。

 大量にあるアイテムの中からピンポイントでそれを見つけるとは、さすがライムというか。


「それはバーベキューグリルといってね……」


「おいおいおい、ちょっと待てよカイン!」


 クラインが僕たちの会話に割って入ってくる。


「そのすげーかわいい子は誰だよ!?」


 まあそうなるよね……。

 自分のことを聞かれているのだとわかったライムが元気良く手を挙げる。


「はい! ライムといいます! カインさんと一緒に暮らしてるんです」


 おお、ちゃんと自己紹介できるようなったんだね。

 成長したなあ。

 でも最後の一言をいう必要はなかったんじゃないかな?


「一緒に住んでるって、つまり付き合ってるってことか!?」


 思った通りクラインが食いついてくる。

 ライムは聞かれている意味が分からないようで首を傾げていた。


「つきあう……? よくわかりませんけど、他の人間には同棲とか結婚してるのかとかいわれます」


「同棲して結婚してる!?」


 驚きの目が僕を見る。

 あー、うん。

 言ってることは間違いではないんだけど。


「えっとね、ライムは僕の親戚で、たまたまこっちにきて……」


「セーラちゃんというかわいい子がいるのに、さらにこんなかわいい子まで見つけるなんて、意外とやるじゃねえか! どこで出会ったんだよ!」


「カインさんはわたしの命の恩人なんです」


 ライムが、そのときのことを話すのが嬉しくて仕方がないといった様子で話しはじめた。

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